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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.02748
Deibert et al. (2018)
High-Resolution Transit Spectroscopy of Warm Saturns
(ウォームサターンの高分散トランジット分光)
ドップラー相互相関技術を使って,惑星大気中のナトリウム,カリウムと水の吸収特徴を探査した.その結果,HAT-P-12b では 3.2 σ の信頼度でナトリウムによる吸収の兆候が見られた.これを元に,両惑星の大気の分子種とアルカリ金属の存在度に制約を与えた.
WASP-69b はカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の ESPaDOnS 分光器使用し,2017 年 6 月 10 日に観測を行った.
過去のこの惑星大気の解析では,雲の多い大気であることを示すスペクトルが見られ,検出可能な大気吸収特徴は非常に少ないことが明らかになっている.これは今回の観測結果とは整合的である.
Sing et al. (2016) と Alexoudi et al. (2018) では弱いカリウムの特徴の兆候を検出している.今回のデータでは同様の結果は得られていないが,データ中のノイズの影響か,トランジットの観測が一回のみということから,今回の観測は大気のカリウムを高い信頼度で検出するのに必要なシグナルノイズ比に達していなかった可能性がある.
過去に Casasayas-Barris et al. (2017) でこの惑星の観測が行われており,その際は中分散分光観測を HARPS-North 分光器で行っている.それによると,ナトリウムの二重項の D2 線を 5σ の信頼度で検出したと報告されているが.今回の結果とは異なる.
arXiv:1812.02748
Deibert et al. (2018)
High-Resolution Transit Spectroscopy of Warm Saturns
(ウォームサターンの高分散トランジット分光)
概要
トランジットする 2 つのサブサターン質量惑星の,可視光での高分散分光観測の結果について報告する.今回観測したのは HAT-P-12b,WASP-69b であり,どちらも一回のトランジットを観測した.ドップラー相互相関技術を使って,惑星大気中のナトリウム,カリウムと水の吸収特徴を探査した.その結果,HAT-P-12b では 3.2 σ の信頼度でナトリウムによる吸収の兆候が見られた.これを元に,両惑星の大気の分子種とアルカリ金属の存在度に制約を与えた.
観測
HAT-P-12b の観測にはすばる望遠鏡の HDS (High-Dispersion Spectrograph) を使用した.観測を行ったのは 2017 年 5 月 5 日である.WASP-69b はカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の ESPaDOnS 分光器使用し,2017 年 6 月 10 日に観測を行った.
観測結果と過去の観測との比較
HAT-P-12b
HAT-P-12b では,大気中のナトリウム吸収は 3.2σ の信頼度で検出された.これは過去のこの惑星の観測では検出されていなかったものである (Line et al. 2013とSing et al. 2016参照).なお.カリウムの検出は見られなかった.過去のこの惑星大気の解析では,雲の多い大気であることを示すスペクトルが見られ,検出可能な大気吸収特徴は非常に少ないことが明らかになっている.これは今回の観測結果とは整合的である.
Sing et al. (2016) と Alexoudi et al. (2018) では弱いカリウムの特徴の兆候を検出している.今回のデータでは同様の結果は得られていないが,データ中のノイズの影響か,トランジットの観測が一回のみということから,今回の観測は大気のカリウムを高い信頼度で検出するのに必要なシグナルノイズ比に達していなかった可能性がある.
WASP-69b
WASP-69b では,ナトリウムもカリウムも 3σ を超える信頼度での検出は得られなかった.過去に Casasayas-Barris et al. (2017) でこの惑星の観測が行われており,その際は中分散分光観測を HARPS-North 分光器で行っている.それによると,ナトリウムの二重項の D2 線を 5σ の信頼度で検出したと報告されているが.今回の結果とは異なる.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.03119
Nortmann et al. (2018)
Ground-based detection of an extended helium atmosphere in the Saturn-mass exoplanet WASP-69b
(土星質量系外惑星 WASP-69b における広がったヘリウム大気の地上からの検出)
ここでは地上での高分散分光観測から,土星質量の系外惑星 WASP-69b のトランジットの最中に 1083 nm ヘリウム三重項の超過吸収を検出した.観測のシグナルノイズ比は 18 であった.スペクトルの青方偏移として数 km s-1 の値を検出した,
また,トランジット後の吸収も検出した.これは,惑星から散逸していく一部の大気が惑星の後方に彗星のような形状を形成していると解釈できる.
大気散逸の検出としては,薄い大気中の 1083 nm でのヘリウムの吸収がその手段の一つとして挙げられている.この波長は,地球と系外惑星系の間にある星間物質の影響を受けないという特長がある.一方でこれまでよく探査に使われてきた水素のライマンアルファ線は星間物質による強い吸収の影響を受ける.
これまでに系外惑星大気におけるヘリウム吸収は,WASP-107b の透過スペクトル中に検出されており,これはハッブル宇宙望遠鏡を用いたものである.しかしこの観測は低分散であったため,吸収のラインの三重項,形状,深さや時間的変動は不明であった.
その結果,2 回のトランジットにおいてヘリウムの吸収深さはそれぞれ 3.96% と 3.00% であり,2 回の平均は 3.59% であった.また青方偏移の測定値は -10.69 km s-1 であり,散逸する大気の尾が形成されていることが示唆される.
GJ 436b と HD 209458b は,ヘリウム三重項のラインでそれぞれ 8% と 2% の吸収深さが予測されているが,過去の HD 209458b の観測では吸収は検出されていない (Moutou et al. 2003).
解析の結果,これらの惑星ではヘリウム吸収の兆候は検出されず,吸収深さの上限値として,GJ 436b では 90% 確度で上限値 0.41%,HD 209458b で 0.84% となり,これは予想されている水準と一致しない結果となった.また KELT-9b では 0.33% という上限値を与えた.
しかし HD 189733b では 1.04% の吸収となった.
なお,別の論文では HAT-P-11b という温暖な海王星サイズ惑星でヘリウム吸収が検出されている.
散逸する大気の拡大は,恒星からの極端紫外線の輻射と,惑星の密度などのパラメータに依存している.しかし惑星大気中のヘリウム三重項状態の存在度は,50.4 nm 未満の波長での輻射強度に依存している.
GJ 436b と HD 209458b は非常に静穏な恒星を公転しているが,ヘリウムが検出された WASP-69b ,HD 189733b,HAT-P-11b,WASP-107b は比較的活発な恒星を公転している.
ヘリウムの吸収高度を惑星大気のスケールハイトで規格化したものと,恒星の活動指数を比較すると,検出の傾向が示唆される.ヘリウム吸収の観測が行われているサンプル数は限られているものの,より活発な恒星を公転する惑星で検出される傾向がある.そのため中心星の活動度とヘリウムの検出可能性との関係が示唆される.
低質量の恒星 (スペクトル型 F, G, K, M 型) は対流層を持ち,恒星の自転と組み合わあって,磁気的活動に伴った現象を起こす.
低質量星の外層は,内側から外側に向かって,光球,彩層,遷移層,コロナと続く.一般に,恒星の活動指標の Ca II H, K 線のスペクトル特徴として検出されるのは恒星彩層での活動である.一方で遷移層とコロナは X 線と極端紫外線を放射している.
準安定の 23 S ヘリウム三重項状態は,観測される吸収線の中で最も低いエネルギー準位だが,これはヘリウム原子が 50.4 nm 未満の短波長の光子によって電離され,その後の電子との再結合によって生成される状態である.従って,高い X 線と極端紫外線 (のうち 50.4 nm より短波長) 輻射が,ヘリウム三重項を惑星大気中に形成するのを増幅する.
ヘリウム吸収高度をスケールハイトで規格化したものと,X 線とヘリウム準安定状態生成に効く極端紫外線のフラックスを比較すると,サンプル数が少ないものの,両者の間には相関が見られることが分かる.
arXiv:1812.03119
Nortmann et al. (2018)
Ground-based detection of an extended helium atmosphere in the Saturn-mass exoplanet WASP-69b
(土星質量系外惑星 WASP-69b における広がったヘリウム大気の地上からの検出)
概要
これまでの系外惑星からの大気散逸の研究は,宇宙空間からの水素ライマンアルファ線での観測に依存してきた.しかしライマンアルファ線は星間空間での吸収に大きく影響を受けるという欠点がある.ここでは地上での高分散分光観測から,土星質量の系外惑星 WASP-69b のトランジットの最中に 1083 nm ヘリウム三重項の超過吸収を検出した.観測のシグナルノイズ比は 18 であった.スペクトルの青方偏移として数 km s-1 の値を検出した,
また,トランジット後の吸収も検出した.これは,惑星から散逸していく一部の大気が惑星の後方に彗星のような形状を形成していると解釈できる.
大気組成とヘリウムの検出
これまでに,高分散分光観測で系外惑星の大気組成が探られてきた.CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exoearths with Near-infrared and optical Echelle Spectrograph) はその装置の一つである.大気散逸の検出としては,薄い大気中の 1083 nm でのヘリウムの吸収がその手段の一つとして挙げられている.この波長は,地球と系外惑星系の間にある星間物質の影響を受けないという特長がある.一方でこれまでよく探査に使われてきた水素のライマンアルファ線は星間物質による強い吸収の影響を受ける.
これまでに系外惑星大気におけるヘリウム吸収は,WASP-107b の透過スペクトル中に検出されており,これはハッブル宇宙望遠鏡を用いたものである.しかしこの観測は低分散であったため,吸収のラインの三重項,形状,深さや時間的変動は不明であった.
観測結果
WASP-69b でのヘリウム検出
WASP-69b は,活発な恒星の周りを 3.868 日周期で公転している.大気のスケールハイトが大きく,また惑星と恒星の半径比が大きく,Na D 線の吸収深さが 5.8% あり,大気の研究に適した対象である.CARMENES を用いてこの惑星を 2017 年 8 月 22 日と 9 月 22 日に観測した.その結果,2 回のトランジットにおいてヘリウムの吸収深さはそれぞれ 3.96% と 3.00% であり,2 回の平均は 3.59% であった.また青方偏移の測定値は -10.69 km s-1 であり,散逸する大気の尾が形成されていることが示唆される.
その他の短周期惑星での上限値
また CARMENES の観測結果から,他の惑星の結果も解析した.ここで解析したのは,HD 189733b と HD 209458b の 2 つのホットジュピター,極めて高温のホットジュピター KELT-9b,ウォームネプチューン GJ 436b である.GJ 436b と HD 209458b は,どちらもライマンアルファ線で大気蒸発が検出されており,また KELT-9b ではバルマー Hα 線で蒸発する大気が検出されている.GJ 436b と HD 209458b は,ヘリウム三重項のラインでそれぞれ 8% と 2% の吸収深さが予測されているが,過去の HD 209458b の観測では吸収は検出されていない (Moutou et al. 2003).
解析の結果,これらの惑星ではヘリウム吸収の兆候は検出されず,吸収深さの上限値として,GJ 436b では 90% 確度で上限値 0.41%,HD 209458b で 0.84% となり,これは予想されている水準と一致しない結果となった.また KELT-9b では 0.33% という上限値を与えた.
しかし HD 189733b では 1.04% の吸収となった.
なお,別の論文では HAT-P-11b という温暖な海王星サイズ惑星でヘリウム吸収が検出されている.
準安定ヘリウムの検出と惑星周辺環境
なぜこれらの似た高温のガス系外惑星でヘリウム吸収の値が異なるのだろうか?散逸する大気の拡大は,恒星からの極端紫外線の輻射と,惑星の密度などのパラメータに依存している.しかし惑星大気中のヘリウム三重項状態の存在度は,50.4 nm 未満の波長での輻射強度に依存している.
GJ 436b と HD 209458b は非常に静穏な恒星を公転しているが,ヘリウムが検出された WASP-69b ,HD 189733b,HAT-P-11b,WASP-107b は比較的活発な恒星を公転している.
ヘリウムの吸収高度を惑星大気のスケールハイトで規格化したものと,恒星の活動指数を比較すると,検出の傾向が示唆される.ヘリウム吸収の観測が行われているサンプル数は限られているものの,より活発な恒星を公転する惑星で検出される傾向がある.そのため中心星の活動度とヘリウムの検出可能性との関係が示唆される.
低質量の恒星 (スペクトル型 F, G, K, M 型) は対流層を持ち,恒星の自転と組み合わあって,磁気的活動に伴った現象を起こす.
低質量星の外層は,内側から外側に向かって,光球,彩層,遷移層,コロナと続く.一般に,恒星の活動指標の Ca II H, K 線のスペクトル特徴として検出されるのは恒星彩層での活動である.一方で遷移層とコロナは X 線と極端紫外線を放射している.
準安定の 23 S ヘリウム三重項状態は,観測される吸収線の中で最も低いエネルギー準位だが,これはヘリウム原子が 50.4 nm 未満の短波長の光子によって電離され,その後の電子との再結合によって生成される状態である.従って,高い X 線と極端紫外線 (のうち 50.4 nm より短波長) 輻射が,ヘリウム三重項を惑星大気中に形成するのを増幅する.
ヘリウム吸収高度をスケールハイトで規格化したものと,X 線とヘリウム準安定状態生成に効く極端紫外線のフラックスを比較すると,サンプル数が少ないものの,両者の間には相関が見られることが分かる.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1053 Allart et al. (2018) および Mansfield et al. (2018) ウォームネプチューン HAT-P-11b でのヘリウム大気の検出
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.02189
Allart et al. (2018)
Spectrally resolved helium absorption from the extended atmosphere of a warm Neptune-mass exoplanet
(ウォームネプチューン質量系外惑星の広がった大気からのスペクトル分解されたヘリウム吸収)
ここでは,温暖な海王星質量惑星 HAT-P-11b における,近赤外線での中性ヘリウムの三重項のスペクトルの検出を報告する.地上望遠鏡を用いた,高分散観測を行った.
観測は Calar Alto 3.5 m 望遠鏡の CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exo-earths with Near-infrared and optical Echelle Spectrographs) を用いて行われた.トランジットは 2017 年 8 月 7 日と 12 日の 2 回観測された.
その結果,ヘリウムの特徴は 2 回の独立した観測で繰り返し観測された.ヘリウムの吸収波長における平均吸収深さは 1.08% であった.
3 次元シミュレーションを元に吸収スペクトルの解釈を行った結果,この惑星では高層大気が 5 惑星半径にまで広がっていることが示唆された.惑星大気のスケールハイトは大きく,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 が上限値と推定される.
また,全体の吸収の青方偏移の値は,惑星の昼側から夜側への 3 km s-1 の速度の高高度の風で説明できる可能性がある.
4.89 日周期で HAT-P-11 を公転している.
軌道周期-惑星質量のパラメータ空間において,海王星質量の惑星の存在度が少ない「蒸発砂漠 (evaporation desert)」の縁に位置している.
ヘリウム I 三重項は,23P 状態と準安定の23S 状態の遷移によって発生する.これは一階電離状態からの電子との再結合か,基底状態からの衝突励起によって実現される.
ヘリウム三重項は,トランジットの最中に分光学的かつ時間的に分解することができる.これは観測の頻度が高く,さらに高スペクトル分散であるためである.三重項のうち最も強い 2 つのラインは混合している.3 つ目のラインは最も吸収が弱く波長も最も青い側にあるが,他の 2 つのラインとは波長的に分解できる.
これらの遷移は,地球大気での強い水のライン吸収や OH 放射の波長域から外れているため,これらの特徴との混合を避けることができる.またこのスペクトル領域は恒星の強い吸収特徴からも離れている.
2 回の観測に置いて,visit 1 では吸収深さ 0.82%,visit 2 では 1.21% であった.2 回のトランジットにおける吸収深さの違いは,惑星大気サイズの変動か,あるいはヘリウム密度の変動に起因するものと考えられる.
ヘリウム吸収プロファイルの最大は 1.2% 程度に到達した.これを光学的に厚い半径に直すと 2.29 惑星半径に相当する.
また,外気圏からの寄与は無視できることが示唆され,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 以下と推定される.この推定値は,He I 三重項付近でのスペクトルが対称な形状であることと整合的である.
これらの特徴から,この惑星でのヘリウムの吸収は大部分が球状の層のガスで起きており,依然として惑星に重力的に束縛されている領域でヘリウム吸収が起きていることが示される.
トランジット後のヘリウム吸収が見られないこと,また強い青方偏移のヘリウムの遷移が見られないことから,惑星から尾を引くような形状でヘリウム原子が広がっている可能性は否定される.これは,GJ 436b で見られているような細長い水素外気圏とは異なる特徴である.GJ 436b は HAT-P-11b と同じような密度を持つウォームネプチューンである.ベストフィットモデルでは,5 - 6.5 惑星半径における準安定ヘリウムの数密度は ~ 10 cm-3 と推定され,GJ 436b でのシミュレーションした密度と同じ範囲内である.
惑星の影にいるヘリウム原子は,元々の散逸の軌跡を保つ.これは惑星から散逸した際の軌道速度によって決まる軌跡である.これは 131 分の寿命で準安定ヘリウムの放射脱励起が起きるまで続く.
惑星の影の外側では,ヘリウム原子はこの寿命よりも速く強い恒星の輻射圧によって吹き流される.輻射圧は水素のライマンアルファ波長よりもヘリウム三重項波長のほうがずっと強い.これは中心星は近赤外線の連続波で明るいからである.
惑星から散逸している準安定ヘリウム原子へ働く中心星の輻射圧は,中心星からの重力よりも 90 倍ほど大きい.一方で G, K 型星まわりの惑星の水素外気圏では 5 倍程度となる.
準安定ヘリウムの光電離のための閾値が低いことは,この惑星の軌道距離における準安定ヘリウムの寿命がわずか 2.4 分で,なぜ惑星では彗星の尾のような形状の外気圏が検出されなかったのかを説明することができる.
そのため HAT-P-11b と GJ 436b 両方のウォームネプチューンの周りには広がった高層大気が存在していると考えられる.この 2 つの惑星は同程度の質量と半径を持っているが,中心星のスペクトル型は異なり (それぞれ K, M 型),XUV 放射強度も異なることから,高層大気は異なる構造を生成することが予想される.とはいえ,HAT-P-11b 大気の高高度にヘリウムが存在することは,この惑星でも大量の水素が外気圏へと散逸していることを示唆している.
arXiv:1812.02214
Mansfield et al. (2018)
Detection of Helium in the Atmosphere of the Exo-Neptune HAT-P-11b
(系外海王星 NAT-P-11b の大気におけるヘリウム検出)
ここでは同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いてホットネプチューン HAT-P-11b を観測し,4σ の確度でヘリウムが検出されたことを報告する.
観測結果を一次元の流体散逸モデルと比較し,惑星大気の熱圏の温度と質量放出率を推定した.その結果,ベストフィットの質量放出率は 109 - 1011 g s-1 という高い値と整合的であった.
惑星風の兆候は直接検出されなかったが,今回のデータはこの惑星は流体力学的な大気散逸を経験していることと整合的であることを示した.
推定される質量散逸率は,この惑星が一生の間に失う質量は惑星全体の数%でしかなく,全体の組成は大きくは影響を受けないと考えられる.これは,半径が 2 地球半径よりも大きい近接惑星は水素・ヘリウム主体大気を持つことを示唆する系外惑星の種族統計からの予想と合致するものである.
また地上観測では CARMENES 装置を用いた観測でも独立にこの惑星大気中からヘリウムを検出している,これは,光蒸発の同じ特徴が地上観測と宇宙空間からの観測の両方で確認された初めての例である.
arXiv:1812.02189
Allart et al. (2018)
Spectrally resolved helium absorption from the extended atmosphere of a warm Neptune-mass exoplanet
(ウォームネプチューン質量系外惑星の広がった大気からのスペクトル分解されたヘリウム吸収)
概要
恒星による加熱は,恒星に近接した軌道を持つ系外惑星の大気を加熱し拡大させ,散逸させる.これらの広がった大気は,主要なスペクトルの特徴を持つ中性水素の紫外線波長で検出するのは難しい.これは,紫外線は星間物質によって強く吸収されてしまうからである.ここでは,温暖な海王星質量惑星 HAT-P-11b における,近赤外線での中性ヘリウムの三重項のスペクトルの検出を報告する.地上望遠鏡を用いた,高分散観測を行った.
観測は Calar Alto 3.5 m 望遠鏡の CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exo-earths with Near-infrared and optical Echelle Spectrographs) を用いて行われた.トランジットは 2017 年 8 月 7 日と 12 日の 2 回観測された.
その結果,ヘリウムの特徴は 2 回の独立した観測で繰り返し観測された.ヘリウムの吸収波長における平均吸収深さは 1.08% であった.
3 次元シミュレーションを元に吸収スペクトルの解釈を行った結果,この惑星では高層大気が 5 惑星半径にまで広がっていることが示唆された.惑星大気のスケールハイトは大きく,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 が上限値と推定される.
また,全体の吸収の青方偏移の値は,惑星の昼側から夜側への 3 km s-1 の速度の高高度の風で説明できる可能性がある.
HAT-P-11b
HAT-P-11b は温暖な海王星クラスの系外惑星で,27.74 地球質量,4.36 地球半径である4.89 日周期で HAT-P-11 を公転している.
軌道周期-惑星質量のパラメータ空間において,海王星質量の惑星の存在度が少ない「蒸発砂漠 (evaporation desert)」の縁に位置している.
ヘリウム三重項の特徴
ヘリウム吸収の特徴は,恒星の静止座標から見て青方偏移していることが期待される.そのため,青方偏移の特徴は吸収のシグナルが恒星由来か惑星由来かを識別するのを助ける.ヘリウム I 三重項は,23P 状態と準安定の23S 状態の遷移によって発生する.これは一階電離状態からの電子との再結合か,基底状態からの衝突励起によって実現される.
ヘリウム三重項は,トランジットの最中に分光学的かつ時間的に分解することができる.これは観測の頻度が高く,さらに高スペクトル分散であるためである.三重項のうち最も強い 2 つのラインは混合している.3 つ目のラインは最も吸収が弱く波長も最も青い側にあるが,他の 2 つのラインとは波長的に分解できる.
これらの遷移は,地球大気での強い水のライン吸収や OH 放射の波長域から外れているため,これらの特徴との混合を避けることができる.またこのスペクトル領域は恒星の強い吸収特徴からも離れている.
観測と解析結果
観測結果の概要
惑星大気によるヘリウムの吸収強さは 1.08% (21σ) であった.吸収の特徴は惑星の静止座標において He I 三重項の中心の波長に位置していた.この吸収は惑星がトランジットを起こしている最中に発生し,また 2 回のトランジットで繰り返し検出された.2 回の観測に置いて,visit 1 では吸収深さ 0.82%,visit 2 では 1.21% であった.2 回のトランジットにおける吸収深さの違いは,惑星大気サイズの変動か,あるいはヘリウム密度の変動に起因するものと考えられる.
ヘリウム吸収プロファイルの最大は 1.2% 程度に到達した.これを光学的に厚い半径に直すと 2.29 惑星半径に相当する.
シミュレーションとの比較
この結果を 3D シミュレーションコードで解釈した.その結果,ベストフィットの熱圏界面高度は 5 惑星半径からロッシュローブ (6.5 惑星半径) の間に存在することが示唆された.吸収特徴のスペクトル線の広がりは,熱的な広がり (thermal broadening) が大部分を占める.しかし惑星大気の熱圏の上向きの拡大が最大で 10 km s-1 分だけ寄与している.これはこの惑星に対して期待されていた値の範囲内である.また,外気圏からの寄与は無視できることが示唆され,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 以下と推定される.この推定値は,He I 三重項付近でのスペクトルが対称な形状であることと整合的である.
これらの特徴から,この惑星でのヘリウムの吸収は大部分が球状の層のガスで起きており,依然として惑星に重力的に束縛されている領域でヘリウム吸収が起きていることが示される.
トランジット後のヘリウム吸収が見られないこと,また強い青方偏移のヘリウムの遷移が見られないことから,惑星から尾を引くような形状でヘリウム原子が広がっている可能性は否定される.これは,GJ 436b で見られているような細長い水素外気圏とは異なる特徴である.GJ 436b は HAT-P-11b と同じような密度を持つウォームネプチューンである.ベストフィットモデルでは,5 - 6.5 惑星半径における準安定ヘリウムの数密度は ~ 10 cm-3 と推定され,GJ 436b でのシミュレーションした密度と同じ範囲内である.
HAT-P-11b の放射環境と惑星大気
これらのシミュレーションからは,HAT-P-11b まわりの放射環境について制約を与えることができる.中心星 HAT-P-11 は K4 型星である.惑星の影にいるヘリウム原子は,元々の散逸の軌跡を保つ.これは惑星から散逸した際の軌道速度によって決まる軌跡である.これは 131 分の寿命で準安定ヘリウムの放射脱励起が起きるまで続く.
惑星の影の外側では,ヘリウム原子はこの寿命よりも速く強い恒星の輻射圧によって吹き流される.輻射圧は水素のライマンアルファ波長よりもヘリウム三重項波長のほうがずっと強い.これは中心星は近赤外線の連続波で明るいからである.
惑星から散逸している準安定ヘリウム原子へ働く中心星の輻射圧は,中心星からの重力よりも 90 倍ほど大きい.一方で G, K 型星まわりの惑星の水素外気圏では 5 倍程度となる.
準安定ヘリウムの光電離のための閾値が低いことは,この惑星の軌道距離における準安定ヘリウムの寿命がわずか 2.4 分で,なぜ惑星では彗星の尾のような形状の外気圏が検出されなかったのかを説明することができる.
そのため HAT-P-11b と GJ 436b 両方のウォームネプチューンの周りには広がった高層大気が存在していると考えられる.この 2 つの惑星は同程度の質量と半径を持っているが,中心星のスペクトル型は異なり (それぞれ K, M 型),XUV 放射強度も異なることから,高層大気は異なる構造を生成することが予想される.とはいえ,HAT-P-11b 大気の高高度にヘリウムが存在することは,この惑星でも大量の水素が外気圏へと散逸していることを示唆している.
arXiv:1812.02214
Mansfield et al. (2018)
Detection of Helium in the Atmosphere of the Exo-Neptune HAT-P-11b
(系外海王星 NAT-P-11b の大気におけるヘリウム検出)
概要
波長 10833 Å でのヘリウムの吸収は,系外惑星からの大気散逸を探査するための手段として提案されている.ヘリウムの特徴は最近,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いてホットジュピター WASP-107b で初検出されている.ここでは同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いてホットネプチューン HAT-P-11b を観測し,4σ の確度でヘリウムが検出されたことを報告する.
観測結果を一次元の流体散逸モデルと比較し,惑星大気の熱圏の温度と質量放出率を推定した.その結果,ベストフィットの質量放出率は 109 - 1011 g s-1 という高い値と整合的であった.
惑星風の兆候は直接検出されなかったが,今回のデータはこの惑星は流体力学的な大気散逸を経験していることと整合的であることを示した.
推定される質量散逸率は,この惑星が一生の間に失う質量は惑星全体の数%でしかなく,全体の組成は大きくは影響を受けないと考えられる.これは,半径が 2 地球半径よりも大きい近接惑星は水素・ヘリウム主体大気を持つことを示唆する系外惑星の種族統計からの予想と合致するものである.
また地上観測では CARMENES 装置を用いた観測でも独立にこの惑星大気中からヘリウムを検出している,これは,光蒸発の同じ特徴が地上観測と宇宙空間からの観測の両方で確認された初めての例である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.02453
Salz et al. (2018)
Detection of He I λ10830 Å absorption on HD 189733 b with CARMENES high-resolution transmission spectroscopy
(CARMENES 高分散透過光分光による HD 189733b でのヘリウム I 10830 Å 吸収の検出)
トランジットを起こしている最中の平均吸収レベルは 0.88 % であり,この観測での測定範囲は ± 10 km s-1 の波長域である.また合計の青方偏移の大きさは -3.5 km s-1 である.
トランジットの ingress (入り) と egress (出現) の最中での吸収シグナルの視線速度は,それぞれ +6.5 と -12.6 km s-1 であった.これらの視線速度は全て惑星静止座標系で測定した場合の速度である.
解析の結果,恒星活動に関連する疑似シグナルが,惑星大気吸収シグナルに干渉することを示す.恒星活動による擬似シグナルは,観測されたシグナルの内最大で 80% に寄与しており,観測された視線速度の特徴にも影響を与えるが,疑似シグナルによって観測されたシグナルの全てを説明できる可能性は非常に低い.
観測された線比 (分解されていない 2 つの線とヘリウム I 三重項の三番目の線との比) は 2.8 で,光学的に薄い大気に対して期待される値とは大きく離れている.これを惑星大気による吸収だと解釈する場合,わずか 0.2 惑星半径の広がりしか持たないコンパクトなヘリウム大気であることを示しており,その柱密度は 4 × 1012 cm-2 である.
観測された大気の視線速度は,赤道スーパーローテーションにともなう大気循環か,惑星から散逸する物質の非対称大気成分の兆候のどちらとも解釈できる.またトランジット前や後での吸収の特徴のような,物質が惑星のロッシュローブを超えて存在していたり,吸収の視線速度が脱出速度を超えているなど,大気蒸発が進行中であることを示す明確な特徴は検出されなかった.
ただし上記の発見は惑星の大気蒸発が起きている事とは矛盾しない.しかし今回の HD 189733b でのヘリウム吸収の検出は,明確な惑星からの大気散逸の特徴を示すような大気層をトレースしていないだけだと言うことを示している.
その他には,紫外線波長 (ライマンアルファ線など) でも検出が報告されており,HD 209458b,HD 189733b,WASP-12b,GJ 436b で紫外線による広がった水素大気の存在が報告されている.ライマンアルファ線での観測は宇宙空間の観測装置でしか行うことが出来ず,またさらに重要なことは,星間物質がライマンアルファ線のスペクトルのコア部分を吸収してしまうという問題がある.これは,最も近い部類の恒星に対しても起きる問題である.そのためライマンアルファ線の吸収シグナルは,10 km s-1 周辺のものは全て抑えられてしまう.
実際の観測では,WASP-107b でハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測で大気中のヘリウム吸収の検出が報告されている (Spake et al. 2018).その他,WASP-69b でも CARMENES を用いた観測で吸収が検出されている (Nortmann et al. 2018).
arXiv:1812.02453
Salz et al. (2018)
Detection of He I λ10830 Å absorption on HD 189733 b with CARMENES high-resolution transmission spectroscopy
(CARMENES 高分散透過光分光による HD 189733b でのヘリウム I 10830 Å 吸収の検出)
概要
Calar Alto の CARMENES 高分散分光器を用いて,HD 189733b のトランジットを 3 回観測した.その結果,近赤外線でのヘリウム I 三重項 10830 Å での強い吸収シグナルを検出した.トランジットを起こしている最中の平均吸収レベルは 0.88 % であり,この観測での測定範囲は ± 10 km s-1 の波長域である.また合計の青方偏移の大きさは -3.5 km s-1 である.
トランジットの ingress (入り) と egress (出現) の最中での吸収シグナルの視線速度は,それぞれ +6.5 と -12.6 km s-1 であった.これらの視線速度は全て惑星静止座標系で測定した場合の速度である.
解析の結果,恒星活動に関連する疑似シグナルが,惑星大気吸収シグナルに干渉することを示す.恒星活動による擬似シグナルは,観測されたシグナルの内最大で 80% に寄与しており,観測された視線速度の特徴にも影響を与えるが,疑似シグナルによって観測されたシグナルの全てを説明できる可能性は非常に低い.
観測された線比 (分解されていない 2 つの線とヘリウム I 三重項の三番目の線との比) は 2.8 で,光学的に薄い大気に対して期待される値とは大きく離れている.これを惑星大気による吸収だと解釈する場合,わずか 0.2 惑星半径の広がりしか持たないコンパクトなヘリウム大気であることを示しており,その柱密度は 4 × 1012 cm-2 である.
観測された大気の視線速度は,赤道スーパーローテーションにともなう大気循環か,惑星から散逸する物質の非対称大気成分の兆候のどちらとも解釈できる.またトランジット前や後での吸収の特徴のような,物質が惑星のロッシュローブを超えて存在していたり,吸収の視線速度が脱出速度を超えているなど,大気蒸発が進行中であることを示す明確な特徴は検出されなかった.
ただし上記の発見は惑星の大気蒸発が起きている事とは矛盾しない.しかし今回の HD 189733b でのヘリウム吸収の検出は,明確な惑星からの大気散逸の特徴を示すような大気層をトレースしていないだけだと言うことを示している.
大気の散逸
可視光と紫外線での観測
系外惑星の広がった水素大気は,KELT-9b において可視光波長 (Hα 線) で検出が報告されている (Yan & Henning 2018).その他には,紫外線波長 (ライマンアルファ線など) でも検出が報告されており,HD 209458b,HD 189733b,WASP-12b,GJ 436b で紫外線による広がった水素大気の存在が報告されている.ライマンアルファ線での観測は宇宙空間の観測装置でしか行うことが出来ず,またさらに重要なことは,星間物質がライマンアルファ線のスペクトルのコア部分を吸収してしまうという問題がある.これは,最も近い部類の恒星に対しても起きる問題である.そのためライマンアルファ線の吸収シグナルは,10 km s-1 周辺のものは全て抑えられてしまう.
ヘリウムの赤外線波長での観測
ヘリウム I の 10830 Å 波長の観測の重要性を初めて強調したのは Seager & Sasselov (2000) である.その後 Oklopcˇic ́ & Hirata (2018) では,一次元大気モデルを使って散逸する大気のヘリウム観測について調べられた.実際の観測では,WASP-107b でハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測で大気中のヘリウム吸収の検出が報告されている (Spake et al. 2018).その他,WASP-69b でも CARMENES を用いた観測で吸収が検出されている (Nortmann et al. 2018).
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.01624
Millholland & Laughlin (2018)
Obliquity Tides May Drive WASP-12b's Rapid Orbital Decay
(自転軸潮汐が WASP-12b の急速な軌道崩壊を駆動している可能性)
動力学的な恒星潮汐を起こしているという可能性はあり得るが,その場合は中心星 WASP-12 が準巨星のような構造を持っている必要がある.一方で恒星モデルは中心星は主系列段階であることを示しており,準巨星であるとは考えられない.
ここでは,惑星 WASP-12b の自転ベクトルが,発見されていない外側の擾乱惑星との永年自転軌道共鳴によって維持される高自転軸傾斜角状態に捕獲されている場合,惑星の自転軸潮汐によって軌道の減衰が説明できることを示す.
このシナリオに則って様々なパラメータに対して制約を与え,惑星の自転軸は 50° 以上,低下した潮汐の Q 値は 106 - 107 と推定される.また外側で WASP-12b に擾乱を与えている惑星は,10-20 地球質量,軌道長半径 0.04 AU 程度以下とすると,観測されている WASP-12b の軌道崩壊を説明可能である.
直接 N 体計算で潮汐と自転力学を入れた場合も,このシナリオに信頼性があることを示した.さらに,WASP-12b の傾きが小さい時にこの共鳴に捕獲される可能性があることを示し,これは提案された一連の事象を説明しやすくする.
仮説上の外側の擾乱惑星は,この系における現在の視線速度観測からの制約の範囲内にあるが,現在の技術で検出可能でもある.もし存在したとすると,ホットジュピターのその場形成仮説に有利な証拠となる可能性がある.
しかし,外側の駆動天体によって軌道離心率と自転軸傾斜角がゼロではない値に維持されていた場合,潮汐散逸は継続できる.惑星の軌道エネルギーが潮汐を介して熱に変換される割合は,自転軸傾斜角の強い増加関数となる.
arXiv:1812.01624
Millholland & Laughlin (2018)
Obliquity Tides May Drive WASP-12b's Rapid Orbital Decay
(自転軸潮汐が WASP-12b の急速な軌道崩壊を駆動している可能性)
概要
大きく膨張した半径を持つホットジュピター WASP-12b の軌道周期は急速に減衰していることが分かっている.しかしこの減衰の割合は,離心率潮汐や平衡恒星潮汐で説明するには速すぎる.動力学的な恒星潮汐を起こしているという可能性はあり得るが,その場合は中心星 WASP-12 が準巨星のような構造を持っている必要がある.一方で恒星モデルは中心星は主系列段階であることを示しており,準巨星であるとは考えられない.
ここでは,惑星 WASP-12b の自転ベクトルが,発見されていない外側の擾乱惑星との永年自転軌道共鳴によって維持される高自転軸傾斜角状態に捕獲されている場合,惑星の自転軸潮汐によって軌道の減衰が説明できることを示す.
このシナリオに則って様々なパラメータに対して制約を与え,惑星の自転軸は 50° 以上,低下した潮汐の Q 値は 106 - 107 と推定される.また外側で WASP-12b に擾乱を与えている惑星は,10-20 地球質量,軌道長半径 0.04 AU 程度以下とすると,観測されている WASP-12b の軌道崩壊を説明可能である.
直接 N 体計算で潮汐と自転力学を入れた場合も,このシナリオに信頼性があることを示した.さらに,WASP-12b の傾きが小さい時にこの共鳴に捕獲される可能性があることを示し,これは提案された一連の事象を説明しやすくする.
仮説上の外側の擾乱惑星は,この系における現在の視線速度観測からの制約の範囲内にあるが,現在の技術で検出可能でもある.もし存在したとすると,ホットジュピターのその場形成仮説に有利な証拠となる可能性がある.
Obliquity tide について
潮汐トルクは,惑星の自転と公転を同期させようという方向に働く.また潮汐は惑星の軌道離心率と自転軸傾斜角をゼロに減衰させようとする方向に働く.しかし,外側の駆動天体によって軌道離心率と自転軸傾斜角がゼロではない値に維持されていた場合,潮汐散逸は継続できる.惑星の軌道エネルギーが潮汐を介して熱に変換される割合は,自転軸傾斜角の強い増加関数となる.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1012 Alexoudi et al. (2018) HAT-P-12b の透過スペクトルの再解釈