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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.08257
MacGregor et al. (2018)
Detection of a Millimeter Flare From Proxima Centauri
(プロキシマ・ケンタウリからのミリメートル波フレアの検出)
解析の結果,3 月 24 日の ACA での観測の最中に,プロキシマ・ケンタウリで大きなフレアイベントが発生していたことが明らかになった.イベントは全体でおよそ 1 分間継続した.フレア極大での電波フラックス密度は 100 ± 4 mJy であり,これは恒星が静穏な時期の放射よりも 1000 倍程度大きい値である.
フレアの極大では,連続放射は周波数の急激に低下するスペクトル指数によって特徴付けられ,\(F_{\nu}\propto\nu^{\alpha}\) とした時に \(\alpha=-1.77\pm0.45\) で表される.また,偏光の下限値は |Q/I| = 0.19 ± 0.02 である.
ACA の観測では,恒星が静穏な時期には放射の超過はみられなかったため,先行研究で報告されている,プロキシマ・ケンタウリから 1 - 4 AU の範囲のダスト帯の存在を仮定する必要はないと結論付けた.
また,ALMA の 12 m 口径望遠鏡での観測で得られたフラックス密度は 101 µJy であり,赤外線波長での観測から外挿して推定したフラックス密度の 74 µJy に対して僅かな超過を見せる.この超過は,おそらくは継続的な小さいフレアによるコロナ加熱によるものだと考えられる.このような現象は,M 型矮星のフレア星である AU Mic (けんびきょう座 AU 星) で見られる.
これが正しければ,プロキシマ・ケンタウリから ~ 0.4 AU の距離の温暖なダスト帯の存在を仮定する必要もないと結論付けられる.
しかし,スペクトル型 M5.5V のプロキシマ・ケンタウリは,頻繁に恒星フレアを起こすフレア星として知られている.これまでに,中心星の変動がその周囲の惑星の特性に与える影響について研究されてきた.
Anglada et al. (2017) では,ALMA 12 m と ACA の観測から,プロキシマ・ケンタウリの周りに 3 つのダスト帯が存在する可能性を示唆している.それぞれ,
(1) ~ 0.4 AU の warm dust
(2) 1 - 4 AU の cold belt
(3) ~ 30 AU の外側ベルト
である
Anglada et al. (2017) では,(1) と (3) は暫定的な検出であり,(2) は確実な検出であると主張されている.今回の再解析では,ACA での観測最中に大きなフレアイベントがあることがわかったため,少なくとも (1) と (2) のダスト帯からの電波放射が存在するという仮説は再検証する必要がある.
arXiv:1802.08257
MacGregor et al. (2018)
Detection of a Millimeter Flare From Proxima Centauri
(プロキシマ・ケンタウリからのミリメートル波フレアの検出)
概要
プロキシマ・ケンタウリの,ALMA と ACA を用いて観測したデータの再解析を行った.観測周波数は 233 GHz (波長は 1.3 mm) で,観測の感度は ALMA が 9.5 µJy beam-1,ACA が 47 µJy beam-1 である.データは 2017 年 1 月 21 日 - 4 月 25 日の間に取得されたものである.解析の結果,3 月 24 日の ACA での観測の最中に,プロキシマ・ケンタウリで大きなフレアイベントが発生していたことが明らかになった.イベントは全体でおよそ 1 分間継続した.フレア極大での電波フラックス密度は 100 ± 4 mJy であり,これは恒星が静穏な時期の放射よりも 1000 倍程度大きい値である.
フレアの極大では,連続放射は周波数の急激に低下するスペクトル指数によって特徴付けられ,\(F_{\nu}\propto\nu^{\alpha}\) とした時に \(\alpha=-1.77\pm0.45\) で表される.また,偏光の下限値は |Q/I| = 0.19 ± 0.02 である.
ACA の観測では,恒星が静穏な時期には放射の超過はみられなかったため,先行研究で報告されている,プロキシマ・ケンタウリから 1 - 4 AU の範囲のダスト帯の存在を仮定する必要はないと結論付けた.
また,ALMA の 12 m 口径望遠鏡での観測で得られたフラックス密度は 101 µJy であり,赤外線波長での観測から外挿して推定したフラックス密度の 74 µJy に対して僅かな超過を見せる.この超過は,おそらくは継続的な小さいフレアによるコロナ加熱によるものだと考えられる.このような現象は,M 型矮星のフレア星である AU Mic (けんびきょう座 AU 星) で見られる.
これが正しければ,プロキシマ・ケンタウリから ~ 0.4 AU の距離の温暖なダスト帯の存在を仮定する必要もないと結論付けられる.
プロキシマ・ケンタウリについて
プロキシマ・ケンタウリ系の特徴
プロキシマ・ケンタウリは,視線速度法を用いて地球質量の惑星プロキシマb がハビタブルゾーン内に検出されている恒星である (Anglada-Escud ́e et al. 2016).また,未確認であるが,トランジット候補イベントの検出も報告されている (Li et al. 2017).しかし,スペクトル型 M5.5V のプロキシマ・ケンタウリは,頻繁に恒星フレアを起こすフレア星として知られている.これまでに,中心星の変動がその周囲の惑星の特性に与える影響について研究されてきた.
プロキシマ・ケンタウリのダスト帯
ここでは,ALMA 12 m 口径望遠鏡と Atacama Compact Array (ACA) を用いた 233 GHz での観測の新しい解析について報告する.解析に用いたデータは,Anglada et al. (2017) で公開されているものである.Anglada et al. (2017) では,ALMA 12 m と ACA の観測から,プロキシマ・ケンタウリの周りに 3 つのダスト帯が存在する可能性を示唆している.それぞれ,
(1) ~ 0.4 AU の warm dust
(2) 1 - 4 AU の cold belt
(3) ~ 30 AU の外側ベルト
である
Anglada et al. (2017) では,(1) と (3) は暫定的な検出であり,(2) は確実な検出であると主張されている.今回の再解析では,ACA での観測最中に大きなフレアイベントがあることがわかったため,少なくとも (1) と (2) のダスト帯からの電波放射が存在するという仮説は再検証する必要がある.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.08320
Damasso et al. (2018)
Eyes on K2-3: A system of three likely sub-Neptunes characterized with HARPS-N and HARPS
(K2-3 への視点:HARPS-N と HARPS で特徴付けられた 3 つのサブネプチューンを持つと思われる系)
K2-3 は近傍 (45 pc) の早期 M 型星で,3 個の小さいトランジット惑星を持っていることが分かっている,これらの惑星のうち,最も外側を公転する惑星は,恒星の (楽観的な) ハビタブルゾーンの内縁に近い位置にある.K2-3 系は,3 個の惑星の正確な質量と密度を決定することを目的としたフォローアップ観測に適している.
ここでは,HARPS-N と HARPS の分光器を用いて取得した,2.5 年にわたる 329 セットの視線速度測定と恒星の活動シグナルの適切な取扱を用いて,K2-3 系の惑星の質量と密度の測定の改善を行った.これによって得られた結果を,各惑星の物理的構造を調べるために用いた.
視線速度データの中では,恒星活動に起因する変動成分が最も強かったものの,K2-3b と c の質量を導出することが出来た.それぞれ,6.6 ± 1.1 地球質量,3.1 (+1.3, -1.2) 地球質量であった.
なお K2-3d による視線速度の変動は検出されなかった.これは,恒星自身の活動に誘起される視線速度シグナルに比べて,K2-3d による視線速度変動の振幅が小さいことが原因だと考えられる.また,K2-3d の公転周期は K2-3 の自転周期と近いため,K2-3d によるシグナルの検出を複雑にする可能性がある.
シミュレートしたデータ中に注入されたシグナルを復元する手法に基いて質量を推定した結果,K2-3d の質量は,暫定的に 2.7 (+1.2, -0.8) 地球質量と推定される.
今回の質量測定からは,K2-3 の 3 惑星の密度と内部構造は類似している可能性が示唆される.各惑星は,岩石コアの上部に小さい水素ヘリウムエンベロープ (全質量の < 1%) を持つか,あるいは重い水の層 (全体の質量の 50% 以上) を持つかのどちらかであると考えられる.
K2-3c と d の密度にさらなる制約を与えることは難しい.特に,HARPS-N および HARPS での高頻度な視線速度観測を行ったとしても,K2-3d のドップラーシグナルを検出することはできないだろう.
arXiv:1802.08320
Damasso et al. (2018)
Eyes on K2-3: A system of three likely sub-Neptunes characterized with HARPS-N and HARPS
(K2-3 への視点:HARPS-N と HARPS で特徴付けられた 3 つのサブネプチューンを持つと思われる系)
概要
M 型矮星は,ハビタブルな環境である可能性のある惑星を同定して,特徴付けを行うための有望な観測ターゲットである.K2-3 は近傍 (45 pc) の早期 M 型星で,3 個の小さいトランジット惑星を持っていることが分かっている,これらの惑星のうち,最も外側を公転する惑星は,恒星の (楽観的な) ハビタブルゾーンの内縁に近い位置にある.K2-3 系は,3 個の惑星の正確な質量と密度を決定することを目的としたフォローアップ観測に適している.
ここでは,HARPS-N と HARPS の分光器を用いて取得した,2.5 年にわたる 329 セットの視線速度測定と恒星の活動シグナルの適切な取扱を用いて,K2-3 系の惑星の質量と密度の測定の改善を行った.これによって得られた結果を,各惑星の物理的構造を調べるために用いた.
視線速度データの中では,恒星活動に起因する変動成分が最も強かったものの,K2-3b と c の質量を導出することが出来た.それぞれ,6.6 ± 1.1 地球質量,3.1 (+1.3, -1.2) 地球質量であった.
なお K2-3d による視線速度の変動は検出されなかった.これは,恒星自身の活動に誘起される視線速度シグナルに比べて,K2-3d による視線速度変動の振幅が小さいことが原因だと考えられる.また,K2-3d の公転周期は K2-3 の自転周期と近いため,K2-3d によるシグナルの検出を複雑にする可能性がある.
シミュレートしたデータ中に注入されたシグナルを復元する手法に基いて質量を推定した結果,K2-3d の質量は,暫定的に 2.7 (+1.2, -0.8) 地球質量と推定される.
今回の質量測定からは,K2-3 の 3 惑星の密度と内部構造は類似している可能性が示唆される.各惑星は,岩石コアの上部に小さい水素ヘリウムエンベロープ (全質量の < 1%) を持つか,あるいは重い水の層 (全体の質量の 50% 以上) を持つかのどちらかであると考えられる.
K2-3c と d の密度にさらなる制約を与えることは難しい.特に,HARPS-N および HARPS での高頻度な視線速度観測を行ったとしても,K2-3d のドップラーシグナルを検出することはできないだろう.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.08385
Puranam & Batygin (2018)
Chaotic Excitation and Tidal Damping in the GJ 876 System
(GJ 876 系でのカオス的な励起と潮汐減衰)
この系の長期的な進化と,中心星に近接した軌道を持つ惑星全般の運命に関して,重要な疑問点が存在する.それは,最も内側を公転する惑星が持つ軌道離心率は,宇宙の年齢と同程度のタイムスケールにおいて,潮汐円軌道化に対抗してどのように維持されているのかという点である.
ここでは確率的な永年摂動理論と N 体シミュレーションを用いて,最も内側の惑星の軌道離心率は,外因的なカオス的な強制力と,潮汐散逸の間の微妙なバランスによって保たれていることを示す.そのため,この内側惑星の軌道離心率を測定することは,その惑星の潮汐の Q 値の間接的な測定を行っていることに相当する.
現在の GJ 876 系の惑星の配置に基づくと,スーパーアース GJ 876d の潮汐の Q 値は,104-5 と推定される.これは太陽系の巨大ガス惑星の典型的な値である.
後に GJ 876b の内側に,軌道長半径 0.13 AU,0.7 木星質量の GJ 876c が発見された.この惑星は GJ 876b と 2:1 の軌道共鳴に入っている (Marcy et al. 2001).
さらに GJ 876c の内側,軌道長半径 0.02 AU のスーパーアース GJ 876d が発見された (Rivera et al. 2005),
また,最も外側に天王星質量惑星 GJ 876e が発見された (Rivera et al. 2010).GJ 876e は軌道長半径 0.35 AU で 120 日周期である,GJ 876c-b-e の 3 惑星で,ラプラス共鳴と呼ばれる共鳴状態に入っている.
(1) M 型星のまわりでは木星型惑星は希少であること (Valenti and Fischer 2005)
(2) GJ 876c-b-e のラプラス共鳴は速い力学的カオスを持つが,これは木星のガリレオ衛星のラプラス共鳴のようなよく揃った状態ではない (Batygin et al. 2015)
という点で独特の惑星系である.
さらに,短周期のスーパーアース GJ 876d は,興味深いことにやや大きい軌道離心率 e = 0.05 - 0.15 を持っている (Correia et al. 2010,Nelson et al. 2016,Trifonov et al. 2018,Millholland et al. 2018).
潮汐散逸による円軌道化を受けているにも関わらず,このような明確にゼロでない軌道離心率を持っている理由は分かっていなかった.
arXiv:1802.08385
Puranam & Batygin (2018)
Chaotic Excitation and Tidal Damping in the GJ 876 System
(GJ 876 系でのカオス的な励起と潮汐減衰)
概要
M 型矮星 GJ 876 は,複数の系外惑星を持つ系としては最も太陽系に近い.この系は,カオス的なラプラス型の共鳴に入っている外側の 3 つの惑星と,軌道離心率が大きい短周期のスーパーアースを持っており,系外惑星系の動力学の観点からユニークな例の一つである.この系の長期的な進化と,中心星に近接した軌道を持つ惑星全般の運命に関して,重要な疑問点が存在する.それは,最も内側を公転する惑星が持つ軌道離心率は,宇宙の年齢と同程度のタイムスケールにおいて,潮汐円軌道化に対抗してどのように維持されているのかという点である.
ここでは確率的な永年摂動理論と N 体シミュレーションを用いて,最も内側の惑星の軌道離心率は,外因的なカオス的な強制力と,潮汐散逸の間の微妙なバランスによって保たれていることを示す.そのため,この内側惑星の軌道離心率を測定することは,その惑星の潮汐の Q 値の間接的な測定を行っていることに相当する.
現在の GJ 876 系の惑星の配置に基づくと,スーパーアース GJ 876d の潮汐の Q 値は,104-5 と推定される.これは太陽系の巨大ガス惑星の典型的な値である.
GJ 876 系について
GJ 876 系の惑星の発見
GJ 876b は 2.2 木星質量の惑星である.軌道周期は 60 日で,中心星から 0.2 AU の距離を公転している (Marcy et al. 1998).この惑星は,系外惑星の中でも最も早い時期に発見されたホットジュピターである.後に GJ 876b の内側に,軌道長半径 0.13 AU,0.7 木星質量の GJ 876c が発見された.この惑星は GJ 876b と 2:1 の軌道共鳴に入っている (Marcy et al. 2001).
さらに GJ 876c の内側,軌道長半径 0.02 AU のスーパーアース GJ 876d が発見された (Rivera et al. 2005),
また,最も外側に天王星質量惑星 GJ 876e が発見された (Rivera et al. 2010).GJ 876e は軌道長半径 0.35 AU で 120 日周期である,GJ 876c-b-e の 3 惑星で,ラプラス共鳴と呼ばれる共鳴状態に入っている.
GJ 876 系の軌道の特徴
GJ 876 系は,(1) M 型星のまわりでは木星型惑星は希少であること (Valenti and Fischer 2005)
(2) GJ 876c-b-e のラプラス共鳴は速い力学的カオスを持つが,これは木星のガリレオ衛星のラプラス共鳴のようなよく揃った状態ではない (Batygin et al. 2015)
という点で独特の惑星系である.
さらに,短周期のスーパーアース GJ 876d は,興味深いことにやや大きい軌道離心率 e = 0.05 - 0.15 を持っている (Correia et al. 2010,Nelson et al. 2016,Trifonov et al. 2018,Millholland et al. 2018).
潮汐散逸による円軌道化を受けているにも関わらず,このような明確にゼロでない軌道離心率を持っている理由は分かっていなかった.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.07723
Socas-Navarro (2018)
Possible Photometric Signatures of Moderately Advanced Civilizations: The Clarke Exobelt
(やや進化した文明の有り得る測光的特徴:系外クラークベルト)
系外文明のうち,クラークベルトの領域に高密度で人工的な装置や宇宙ゴミを持つが,それ以外では宇宙技術的には我々と似た段階の文明は (ここでは ”moderately advanced”,やや進化している,とする),中心星の光度曲線の中に人工物による顕著な痕跡を残す可能性がある.
そのような特徴への主要な寄与は,系外クラークベルトの縁の部分で,幾何学的投影によってベルトの不透明度が最大になる部分によって引き起こされる.
ここでは,いくつかの可能性のあるシナリオについて,数値シミュレーションを実行した.いくつかのケースでは,部分的な face-on での不透明度が 10-4 の系外クラークベルトは,現状の装置でも容易に観測可能であると予想される.また,系外クラークベルトと天然の天体の環のシミュレーションを用いて,光度曲線中で両者をどのように区別できるかを定量化した.
arXiv:1802.07723
Socas-Navarro (2018)
Possible Photometric Signatures of Moderately Advanced Civilizations: The Clarke Exobelt
(やや進化した文明の有り得る測光的特徴:系外クラークベルト)
概要
ここでは,トランジットする系外惑星上に存在する中程度に進化した文明の存在を示すための,新しい指標について提案する.それは,静止衛星や地球同期衛星が公転しているであろう,惑星周辺の領域を測光観測によって探査するというものである.この領域を,地球での Clarke belt (クラークベルト) に倣って,以後 Clarke exobelt (系外クラークベルト) と呼称する.系外文明のうち,クラークベルトの領域に高密度で人工的な装置や宇宙ゴミを持つが,それ以外では宇宙技術的には我々と似た段階の文明は (ここでは ”moderately advanced”,やや進化している,とする),中心星の光度曲線の中に人工物による顕著な痕跡を残す可能性がある.
そのような特徴への主要な寄与は,系外クラークベルトの縁の部分で,幾何学的投影によってベルトの不透明度が最大になる部分によって引き起こされる.
ここでは,いくつかの可能性のあるシナリオについて,数値シミュレーションを実行した.いくつかのケースでは,部分的な face-on での不透明度が 10-4 の系外クラークベルトは,現状の装置でも容易に観測可能であると予想される.また,系外クラークベルトと天然の天体の環のシミュレーションを用いて,光度曲線中で両者をどのように区別できるかを定量化した.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.07725
Bell & Cowan (2018)
Increased Heat Transport in Ultra-Hot Jupiter Atmospheres Through H2 Dissociation/Recombination
(H2 の解離/再結合を介した超高温ホットジュピター大気中の熱輸送の増加)
ここでは,分子状水素の解離と再結合による熱力学的な帰結を理解するための第一歩の研究を行う.惑星大気中での東向きの風を伴ったシンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,大気中での水素分子の解離・再結合は,ウルトラホットジュピターの昼夜間熱輸送を大きく増加させるはたらきがあることを示す.
ここでのウルトラホットジュピターとは,惑星表面のいずれかの部分が 2200 K 程度よりも高温になっている巨大ガス系外惑星を指す.
このような惑星では,大部分の水素分子の解離は強い輻射を受けている昼側半球で発生し,昼側で注入されたエネルギーのいくらかを夜側へ輸送する.その後夜側半球では水素原子は水素分子へと再結合する.この機構は潜熱と類似している.
仮に大気の速度が一定の場合は,これは熱の再循環効率を増加させる働きがある.代わりに,測定されているウルトラホットジュピターでの熱再循環効率からは,水素分子の解離・再結合の影響を考慮した場合,東向きの大気の風速はより低速であることが要求される.
ウルトラホットジュピターは表面温度が恒星に近く,H- イオンの束縛-自由遷移と自由-自由遷移に起因する不透明度が,二次食で検出された惑星の昼側のスペクトルの連続成分における大気不透明度において,重要な役割を果たしていることが指摘されている (Bell et al. 2017,Arcangeli et al. 2018).
水素原子が再結合して水素分子を形成する反応は顕著な発熱過程であり,2.14 × 108 J kg-1 のエネルギーを解放する.これは水の凝結に伴う潜熱の解放よりも 100 倍以上大きな値である.
参考として,水の潜熱の効果は地球での熱の再循環のおよそ半分を占めているが,ウルトラホットジュピターでは水素分子の解離再結合はより大きな影響になると予想される (100 倍程度).そのため,風によって恒星直下点から東向きに流されるに従って水素原子が水素分子へ再結合し,潜熱を解放して東側の半球を大きく加熱することが期待される.
夜側からガスが流れ続けて昼側へ来ると,温度が高くなるため水素分子は再び解離し,この反応によって西側半球を冷却することになる.位相曲線のモデリングに際してこの効果を考慮しない場合,これは WASP-12b で過去に報告があったように,ホットスポットの ”非物理的に” 大きな東方向へのオフセット (Cowan et al. 2012) として現れる可能性がある.
系外惑星の大気循環モデルは複数存在するが,水素分子の再結合・解離に伴うエネルギー解放・吸収による加熱・冷却を考慮したものはこれまでに存在しない.ここでは,シンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,解離・再結合に伴う影響を定性的に評価した.
またこのモデルでは予想される風速の予言はできず,その他の様々な力,例えば磁場による力 (1400 K 以上で重要になると思われる,Koll & Komacek 2017) などを考慮する必要がある.また水素分子の解離・再結合と中心星輻射のみを考慮したが,ここでは内部から供給される形成時の残余熱は無視している.ただし残余熱については,10 億歳より年老いた惑星では無視できる (Burrows et al. 2006).
また,潮汐加熱,粘性加熱,オーム加熱は考慮していない.さらに惑星表面について一応なアルベドを仮定しているが,これは一般には正しくない.
しかしこの傾向には,高温の惑星ではいくつかの例外がある事が報告されている.
最近では,Zhang et al. (2018) で,ウルトラホットジュピターである WASP-33b での熱の再循環効率が 0.2 程度と見積もられている.これは,理論的な予測や観測からの傾向よりも高い値である.
WASP-12b もおそらくは異様に高い熱循環効率を持っており,シンプルな熱移流モデルに期待されるよりも大きなホットスポットの位相のオフセットを示す (Cowan et al. 2012).ただし,水素分子の解離・再結合からの二次フーリエ級数項の指数からは,位相曲線はより鋭いピークを持つようになることが期待されるため,Cowan et al. (2012) の観測で WASP-12b に見られているような二重ピークの位相曲線を説明するのは難しいと考えられる.WASP-12b に関しては将来の観測で,スピッツァー宇宙望遠鏡の機器によるアーティファクトが原因かどうかの決定が必要である.
また,Arcangeli et al. (2018) が WASP-18b の大気中の水素解離・再結合の兆候を発見する一方,Maxted et al. (2013) は昼夜間の熱再循環効率が非常に小さいことを指摘している.このことは,WASP-18b は非常に弱い風を持っているか,あるいは水素分子の解離・再結合が惑星の熱再循環に大きな役割を果たすには WASP-18b は低温過ぎるということを示唆している.
最後に,スピッツァー宇宙望遠鏡や将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による,現在知られている中で最も高温なウルトラホットジュピターである KELT-9b (Gaudi et al. 2017) の観測を行うことで,ここで提案している理論を検証することが出来るだろう.
arXiv:1802.07725
Bell & Cowan (2018)
Increased Heat Transport in Ultra-Hot Jupiter Atmospheres Through H2 Dissociation/Recombination
(H2 の解離/再結合を介した超高温ホットジュピター大気中の熱輸送の増加)
概要
近年,ultra-hot Jupier (UHJ,ウルトラホットジュピター) という新しい分類の系外惑星が発見され始めている.このような惑星の昼側の大気は非常に高温になるため,大部分の分子成分が解離するという,恒星大気により一層似た状態になっている.これらの分子種の解離の効果は多岐にわたるため,影響については注意深く考慮する必要がある.ここでは,分子状水素の解離と再結合による熱力学的な帰結を理解するための第一歩の研究を行う.惑星大気中での東向きの風を伴ったシンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,大気中での水素分子の解離・再結合は,ウルトラホットジュピターの昼夜間熱輸送を大きく増加させるはたらきがあることを示す.
ここでのウルトラホットジュピターとは,惑星表面のいずれかの部分が 2200 K 程度よりも高温になっている巨大ガス系外惑星を指す.
このような惑星では,大部分の水素分子の解離は強い輻射を受けている昼側半球で発生し,昼側で注入されたエネルギーのいくらかを夜側へ輸送する.その後夜側半球では水素原子は水素分子へと再結合する.この機構は潜熱と類似している.
仮に大気の速度が一定の場合は,これは熱の再循環効率を増加させる働きがある.代わりに,測定されているウルトラホットジュピターでの熱再循環効率からは,水素分子の解離・再結合の影響を考慮した場合,東向きの大気の風速はより低速であることが要求される.
研究背景
ウルトラホットジュピターでの水素分子の解離・再結合
多くの巨大ガス惑星は,水素分子を主成分とする大気を持つ.しかし温度が 2200 K 程度を超えると,大部分の水素分子は熱解離を起こす (Langmuir 1912).このような温度の系外惑星は,単なるホットジュピターではなく,ウルトラホットジュピターと呼ぶ場合もある.これほどの温度になっているものは今のところ一握りしか発見されていないが,将来の TESS ミッションでは ~ 1500 個は発見されるだろうと期待されている.ウルトラホットジュピターは表面温度が恒星に近く,H- イオンの束縛-自由遷移と自由-自由遷移に起因する不透明度が,二次食で検出された惑星の昼側のスペクトルの連続成分における大気不透明度において,重要な役割を果たしていることが指摘されている (Bell et al. 2017,Arcangeli et al. 2018).
※参考記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.586 Bell et al. (2017) WASP-12b の二次食観測と非常に低いアルベド
天文・宇宙物理関連メモ vol.704 Arcangeli et al. (2018) 非常に高温なホットジュピター WASP-18b 大気と水素負イオンの不透明度への寄与
このことは,高温領域では水素分子が解離していることを示す結果であるが,水素分子の解離と再結合の熱力学的な効果についてはこれまでに調査されてこなかった.天文・宇宙物理関連メモ vol.586 Bell et al. (2017) WASP-12b の二次食観測と非常に低いアルベド
天文・宇宙物理関連メモ vol.704 Arcangeli et al. (2018) 非常に高温なホットジュピター WASP-18b 大気と水素負イオンの不透明度への寄与
ホットジュピターの大気循環と熱再分配効率への影響
ホットジュピターの昼夜間の温度差は,恒星から受ける輻射が増加するのに伴って大きくなることが期待される.これは理論的にも (Perez-Becker & Showman 2013,Komacek & Showman 2016など),観測的にも (Zhang et al. 2018,Schwartz et al. 2017) 予測されている.ウルトラホットジュピターでは,昼夜間の温度勾配が 1000 K 以上になることも有り得ると考えられる.惑星の昼夜間の温度が大きく変化すると,局所熱平衡の水素分子解離率も変化する.水素原子が再結合して水素分子を形成する反応は顕著な発熱過程であり,2.14 × 108 J kg-1 のエネルギーを解放する.これは水の凝結に伴う潜熱の解放よりも 100 倍以上大きな値である.
参考として,水の潜熱の効果は地球での熱の再循環のおよそ半分を占めているが,ウルトラホットジュピターでは水素分子の解離再結合はより大きな影響になると予想される (100 倍程度).そのため,風によって恒星直下点から東向きに流されるに従って水素原子が水素分子へ再結合し,潜熱を解放して東側の半球を大きく加熱することが期待される.
夜側からガスが流れ続けて昼側へ来ると,温度が高くなるため水素分子は再び解離し,この反応によって西側半球を冷却することになる.位相曲線のモデリングに際してこの効果を考慮しない場合,これは WASP-12b で過去に報告があったように,ホットスポットの ”非物理的に” 大きな東方向へのオフセット (Cowan et al. 2012) として現れる可能性がある.
系外惑星の大気循環モデルは複数存在するが,水素分子の再結合・解離に伴うエネルギー解放・吸収による加熱・冷却を考慮したものはこれまでに存在しない.ここでは,シンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,解離・再結合に伴う影響を定性的に評価した.
モデル
シンプルな大気モデルを用いて定性的な評価を行う.大気の温度-圧力構造の影響はここでは無視し,惑星の光球での圧力を 0.1 bar と固定して考える.また大気循環は東方向のみの循環を考え,子午面の循環などはここでは無視する.また剛体回転を仮定し,風速の緯度方向・経度方向・高度方向・あるいは時間変動は考慮しない.またこのモデルでは予想される風速の予言はできず,その他の様々な力,例えば磁場による力 (1400 K 以上で重要になると思われる,Koll & Komacek 2017) などを考慮する必要がある.また水素分子の解離・再結合と中心星輻射のみを考慮したが,ここでは内部から供給される形成時の残余熱は無視している.ただし残余熱については,10 億歳より年老いた惑星では無視できる (Burrows et al. 2006).
また,潮汐加熱,粘性加熱,オーム加熱は考慮していない.さらに惑星表面について一応なアルベドを仮定しているが,これは一般には正しくない.
議論と結論
理論と観測の双方から,惑星が受ける輻射が増加すると,大気中の熱の再循環は弱くなる傾向にある事が示されている (Komacek & Showman 2016, Schwartz et al. 2017など).つまり,受ける輻射が増加すると,非効率な熱の循環のせいで昼夜間の温度差は増加する傾向がある.しかしこの傾向には,高温の惑星ではいくつかの例外がある事が報告されている.
最近では,Zhang et al. (2018) で,ウルトラホットジュピターである WASP-33b での熱の再循環効率が 0.2 程度と見積もられている.これは,理論的な予測や観測からの傾向よりも高い値である.
WASP-12b もおそらくは異様に高い熱循環効率を持っており,シンプルな熱移流モデルに期待されるよりも大きなホットスポットの位相のオフセットを示す (Cowan et al. 2012).ただし,水素分子の解離・再結合からの二次フーリエ級数項の指数からは,位相曲線はより鋭いピークを持つようになることが期待されるため,Cowan et al. (2012) の観測で WASP-12b に見られているような二重ピークの位相曲線を説明するのは難しいと考えられる.WASP-12b に関しては将来の観測で,スピッツァー宇宙望遠鏡の機器によるアーティファクトが原因かどうかの決定が必要である.
また,Arcangeli et al. (2018) が WASP-18b の大気中の水素解離・再結合の兆候を発見する一方,Maxted et al. (2013) は昼夜間の熱再循環効率が非常に小さいことを指摘している.このことは,WASP-18b は非常に弱い風を持っているか,あるいは水素分子の解離・再結合が惑星の熱再循環に大きな役割を果たすには WASP-18b は低温過ぎるということを示唆している.
最後に,スピッツァー宇宙望遠鏡や将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による,現在知られている中で最も高温なウルトラホットジュピターである KELT-9b (Gaudi et al. 2017) の観測を行うことで,ここで提案している理論を検証することが出来るだろう.
天文・宇宙物理関連メモ vol.295 Anglada-Escudé et al. (2016) プロキシマ・ケンタウリにおける系外惑星候補の検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.685 Li et al. (2017) プロキシマ・ケンタウリでのトランジット状シグナルの検出