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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1712.06409
Wang et al. (2017)
Stellar Spin-Orbit Alignment for Kepler-9, a Multi-transiting Planetary system with Two Outer Planets Near 2:1 Resonance
(2:1 共鳴に近い 2 つの外側惑星を持つトランジット複数惑星系ケプラー9 の恒星の自転-公転軸一致)

概要

複数惑星系ケプラー9 にある惑星,ケプラー9b の Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター効果) をトランジット分光観測から測定した.

天球面に射影した spin-orbit angle (恒星の自転軸と惑星の公転軸の成す角度) は -13° ± 16° であり,spin-orbit angle が揃った系であることが示された.恒星の自転軸と惑星の公転軸が大きく傾いていたり,極軌道や逆行軌道であったりする可能性には否定的な結果となった.

ケプラー9 を含め,これまでに複数の惑星を持つ系においてロシター効果が特性された系は 4 個であり,これらはどれも spin-orbit angle は揃っている.

複数惑星系での spin-orbit angle の測定

複数惑星系において spin-orbit angle の大きさへ制限を与える方法としては,\(V \sin i\) method (Schlaufman 2010,Walkowicz & Basri 2013,Hirano et. al. 2014,Morton & Winn 2014,Winn et al. 2017),starspot-crossing method (Mazeh et al. 2015,Sanchis-Ojeda et al. 2011, 2012,D ́esert et al. 2011,Dai & Winn 2017),starspot-variability method (Mazeh et al. 2015),gravity-darkening method (重力減光法,Barnes 2009,Barnes et al. 2011,Szab ́o et al. 2011,Zhou & Huang 2013),asteroseismic method (星震学法,Gizon & Solanki 2003,Chaplin et al. 2013,Van Eylen et al. 2014,Huber et al.2013,Benomar et al. 2014) などがある.

しかしこれまでは,ロシター効果で spin-orbit angle を測定することができている複数惑星系は,ケプラー89d (Hirano et al. 2012,Albrecht et al. 2013),WASP-47b (Sanchis-Ojeda et al. 2015),ケプラー25c (Albrecht et al. 2013) の 3 系のみであった.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1712.06552
Fitzsimmons et al. (2017)
Spectroscopy and thermal modelling of the first interstellar object 1I/2017 U1 'Oumuamua
(初めての恒星間天体 1I/2017 U1 'Oumuamua の分光学と熱的モデル)

概要

太陽系の形成と進化の過程で,大量の彗星や小惑星天体が星間空間に放出される.この過程は,他の恒星系でも当然起きることが期待される.そのような過程で生じた恒星間天体 (interstellar objects, ISOs) は,他の恒星周りでの微惑星形成過程の探査を可能にする,また,天体が星間空間に長時間の曝露された際の影響についても調べることができる.

1I/2017 U1 ‘Oumuamua (オウムアムア) は,Pan-STARRS1 望遠鏡で 2017 年 10 月に発見された初めての ISO である.
発見当時の測光観測からは,~ 200 × 20 m の非常に細長い形状であることが示唆された.これは,オウムアムアが彗星的な幾何学的アルベド 0.04 を持っていると仮定した場合のサイズ推定である.

ここでは,オウムアムアの分光学的特徴付けを行った.
その結果,分光学的特徴は時間とともに変化するが,太陽系外縁部の天体に見られるような,有機物に富んだ表面を持つ天体と似た特徴を示すことが分かった.

観測可能な ISO のポピュレーションは,今回得られたスペクトルと同様に彗星的な天体で占められることが期待されるが,一方でこの天体に彗星活動が見られないという報告からは,オウムアムアの表面は氷が欠乏している事が示唆される.このことは,長期間に渡る宇宙線への曝露によって生成された,絶縁性のマントルが存在するとした場合と整合的である.
そのため,オウムアムアは太陽から 0.25 au 以内を通過している天体ではあるが,彗星活動が欠乏していることを理由に,内部が氷組成ではないことを否定することは出来ない.

観測

観測は,La Palma の 4.2 m William Herschel Telescope を用いた.観測期間は,10/25 21:45 - 22:03 (UT) である.ここで得られたスペクトルの初期解析から,オウムアムアが光学的に赤い天体であることが明らかになった.

さらに,European Southern Observatory の 8.2 m Very Large Telescope に設置されている X-shooter 分光器を用いたスペクトルの取得も行った.こちらの観測期間は 10/27 00:21 - 00:53 (UT) であり,観測波長は 0.3 - 2.5 µm である.

観測結果

彗星活動の欠如

活発な彗星は,CN 分子の 0.38 µm と C2 分子 の 0.52 µm での蛍光による,振動基底状態内の電子遷移を介した強い分子輝線バンドを持つことが知られている.

今回得られたオウムアムアのスペクトルはノイズが多かったが,そのような放射の特徴は見られなかった.この結果は,彗星活動を起こしていない不活発な天体であるという,これまでの撮像観測と合うものである.

スペクトルの鉱物学的特徴

小惑星のスペクトルはその鉱物学的特性,特にフィロケイ酸塩 (水分変化したシリケイト) による,~ 0.7 µm を中心とした広く浅い吸収を示す場合がある.また,小惑星に見られる苦鉄質鉱物 (典型的にはパイロキシンとオリビン) は,~ 0.75 µm から始まり > 0.95 µm を中心とする吸収バンドを持つ.

得られたスペクトルには,そのような診断的特徴は見られなかった.

スペクトルの太陽系内天体との比較

オウムアムアのスペクトルの傾きは,いくつかの S 型小惑星や太陽系外縁天体と類似していた.ただし,これらはオウムアムアのサイズよりかなり大きい天体である.

1.0 - 1.8 µm のスペクトルの範囲では,シグナルノイズ比が低いものの,比較的ニュートラルな反射特性を示した.いくつかの大きな太陽系外縁天体に見られるような,水氷による 1.5 µm の強い吸収バンドは見られなかった.
0.63 - 1.25 µm の範囲ではスペクトルの傾きが大きく,7.7 ± 1.3%/100 nm であった.


オウムアムアのスペクトルを,太陽系内の他のクラスの天体と比較した.最も近い特徴を示すのは, L 型小惑星と D 型小惑星である.

L 型小惑星は小惑星帯では比較的数が少なく, 0.75 µm 以上では平坦かニュートラルなスペクトルの特徴を持ち,時々弱いケイ素吸収バンドを示す.これは,L 型小惑星の表面に微量のケイ素が存在している事を示唆している.これらのバンドは,今回のデータ中に見られるほどは強いものではない.

D 型小惑星は,外部小惑星帯と木星トロヤ群で主要なポピュレーションである.ほとんどの D 型小惑星の反射スペクトルは,少なくとも ~ 2 µm までは赤いスロープを示すが,これは観測されたオウムアムアのスペクトルとは一致しない.しかし D 型小惑星のうちのいくつかは,オウムアムアに似て 1 µm 以上で減少するスペクトルスロープを示す.
トロヤ群小惑星と.5 au より更に遠い位置にある天体は,スペクトル的により近い特徴を示す.

彗星核のスペクトルの傾きは可視光範囲では赤いが,近赤外では浅い.いくつかの太陽系外縁天体も赤い可視光スロープを示すが,近赤外ではよりニューラルな反射特性を持つ.大きく活発なケンタウルス族天体 Echeclus は,ACAM と X-shooter で得られたスペクトルの中間程度の可視光スロープを示す.


D 型小惑星や彗星核,太陽系外縁天体の赤い可視光スペクトルは,有機物豊富な表面が輻射を受けた結果だと考えられている.今回得られたオウムアムアのスペクトルは,力学的に励起された軌道にある太陽系外縁天体のうち,あまり赤くない部類の天体に近い.

考察

恒星間天体の形成過程と観測バイアス

観測される ISOs は,その形成過程と観測バイアスの観点から,大部分が氷主体の天体だと考えられてきた.小天体の多くは起源となった惑星系のスノーラインの外側で形成され,その領域で急速に形成された巨大惑星によって惑星系外部へ弾き出されると考えられるため,それらの天体の大部分は氷を含むことになる.

さらに ISOs は,恒星同士の近接遭遇や銀河潮汐などの散逸機構を介して,オールトの雲からも生成されると考えられる.太陽系のオールトの雲は,小惑星天体より 200 - 10000 倍多い数の彗星的な天体を持っていると考えられている.

そのため,どちらの形成プロセス由来であっても,ISOs は氷天体が主体であると考えられる.

さらに,そのような天体を検出するという観点から考えると,活発な活動をする彗星核は,同じサイズの小惑星よりも発見が容易になる.

オウムアムアの発見以前の ISO モデルの予測では,検出される典型的な小惑星状の ISO は近日点距離が 2 au 未満である一方,典型的な彗星的な性質を持つ ISO は,それより 2 - 3 倍大きな近日点を保つ場合であっても検出可能であると期待されている.これは,後者の天体の方がより大きな距離で検出できるためである.

そのため,彗星的性質を示さない恒星間天体であるオウムアムアの発見は,衝撃的な出来事である.

彗星活動の欠如と内部組成

熱的モデル
太陽系内の氷が豊富な天体と類似したスペクトルの特徴を示すことから,近日点 (0.25 au) を通過する最中には,表面下の氷が揮発して彗星活動を起こすのに十分な加熱を受けたはずである.しかし,有機物を含む氷への宇宙線照射や,局所的な超新星による加熱によって,氷主体の天体の表層に炭素豊富なマントルを形成される可能性がある.このマントルの推定厚さは ~ 0.1 - 2 m である.

オウムアムアがこのようなマントルを持っていると仮定し,太陽に最接近した際のの熱パルスの伝播をモデル化した.その結果,オウムアムアが経験した強力だが短時間の加熱は,オウムアムアの深くまでは浸透しないことが判明した

熱はゆっくりとしか内部に浸透せず,近日点通過前後では表面が ~ 600 K にまで到達する一方で,20 cm 以上の深さにある水氷は,近日点通過の数週間後に昇華を開始するだけである.また,30 cm かそれよりも深い層にある水氷は,昇華を起こすほどの温度に到達しない.
オウムアムアが継続的に太陽に加熱され続けたという非物理的な極限を考えても,この深さは ~ 10 cm 深くなるだけである.

そのため,オウムアムアの表面から ~ 40 cm の深さまでに氷が含まれていない場合,たとえ内部は氷豊富な組成であっても彗星活動を起こすことが出来ないと結論付けることが出来る.過去のシンプルな熱的過程を考慮した研究でも,似た表面温度と熱的表面深さの議論を得ている.
天体の強度と内部組成
さらに,オウムアムアの内部が氷主体の場合,自転による遠心力破壊に耐えられる強度かどうかについて考察する.

この天体の密度として 1000 kg m-3 という低い値を仮定した場合,遠心力による破壊に対抗するために必要な強度は,0.5 - 3 Pa である.滑石の粉 (talcum powder) のような弱い物質であっても ~ 10 Pa の強度を持つため,天体が形状を保つのに十分な強度である.
また,非活発な表面を持つ彗星 67P は,3 - 15 Pa の引っ張り強度を持つ.

従って,オウムアムアの特異な形状は,内部構造が氷豊富で彗星的な組成である可能性を否定しない.
オウムアムアが氷主体天体とする説の課題
このモデルの明確な問題点としては,オールトの雲に起源を持つ彗星が活発な彗星活動を示すという点が挙げられる.

オールトの雲の彗星は,オウムアムアが受けであろうのと同様の宇宙線曝露によるマントル形成を,46 億年の間に渡って経験しているはずである.しかし多くのオールトの雲起源の彗星は,初めて太陽に接近して近日点を通過した時に,表面付近の物質の昇華による明確な彗星活動を見せる.

オウムアムアが非常に長い期間にわたって曝露を受けていたとは考えられない.これは,もし宇宙における初代の恒星の周りで形成されたとしても,太陽系の年齢の 3 倍を超えることは無いからである (宇宙年齢は太陽系の年齢のおよそ 3 倍であるため).

考えられる可能性として,元々の系で形成されてから放出されるまでに,中心星への近接遭遇によって表面の氷が昇華して乾燥していたというシナリオがある.類似した例に,太陽系内では Damocloid (ダモクレス族) 天体が,発達した表面のマントル層によって昇華が妨げられている彗星状天体だと考えられている.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1712.05044
Shallue & Vanderburg (2017)
Identifying Exoplanets with Deep Learning: A Five Planet Resonant Chain around Kepler-80 and an Eighth Planet around Kepler-90
(深層学習を用いた系外惑星の同定:ケプラー80 まわりの 5 惑星の共鳴鎖とケプラー90 まわりの 8 番目の惑星)

概要

ケプラーは太陽型星周りの地球サイズ惑星の存在度を決定するために設計されたが,このサイズの惑星はケプラーミッションの感度の限界に近い.そのため,これらの惑星の存在度を正確に決定するためには,観測のシグナルノイズ比が低い場合であっても,個々のトランジットシグナル候補が実際に惑星である可能性を自動的かつ正確に評価する必要がある.

ここでは,近年様々な問題において最先端の技術となっている機械学習アルゴリズムの一種である深層学習 (deep learning) を用いて,ケプラーで取得した光度曲線中の潜在的な惑星のシグナルを分離する方法を提示する

与えられた信号がトランジットする系外惑星によるものなのか,あるいは天体物理的な現象,もしくは観測機器の影響によって引き起こされた偽陽性 (false positive) なのかを予測するため,深層畳み込みニューラルネットワークを学習させる.このモデルは,それらが実際に惑星である可能性を用いて個々の候補シグナルをランク付けするのに非常に効果的である.

このモデルを,これまでのケプラーの光度曲線の解析で複数の惑星を持つことが分かっている系での,確定されていないトランジット候補シグナルに適用した.
その結果,高い信頼度で新しい 2 つの惑星の存在を確認した


1 つは,ケプラー80 のまわりの 5 つの惑星の共鳴鎖 (resonant chain) のうちの 1 つであるケプラー80g であり,この惑星の軌道周期は 3 体ラプラス関係から予測されるものと近い値であった.

もう一つはケプラー90 を公転するケプラー90i である.この系はこれまでに 7 個のトランジット惑星が存在することが知られていた.今回の 8 個目の惑星の発見により,ケプラー90 は太陽と並んで最も多くの惑星を持つことが知られている系となった

ケプラー80 系とケプラー80g

今回発見されたケプラー80g は,この系で最も外側を公転する惑星である.

ケプラー80 は 5 個の惑星を持つことが既に知られている.それぞれ軌道周期が 0.98, 3.07, 4.65, 7.05, 9.52 日のものである.これらの惑星のうち外側の 4 個は resonant chain (共鳴鎖) という希少な力学的な配置に入っている (Lissauer et al. 2014など).
なお最も短周期の惑星 ケプラー80f は,外側の惑星たちとは力学的に切り離されている.

ケプラー80f 以外の隣り合ったそれぞれの惑星のペアは軌道周期が整数比に近く (この系の場合 2:3 か 3:4),さらに連続した 3 惑星の軌道周期は,以下のラプラス関係を満たしている.
\[\frac{p}{P_{1}}-\frac{p+q}{P_{2}}+\frac{q}{P_{3}}\approx 0\]
ここで \(p\) と \(q\) は整数,\(P_{i}\) は 3 惑星の軌道周期である.ケプラー80d, e, b の 3 惑星は \((p,\,q)=(2,\,3)\) を満たし,ケプラー80e, b, c は \((p,\,q)=(1,\,2)\) を満たす.

惑星がラプラス関係を満たしているということは,共鳴鎖内の隣接する惑星のトランジット時刻変動の「超周期」(super-period) が,各惑星のペアについてほぼ同じであるという事に相当する.

ケプラー80 系では,各隣接惑星の超周期は 192 日に近い値となる (MacDonald et al. 2016).ケプラー80g は,9.52 日周期の惑星の外側を 2:3 の周期比で公転しており,その 2 惑星の超周期は 192 日である.これは,他の惑星ペアの超周期と一致する.

そのため,ケプラー80g はケプラー80 の三体共鳴鎖の一部であることがほとんど確実であり,この発見によってケプラー80 系の共鳴鎖にいる惑星数は 5 個となった.また,ケプラー80 系内の惑星数は 6 個になった.

ケプラー90 系とケプラー90i

ケプラー90 系の惑星

ケプラー90 は,7 個のトランジット惑星を持つことが知られていた系である.
このような多数の惑星を持つ系は希少である.NASA Exoplanet Archive によると,2017 年 8 月 19 日の時点では,ケプラー90 と TRAPPIST-1 (Gillon et al. 2017) が 7 惑星で最多であった.

なお,HD 10180 (Lovis et al. 2011) では,視線速度観測から 6 個の惑星が存在していることが確定しており,さらに最大で 3 個の惑星が存在する可能性が報告されている (Lovis et al. 2011, Tuomi 2012),ただし後の解析ではこれらは確定されていない (Kane & Gelino 2014).


ケプラー90 はケプラーの解析パイプラインで検出され,Borucki et al. (2011) では KOI 351 と命名されており,各種カタログにも KOI 351 の名称で記載されている場合がある.

Borucki et al. (2011) では,3 つの大きな長周期のトランジット惑星候補が検出されており,これらは後にケプラー90e, g, h として確定した.更なるデータと解析から,さらに短周期の小さいトランジット惑星候補が同定され,これにより惑星数は合計 7 個となった (Cabrera et al. 2014など).

ケプラー90 の周囲には,7 日と 8.7 日周期の軌道に 1.5 地球半径の惑星が 2 つ存在し,59.7, 91.9, 124.9 日周期の軌道に地球のおよそ 3 倍の大きさの惑星,さらに 210.6, 331.6 日周期の軌道に 2 つの巨大惑星が存在する.

ケプラー90i

新しく発見された ケプラー90i は 14.4 日周期で 1.3 地球半径であり,ケプラー90c (軌道周期 8.7 日) と ケプラー90d (59.7 日) の間の,最も軌道周期の開きが大きいギャップとなっていた部分に存在している.

ケプラー90i は,この系内で最も短周期の部類のケプラー90b と c の半径 (1.4, 1.6 地球半径) と同程度である.ケプラー90b, c, i の半径からは,これらの惑星は岩石惑星と予想される (Rogers 2015).

ケプラー90 系の軌道配置

この系は,惑星半径と軌道周期が順序よく並んでいるのが印象的である.つまり,小さい惑星は恒星に近く,大きい惑星は恒星から遠い.ただしこれは検出バイアスによるものである可能性はあるという点には注意が必要である.ケプラー90i はケプラーの検出限界を僅かに上回る程度であり,さらに遠くを公転する小さい惑星を検出する可能性は低い.

また,この系がどれくらい整然としているかも興味の対象である.
これまでの 7 惑星のトランジット継続時間は軌道周期でよく規格化でき,トランジット継続時間は軌道周期の 1/3 乗に比例していた,しかしケプラー90i はその傾向に反している.

ケプラー90i のトランジットから推定される恒星の平均密度は,他の惑星のトランジットから推定される恒星の平均密度,および分光観測から推定される平均密度と整合的ではある.しかしケプラー90i のトランジット継続時間である 2.8 時間は,惑星が円軌道でかつ同一平面上にある場合に期待される長さである 5 時間より短い.そのため,視線方向からわずかに傾いた軌道を持っている可能性がある.

もし ケプラー90i の軌道が完全に円軌道なら,トランジットのインパクトパラメータは 0.85,(視線方向に対する) 軌道傾斜角は 88 度となる.その他の惑星は 89 度かそれより大きい (90 度に近い) 値を持つ.
ケプラー90i の傾斜角が大きいと仮定して,ケプラー90 系はやや大きな傾斜角の惑星を持つと期待される幾つかの理由がある.例えば Becker & Adams (2016) では,ケプラー90 系は相互軌道傾斜角の自己励起が最も起きやすい複数惑星系であることを指摘している.


ケプラー90 に 8 個目の惑星が加わったことにより,8 個の惑星を持つことがわかっている初めての惑星系となった.また既知の惑星数としては太陽に並ぶこととなった.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1712.05217
Cheetham et al. (2017)
Direct imaging of an ultracool substellar companion to the exoplanet host star HD 4113A
(系外惑星を持つ恒星 HD 4113A の超低温準恒星伴星の直接撮像)

概要

Very Large Telescope (VLT) の SPHERE を用いて,系外惑星を持っている恒星 HD 4113A の周囲に存在する,低温の褐色矮星伴星の高コントラスト撮像観測を行った.これはこの伴星の初の撮像観測である.

褐色矮星 HD 4113C は,複雑な力学系の一部を構成している.中心星 HD 4113A とそれを公転する巨大惑星,さらに大きく離れた場所にある M 型矮星の伴星 HD 4113B が存在する系の中にある.

HD 4113C と主星との間隔は 535 mas (ミリ秒角) であり,H バンドのコントラスト 13.35 mag であった.これは射影距離が 22 AU で,等時線からの質量推定を元にすると,質量は 36 ± 5 木星質量となる (COND モデルを使用).

また,強いメタンの吸収の特徴を示す.大気モデルとのフィッティングから,この天体の表面重力は log g = 5,有効温度は ~ 500 - 600 K と推定される.

この天体のスペクトルを T 型矮星と比較した結果,晩期 T 型のスペクトルタイプであることが示唆され,最もよく合うスペクトル型は T9 であった.


撮像観測から観測されたアストロメトリと,過去 27 年に渡る視線速度の観測を合わせ,この褐色矮星の軌道をフィッティングし,軌道と物理パラメータに制約を与えた.これと同時に惑星 HD 4113Ab のパラメータも改善した (この惑星は過去の視線速度観測から発見されていたもの).

データからは,褐色矮星の力学的な質量は 66 木星質量であり,やや大きな軌道離心率 0.44 を持つと推定された.この推定質量は,等時線からの推定質量とは一致しない.これは,新しく発見された天体が空間分解されていない連星褐色矮星であるか,あるいはこの連星系内に更なる別の天体が存在するかである可能性がある.

力学的シミュレーションからは,惑星は強い Lidov-Kozai サイクルの最中であることが示唆された.そのため,惑星は初めは離心率の小さい準円軌道で形成され,褐色矮星との相互作用によって現在観測されているような非常に大きな軌道離心率 (~ 0.9) になった可能性がある.

将来の視線速度・直接撮像,Gaia のアストロメトリの組み合わせから,この褐色矮星の力学的質量に精密な制限をかけ,進化モデルと大気モデルとより詳しい比較ができるだろう.

HD 4113 系について

HD 4113A は太陽近傍の G5 矮星であり,惑星を持っていることが分かっている.この惑星は最も大きな軌道離心率 (0.9) を持つ系外惑星の一つである.

惑星 HD 4113Ab は,視線速度法で発見された (Tamuz et al. 2008).これは La Silla Observatory の 1.2 m Swiss telescope の CORALIE 分光器を用いた結果である.

この惑星が大きな軌道離心率を持っていることの説明の一つは,Lodiv-Kozai 機構である (Kozai 1962, Lidov 1962).すなわち,より大きな軌道を持つ伴星との相互作用によるというものである.

Tamuz et al. (2008) の視線速度測定では,そのような相互作用を起こしうる,より長周期の伴星の存在を示唆するトレンドがあったことが報告されている.それらのデータからは,伴星が存在する場合,最小質量が 10 木星質量,最小の軌道長半径が 8 AU であると推定されている.


Tamuz et al. (2008) での観測結果を元に,この未発見の伴星を撮像しようという試みが何度か行われてきたが,いずれも成功しなかった.

2006 - 2007 年には,VLT の NACO 装置を用いて H バンドのスペクトル差分撮像が行われた (Montagnier 2008).また 2008 年にコロナグラフで,2013 年には非コロナグラフの L バンド 観測が行われた (Hagelberg 2014).

これらの観測では天体は検出されず,主星から 0.3 - 2.5 arcsec (8 - 100 AU) の範囲内には恒星質量の伴星は存在しないと結論付けられた,そのため,外側に伴星が存在する場合は褐色矮星以下の質量であることが示唆された.

これとは別に,HD 4113A と共動する恒星質量の伴星 HD 4113B が,より遠方 (49 arcsec, 2000 AU) に発見された.これは近赤外測光観測によって早期 M 型星であると判明した (Mugrauer et al. 2014).HD 4113B の質量と周期は,過去に観測されていた視線速度のトレンドを説明するには小さく長過ぎる.

また,主星から 190 - 6500 AU の範囲では,水素燃焼質量限界を超える別の恒星の存在は否定された.

パラメータ

HD 4113A
スペクトル型:G5V
距離:41.70 pc
有効温度:5688 K
金属量:[Fe/H] = 0.20
年齢:5.0 Gyr (50 億年)
質量:1.05 太陽質量
HD 4113Ab
軌道周期:526.586 日
軌道離心率:0.8999
最小質量:1.602 木星質量
軌道長半径:1.298 AU
HD 4113B
スペクトル型:M0-1V
有効温度:3833 K
質量:0.55 太陽質量
HD 4113C
軌道周期:104.6 年
軌道離心率:0.377
最小質量:64.4 木星質量 (力学的質量)
軌道長半径:23.0 AU

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arXiv:1712.04483
Li et al. (2017)
A Candidate Transit Event around Proxima Centauri
(プロキシマ・ケンタウリまわりでのトランジットイベント候補)

概要

プロキシマ・ケンタウリはケンタウルス座アルファ星連星の中の三番目の天体であり,太陽に最も近い恒星である.
この恒星には,Pale Red Dot radial velocity (RV) campaign (PRD; Anglada-Escudé et al.2016) によって,温暖な軌道に低質量の惑星プロキシマb が発見されている.また,電波観測では少なくとも 2 つのダストベルトの存在が確認されている (Anglada et al. 2017).これまでに,プロキシマb のトランジットを検出する試みが行われている (Kipping et al. 2017, Liu et al. 2017),プロキシマb のトランジットである可能性があるシグナルは同定されているものの,恒星起源の高い変動性の影響により (Davenport et al. 2016) まだ結論は出ていない.
ここでは Las Campanas Observatory の 30 cm 望遠鏡を用いて,2016 年 8 月 17 日から 9 月 27 日までの 23 夜に渡ってプロキシマ・ケンタウリの観測を行った.各夜の観測時間は 9 時間である.

その結果,トランジット状のシグナルを検出した.光度曲線中のトランジット状のシグナルは,8 月 25 日に同定され,これはプロキシマ・ケンタウリが比較的静穏な間であった.また検出されたトランジット状シグナルと,地球大気のパラメータ,および機器パラメータの間の相関は見られなかった.

トランジット状のシグナルを pyaneti (Barragán et al. 2017) を用いて解析した.このモジュールは視線速度とトランジットの両方をフィットすることができるが,今回検出されたトランジット候補イベントは,Anglada-Escudé et al. (2016) での観測から予想されるトランジット時刻よりも 3 日以上前に発生したものであったため,今回はトランジットのみを解析した.

トランジットの深さは 5 mmag で,惑星だと解釈した場合は ~ 1 地球半径に対応し,またトランジット継続時間は 1 時間であった.


今回検出されたイベントについて,天候や機器の系統の影響によるものではないという自信を持っているが,このシグナルの起源は不明瞭である.恒星活動によって引き起こされた現象というのは起こりうる懸念ではあるが,IC バンドでの恒星の活動度は低く,光度曲線の形状がトランジットとより整合的である.

もしこのシグナルが天体によるトランジットである場合,トランジットしている天体は系外惑星ではなく,最近プロキシマ・ケンタウリの周りに報告されたダストベルト中のデブリの集合体である可能性が示唆される.

もしこれが系外惑星によるイベントだとすると,理論モデルからは軌道周期は 2 - 4 日と予想される.

プロキシマ・ケンタウリの視線速度の過去のデータからは,天体軌道への強い制限を与えることが出来る.つまり,~ 0.4 地球質量より重い天体が存在する場合はこれまでの視線速度観測によって検出されているはずである.そのため,もし惑星が ~ 1 地球半径のサイズを持つ場合,視線速度でこれまでに検出されていないためには,最も低密度なタイプの小型惑星と同程度の質量を持っている必要がある.

今回のトランジット候補イベントの検出は,プロキシマ・ケンタウリをトランジットするかもしれない天体について,魅力的ではあるが決定的ではない兆候である.性質を確定させるためには,さらなるトランジット観測のための努力が必要である.

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