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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1911.00380
Yan et al. (2019)
Ionized calcium in the atmospheres of two ultra-hot exoplanets WASP-33b and KELT-9b
(2 つのウルトラホットジュピター WASP-33b と KELT-9b の大気中のイオン化カルシウム)
ここでは,2 つの非常に高温な巨大系外惑星,KELT-9b と WASP-33b での,イオン化したカルシウムの検出について報告する.
CARMENES と HARPS-N の観測によるトランジットのデータから,Ca II (一階電離のカルシウム) を相互相関手法を用いて高い信頼度で検出した.
さらに,Ca II H&K 二重線のそれぞれと,近赤外線での三重項まわりでの透過スペクトルも取得し,スペクトル線の分布を測定した.Ca II H&K 線は,WASP-33b では平均深さが 2.02% (有効半径 1.56 惑星半径に相当),KELT-9b では 0.78% (1.47 惑星半径に相当) で,吸収は惑星のロッシュローブに近い,非常に高層な大気で発生していることを示唆している.
観測された Ca II 線の吸収は,大気の流体静力学モデルで予測されるものよりずっと深い.この違いはおそらくは,大量の Ca II を高層大気に輸送する流体力学的アウトフローの結果である.
Ca I (中性カルシウム原子) の有意な検出がなく,Ca II が明確に検出されていることは,2 つの惑星の高層大気ではカルシウムは大部分が電離されていることを示唆している.
これらの惑星は非常に高温な昼面温度を持つため,大気中での分子の熱解離と原子の電離が発生する.
例えば,WASP-103b では昼側の大気に水分子の特徴が見られないことが報告されており,これは水分子の熱解離が原因だと解釈されている (Kreidberg et al. 2018).
Arcangeli et al. (2018) では,WASP-18b の昼側大気のスペクトルを解析し,分子は熱解離している一方で,H- イオンの不透明度が重要になることを見出した.
Yan & Henning (2018) は,強い Hα の吸収を KELT-9b の透過スペクトル中に検出し,この惑星は散逸する高温の水素大気を持つことを示唆した.Hα 線は他の 2 惑星,MASCARA-2b (Casasayas-Barris et al. 2018) と WASP-12b (Jensen et al. 2018) でも検出が報告されている.
さらに,金属原子やイオンのスペクトル線も検出されている.
例えば Fossati et al. (2010) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた紫外線の透過光分光観測から,WASP-12b の大気から Mg II を検出したことを報告している.また,その他の金属元素 (Fe, Ti, Mg, Na) も KELT-9b の大気中から検出されている (Hoeijmakers et al. 2018, 2019, Cauley et al. 2019).
Khakafinejad et al. (2018) は,WASP-17b の透過光分光観測で Ca II の近赤外線の三重項の有無を探査したが,検出されなかった.
なおつい最近,MASCARA-2b で初めて Ca II が検出された (Casasayas-Barris et al. 2019).これは平衡温度が 2260 K 程度の高温の惑星である.
Ca II は,岩石惑星の外気圏にも存在することが分かっている (Mura et al. 2011).
例えば水星の外気圏で Ca II の検出が報告されている (Vervack et al. 2010).また,Ridden-Harper et al. (2016) は高温の岩石惑星 55 Cnc e (かに座55番星e) の外気圏における Ca II を探査し,4 回のトランジットのうち 1 回で暫定的なシグナルの存在を報告している.Guenther et al. (2011) は別の高温岩石惑星 CoRoT-7b でカルシウムの検出を試みたが,外気圏でのカルシウムの上限値を出すにとどまった.
KELT-9b は,平衡温度 4050 K の,これまでに発見されている中で最も高温な系外惑星である (Gaudi et al. 2017).中心星は自転の高速な A 型星である.この惑星は,水素のバルマー線と,何種類かの金属のスペクトル線の検出が報告されているが (Yan & Henning 2018,Hoejimakers et al. 2018, Cauley et al. 2019),Ca II は報告されていなかった.
WASP-33b は平衡温度が 2710 K で,2 番目に高温な系外惑星である.同じく高速自転星の A5 型星を公転している (Collier Cameron et al. 2010).中心星はたて座デルタ型変光星である.この惑星の大気では,温度逆転層,および TiO の存在の報告,さらに AlO が存在する可能性が報告されている (Haynes et al. 2015, Nugroho et al. 2017, von Essen et al. 2019).
arXiv:1911.00380
Yan et al. (2019)
Ionized calcium in the atmospheres of two ultra-hot exoplanets WASP-33b and KELT-9b
(2 つのウルトラホットジュピター WASP-33b と KELT-9b の大気中のイオン化カルシウム)
概要
ウルトラホットジュピターは,最近発見個数が増加している新しい分類の系外惑星である.これらの化学組成と温度構造を研究することは,惑星からの質量放出率だけではなく,形成と進化に対する理解の改善につながる.ここでは,2 つの非常に高温な巨大系外惑星,KELT-9b と WASP-33b での,イオン化したカルシウムの検出について報告する.
CARMENES と HARPS-N の観測によるトランジットのデータから,Ca II (一階電離のカルシウム) を相互相関手法を用いて高い信頼度で検出した.
さらに,Ca II H&K 二重線のそれぞれと,近赤外線での三重項まわりでの透過スペクトルも取得し,スペクトル線の分布を測定した.Ca II H&K 線は,WASP-33b では平均深さが 2.02% (有効半径 1.56 惑星半径に相当),KELT-9b では 0.78% (1.47 惑星半径に相当) で,吸収は惑星のロッシュローブに近い,非常に高層な大気で発生していることを示唆している.
観測された Ca II 線の吸収は,大気の流体静力学モデルで予測されるものよりずっと深い.この違いはおそらくは,大量の Ca II を高層大気に輸送する流体力学的アウトフローの結果である.
Ca I (中性カルシウム原子) の有意な検出がなく,Ca II が明確に検出されていることは,2 つの惑星の高層大気ではカルシウムは大部分が電離されていることを示唆している.
ウルトラホットジュピター
ウルトラホットジュピター (ultra hot Jupiters) は,中心星から非常に強く輻射を受けているため,昼側の温度が典型的には 2200 K よりも高くなっている巨大ガス惑星を指す (Parmentier et al. 2018).これらの多くは,スペクトル型が A 型か F 型の恒星の非常に近くを公転している.これらの惑星は非常に高温な昼面温度を持つため,大気中での分子の熱解離と原子の電離が発生する.
ウルトラホットジュピターの大気成分の検出
観測では,ウルトラホットジュピター大気の様々な特徴が明らかになっている.例えば,WASP-103b では昼側の大気に水分子の特徴が見られないことが報告されており,これは水分子の熱解離が原因だと解釈されている (Kreidberg et al. 2018).
Arcangeli et al. (2018) では,WASP-18b の昼側大気のスペクトルを解析し,分子は熱解離している一方で,H- イオンの不透明度が重要になることを見出した.
Yan & Henning (2018) は,強い Hα の吸収を KELT-9b の透過スペクトル中に検出し,この惑星は散逸する高温の水素大気を持つことを示唆した.Hα 線は他の 2 惑星,MASCARA-2b (Casasayas-Barris et al. 2018) と WASP-12b (Jensen et al. 2018) でも検出が報告されている.
さらに,金属原子やイオンのスペクトル線も検出されている.
例えば Fossati et al. (2010) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた紫外線の透過光分光観測から,WASP-12b の大気から Mg II を検出したことを報告している.また,その他の金属元素 (Fe, Ti, Mg, Na) も KELT-9b の大気中から検出されている (Hoeijmakers et al. 2018, 2019, Cauley et al. 2019).
惑星大気中のカルシウムイオンの探査
理論的には,ウルトラホットジュピターの高層大気ではカルシウムも電離された Ca II の状態で存在していると考えられる.Khakafinejad et al. (2018) は,WASP-17b の透過光分光観測で Ca II の近赤外線の三重項の有無を探査したが,検出されなかった.
なおつい最近,MASCARA-2b で初めて Ca II が検出された (Casasayas-Barris et al. 2019).これは平衡温度が 2260 K 程度の高温の惑星である.
Ca II は,岩石惑星の外気圏にも存在することが分かっている (Mura et al. 2011).
例えば水星の外気圏で Ca II の検出が報告されている (Vervack et al. 2010).また,Ridden-Harper et al. (2016) は高温の岩石惑星 55 Cnc e (かに座55番星e) の外気圏における Ca II を探査し,4 回のトランジットのうち 1 回で暫定的なシグナルの存在を報告している.Guenther et al. (2011) は別の高温岩石惑星 CoRoT-7b でカルシウムの検出を試みたが,外気圏でのカルシウムの上限値を出すにとどまった.
WASP-33b と KELT-9b について
ここでは,ウルトラホットジュピター KELT-9b と WASP-33b での Ca II の検出を報告する.KELT-9b は,平衡温度 4050 K の,これまでに発見されている中で最も高温な系外惑星である (Gaudi et al. 2017).中心星は自転の高速な A 型星である.この惑星は,水素のバルマー線と,何種類かの金属のスペクトル線の検出が報告されているが (Yan & Henning 2018,Hoejimakers et al. 2018, Cauley et al. 2019),Ca II は報告されていなかった.
WASP-33b は平衡温度が 2710 K で,2 番目に高温な系外惑星である.同じく高速自転星の A5 型星を公転している (Collier Cameron et al. 2010).中心星はたて座デルタ型変光星である.この惑星の大気では,温度逆転層,および TiO の存在の報告,さらに AlO が存在する可能性が報告されている (Haynes et al. 2015, Nugroho et al. 2017, von Essen et al. 2019).
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.953 Yan & Henning (2018) 極めて高温なガス惑星 KELT-9b の広がった水素大気の Hα での検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.612 Nugroho et al. (2017) WASP-33b の酸化チタンと成層圏の存在
天文・宇宙物理関連メモ vol.1037 von Essen et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-33b 大気中の酸化アルミニウムの兆候
天文・宇宙物理関連メモ vol.953 Yan & Henning (2018) 極めて高温なガス惑星 KELT-9b の広がった水素大気の Hα での検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.612 Nugroho et al. (2017) WASP-33b の酸化チタンと成層圏の存在
天文・宇宙物理関連メモ vol.1037 von Essen et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-33b 大気中の酸化アルミニウムの兆候
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1910.13612
Brozović et al. (2019)
Orbits and resonances of the regular moons of Neptune
(海王星の規則衛星の軌道と共鳴)
観測結果を,状態ベクトル,平均軌道要素,軌道不定性という観点からまとめる.
最も内側を公転する 2 つの衛星,ナイアドとタラッサの推定質量 (万有引力定数と質量の積) はそれぞれ,GMNaiad = 0.0080 ± 0.0043 km3 s-1,GMThalassa = 0.0236 ± 0.0064 km3 s-1 であり,平均密度は 0.80 ± 0.48 g cm-3,1.23 ± 0.43 g cm-3 に対応する.
今回の解析では,ナイアドとタラッサは一般的でないタイプの軌道共鳴に固定されていることが判明した.共鳴角は \(73\dot{\lambda_{\rm Thalassa}}-69\dot{\lambda_{\rm Naiad}}-4\dot{\Omega_{\rm Naiad}}\approx 0\) で,平均振幅 ~66° で 180° の周囲を秤動しており,この周期は ~1.9 年である.
これは外惑星の衛星の中で,4 次の共鳴にあることが発見された初めての例である.
ナイアドとタラッサの質量,および秤動の振幅と周期をより良く制約するためには,さらなる高精度の位置天文観測が必要である.
また,ヒッポカンプとプロテウスは 13:11 共鳴に近い状態にあることを報告する.この共鳴のため,将来のヒッポカンプの観測によって,プロテウスの質量推定が行える可能性がある.
また今回の解析から,海王星の扁平率係数は J2 = 3409.1 と推定される.
Showalter et al. (2013) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測データから,7 個目の規則衛星であるヒッポカンプの発見を報告した.この小さい衛星は半径が ~17 km で,ラリッサとプロテウスの軌道の間を公転している.
全ての規則衛星はほぼ円軌道の順行軌道であり,軌道長半径は 48000 - 118000 km の間である.これらの中で最も遠方を公転するプロテウスの軌道長半径は,海王星の中心から 5 海王星半径未満の距離にある.規則衛星系の全体は狭い範囲に集まっており,地球と月の距離の 3 分の 1 の中に収まる.
トリトンは半径が ~1350 km と非常に大きく,規則衛星に期待されるのと同様な,ほぼ完全な円軌道を持っている.しかしトリトンの軌道は逆行であり,軌道傾斜角は海王星の赤道面から ~157° である.これは不規則衛星によく見られる軌道の特徴である.
規則衛星と不規則衛星は,その起源が大きく異なる.規則衛星は「その場」形成であるのに対し,不規則衛星は外部から捕獲された天体だと広く認識されている.
現在の理論は,トリトンは結局の所捕獲された天体であることを示唆しており,元々存在していた海王星の規則衛星は,トリトンが系を不安定化させる間に衝突で破壊されたとされる.
ネレイドは,トリトンが捕獲され軌道が円軌道化される過程で高離心率軌道に散乱されたか,もしくは元々の規則衛星の唯一の生き残りである可能性がある.ネレイドは時々不規則衛星であるとみなされるが,その近点と軌道傾斜角は不規則衛星に典型的なものではない.
現在存在している海王星の規則衛星は,衝突破片の環から形成されたと考えられる.これらの衛星は,重いトリトンによって強く擾乱された状態のままである.
海王星系の不変平面は,海王星の自転角運動量とトリトンの軌道角運動量の両方によって定義されるため,トリトンは海王星系の重要な要素である.ここでは,最新の位置天文観測に基づく,規則衛星の軌道のフィットについて記述する.
6 つの規則衛星の初めての軌道要素推定は Owen et al. (1991) によって行われ,これはボイジャー2号の撮像データに基づくものである.後に Jacobson & Owen (2004) で,地上観測およびハッブル宇宙望遠鏡の観測を合わせて更新された.
土星の衛星であるミマスとテティスは,双方の軌道交点が関与する 2 次の平均運動共鳴にある.また Cooper et al. (2008) は,アンテとミマスはどちらの交点も関与する 1 次の平均運動共鳴であることを報告し,さらにアンテとメトネの間に 77:75 の離心率型の共鳴に近い関係があることも指摘した.
4 次の平均運動共鳴は,小惑星帯の天体で存在が確認されている.例えば木星との 7:3 共鳴は Koronis と Eos families (コロニス族,エオス族) の間に位置しており,いくつかの短寿命の小惑星がこのギャップの中に存在している (Yoshikawa 1991, Tsiganis et al. 2003).
さらに,海王星と 1:5 共鳴にある太陽系外縁天体もいくつかある (Gladman et al. 2012など).
ナイアドとタラッサの間の 73:69 共鳴が,惑星の衛星の中では初めての 4 次の共鳴であり,単一の衛星の交点のみが関与する共鳴としては初めてのものである.
また,新しく発見された衛星であるヒッポカンプは,プロテウスと 13:11 の共鳴に近い状態にあることを発見した.これは外惑星の衛星で 2 次の共鳴に入っているものとしては 3 番目である.
他には,ミマスとテティスの 4:2 共鳴,アンテとメトネの 77:75 共鳴が確認された.
ヒッポカンプの将来の観測で,プロテウスの質量が明らかになるだろう.
一方で,デスピナ,ガラテアとラリッサの質量 (換算重力定数) の測定はより難しい.これは,これらの衛星は直接共鳴には入っていないことと,質量が小さいことが原因である.
arXiv:1910.13612
Brozović et al. (2019)
Orbits and resonances of the regular moons of Neptune
(海王星の規則衛星の軌道と共鳴)
概要
海王星の内側の規則衛星の,これまでで最も完全な位置天文データに基づく軌道のフィットを行った.観測データは,地球からの観測,ボイジャー2号による観測,およびハッブル宇宙望遠鏡による観測であり,期間は 1981-2016 年までである.観測結果を,状態ベクトル,平均軌道要素,軌道不定性という観点からまとめる.
最も内側を公転する 2 つの衛星,ナイアドとタラッサの推定質量 (万有引力定数と質量の積) はそれぞれ,GMNaiad = 0.0080 ± 0.0043 km3 s-1,GMThalassa = 0.0236 ± 0.0064 km3 s-1 であり,平均密度は 0.80 ± 0.48 g cm-3,1.23 ± 0.43 g cm-3 に対応する.
今回の解析では,ナイアドとタラッサは一般的でないタイプの軌道共鳴に固定されていることが判明した.共鳴角は \(73\dot{\lambda_{\rm Thalassa}}-69\dot{\lambda_{\rm Naiad}}-4\dot{\Omega_{\rm Naiad}}\approx 0\) で,平均振幅 ~66° で 180° の周囲を秤動しており,この周期は ~1.9 年である.
これは外惑星の衛星の中で,4 次の共鳴にあることが発見された初めての例である.
ナイアドとタラッサの質量,および秤動の振幅と周期をより良く制約するためには,さらなる高精度の位置天文観測が必要である.
また,ヒッポカンプとプロテウスは 13:11 共鳴に近い状態にあることを報告する.この共鳴のため,将来のヒッポカンプの観測によって,プロテウスの質量推定が行える可能性がある.
また今回の解析から,海王星の扁平率係数は J2 = 3409.1 と推定される.
海王星の規則衛星
規則衛星の特徴
海王星は内側を公転する規則衛星 7 個と,トリトン,ネレイド,そして 5 つの外側の不規則衛星を持つ.ナイアド,タラッサ,デスピナ,ラリッサ,ガラテア,プロテウスは,ボイジャー2号が 1989 年にフライバイした際に発見された規則衛星である (Smith et al. 1989,Owen et al. 1991).Showalter et al. (2013) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測データから,7 個目の規則衛星であるヒッポカンプの発見を報告した.この小さい衛星は半径が ~17 km で,ラリッサとプロテウスの軌道の間を公転している.
全ての規則衛星はほぼ円軌道の順行軌道であり,軌道長半径は 48000 - 118000 km の間である.これらの中で最も遠方を公転するプロテウスの軌道長半径は,海王星の中心から 5 海王星半径未満の距離にある.規則衛星系の全体は狭い範囲に集まっており,地球と月の距離の 3 分の 1 の中に収まる.
トリトンの影響
ウィリアム・ラッセルによって 1846 年に発見されたトリトンは (Lassel 1846),規則衛星と不規則衛星の両方の特性を持っているという点で奇妙な天体である.トリトンは半径が ~1350 km と非常に大きく,規則衛星に期待されるのと同様な,ほぼ完全な円軌道を持っている.しかしトリトンの軌道は逆行であり,軌道傾斜角は海王星の赤道面から ~157° である.これは不規則衛星によく見られる軌道の特徴である.
規則衛星と不規則衛星は,その起源が大きく異なる.規則衛星は「その場」形成であるのに対し,不規則衛星は外部から捕獲された天体だと広く認識されている.
現在の理論は,トリトンは結局の所捕獲された天体であることを示唆しており,元々存在していた海王星の規則衛星は,トリトンが系を不安定化させる間に衝突で破壊されたとされる.
ネレイドは,トリトンが捕獲され軌道が円軌道化される過程で高離心率軌道に散乱されたか,もしくは元々の規則衛星の唯一の生き残りである可能性がある.ネレイドは時々不規則衛星であるとみなされるが,その近点と軌道傾斜角は不規則衛星に典型的なものではない.
現在存在している海王星の規則衛星は,衝突破片の環から形成されたと考えられる.これらの衛星は,重いトリトンによって強く擾乱された状態のままである.
海王星系の不変平面は,海王星の自転角運動量とトリトンの軌道角運動量の両方によって定義されるため,トリトンは海王星系の重要な要素である.ここでは,最新の位置天文観測に基づく,規則衛星の軌道のフィットについて記述する.
6 つの規則衛星の初めての軌道要素推定は Owen et al. (1991) によって行われ,これはボイジャー2号の撮像データに基づくものである.後に Jacobson & Owen (2004) で,地上観測およびハッブル宇宙望遠鏡の観測を合わせて更新された.
4 次の共鳴
高次の共鳴,あるいは軌道傾斜角が関わる共鳴は,惑星の衛星では希少である (Murray & Dermott 2001).土星の衛星であるミマスとテティスは,双方の軌道交点が関与する 2 次の平均運動共鳴にある.また Cooper et al. (2008) は,アンテとミマスはどちらの交点も関与する 1 次の平均運動共鳴であることを報告し,さらにアンテとメトネの間に 77:75 の離心率型の共鳴に近い関係があることも指摘した.
4 次の平均運動共鳴は,小惑星帯の天体で存在が確認されている.例えば木星との 7:3 共鳴は Koronis と Eos families (コロニス族,エオス族) の間に位置しており,いくつかの短寿命の小惑星がこのギャップの中に存在している (Yoshikawa 1991, Tsiganis et al. 2003).
さらに,海王星と 1:5 共鳴にある太陽系外縁天体もいくつかある (Gladman et al. 2012など).
ナイアドとタラッサの間の 73:69 共鳴が,惑星の衛星の中では初めての 4 次の共鳴であり,単一の衛星の交点のみが関与する共鳴としては初めてのものである.
結論
海王星の規則衛星の軌道要素の測定から,ナイアドとタラッサの質量 (換算重力定数 GM) の推定が可能になった.これは,これらの衛星が 73:69 の傾斜角の共鳴に入っているという事実に基づくものである.この 4 次の共鳴は,惑星の衛星の中では独特のものである.また,新しく発見された衛星であるヒッポカンプは,プロテウスと 13:11 の共鳴に近い状態にあることを発見した.これは外惑星の衛星で 2 次の共鳴に入っているものとしては 3 番目である.
他には,ミマスとテティスの 4:2 共鳴,アンテとメトネの 77:75 共鳴が確認された.
ヒッポカンプの将来の観測で,プロテウスの質量が明らかになるだろう.
一方で,デスピナ,ガラテアとラリッサの質量 (換算重力定数) の測定はより難しい.これは,これらの衛星は直接共鳴には入っていないことと,質量が小さいことが原因である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1910.14004
Bolin et al. (2019)
Characterization of the Nucleus, Morphology and Activity of Interstellar comet 2I/Borisov by Optical and Near-Infrared GROWTH, Apache Point, IRTF, ZTF, Keck and HST Observations
(可視光と近赤外線の GROWTH,アパッチポイント,IRTF,ZTF,ケックと HST の観測による恒星間彗星ボリソフ彗星の核,形状と活動の特徴付け)
観測は,アパッチポイント天文台の Astrophysical Research Consortium 3.5 m 望遠鏡 (ARC 3.5 m),および Zwicky Transient Facility での,彗星発見前の 2019 年 3 月 17 日から 5 月 5 日までの観測結果も合わせて解析した.
過去の遠方の彗星の測光撮像サーベイと比較すると,ボリソフ彗星は脱ガス率が ~1027 mol/s のやや活発な太陽系の彗星と非常に類似した特徴を示す.
B, g, V , r, R, i, I, および z バンドで撮影された測光観測では,9 月 11 日の発見報告以降,1 日あたり ~0.03 等級のペースで徐々に明るくなる傾向が継続した.また,核の周囲のコマ部分が支配的な,中間的から赤っぽい色を示した.
GROWTH で得られたデータから,彗星の光度曲線を,発見前の ZTF による観測まで拡張した結果,6 au 以遠での CO 放射に駆動される彗星の脱ガスモデルと似た明るさの傾向が見られることが明らかになった.
最新の測光観測結果に見られる傾向は,彗星からの水の揮発が進行していることを示唆している.
2019 年 10 月 4 日に撮影されたケック望遠鏡の補償光学を用いた近赤外線高分解画像によって,コマからの散乱光を大きく減衰させる高度な機能を用いることが可能となった.これを用いて,ボリソフ彗星の核の直径の上限値として ~3 km という値を与えた.この直径の上限の推定値はハッブル宇宙望遠鏡による高分解能画像でも確認されたが,核の実際の大きさは,サイズ測定の際のダストの影響の除去が不完全であることから,また彗星のコマからのシグナルはボリソフ彗星の全断面積の強い成分であるため,どちらの望遠鏡での推定よりも数倍小さい可能性がある.
結果として,宇宙空間からの 7 時間の間の観測の間に,自転による変動の識別可能な証拠は見られなかった.
初めて発見された恒星間天体である 1I/’Oumuamua (オウムアムア) のサイズ推定と合わせ,ボリソフ彗星の直径の上限値の推定を用いて,恒星間天体の累積サイズ分布の傾きの大まかな推定を行った.
その結果傾きは -2.7 で,太陽系の彗星の累積サイズ分布と類似していることが分かった.ただし,統計的に発見数が少ないことと,ここでのボリソフ彗星の直径の推定は上限値であるという事実から,恒星間天体のサイズ分布の実際の傾きはこれよりもずっと急である可能性がある.
arXiv:1910.14004
Bolin et al. (2019)
Characterization of the Nucleus, Morphology and Activity of Interstellar comet 2I/Borisov by Optical and Near-Infrared GROWTH, Apache Point, IRTF, ZTF, Keck and HST Observations
(可視光と近赤外線の GROWTH,アパッチポイント,IRTF,ZTF,ケックと HST の観測による恒星間彗星ボリソフ彗星の核,形状と活動の特徴付け)
概要
恒星間彗星 2I/Borisov (ボリソフ彗星) の,可視光と近赤外線の測光および分光観測について報告する.これは Global Relay of Observatories Watching Transients Happen (GROWTH) によるコラボレーションにて,2019 年 9 月 10 日から 10 月 25 日まで行われたものである.観測は,アパッチポイント天文台の Astrophysical Research Consortium 3.5 m 望遠鏡 (ARC 3.5 m),および Zwicky Transient Facility での,彗星発見前の 2019 年 3 月 17 日から 5 月 5 日までの観測結果も合わせて解析した.
過去の遠方の彗星の測光撮像サーベイと比較すると,ボリソフ彗星は脱ガス率が ~1027 mol/s のやや活発な太陽系の彗星と非常に類似した特徴を示す.
B, g, V , r, R, i, I, および z バンドで撮影された測光観測では,9 月 11 日の発見報告以降,1 日あたり ~0.03 等級のペースで徐々に明るくなる傾向が継続した.また,核の周囲のコマ部分が支配的な,中間的から赤っぽい色を示した.
GROWTH で得られたデータから,彗星の光度曲線を,発見前の ZTF による観測まで拡張した結果,6 au 以遠での CO 放射に駆動される彗星の脱ガスモデルと似た明るさの傾向が見られることが明らかになった.
最新の測光観測結果に見られる傾向は,彗星からの水の揮発が進行していることを示唆している.
2019 年 10 月 4 日に撮影されたケック望遠鏡の補償光学を用いた近赤外線高分解画像によって,コマからの散乱光を大きく減衰させる高度な機能を用いることが可能となった.これを用いて,ボリソフ彗星の核の直径の上限値として ~3 km という値を与えた.この直径の上限の推定値はハッブル宇宙望遠鏡による高分解能画像でも確認されたが,核の実際の大きさは,サイズ測定の際のダストの影響の除去が不完全であることから,また彗星のコマからのシグナルはボリソフ彗星の全断面積の強い成分であるため,どちらの望遠鏡での推定よりも数倍小さい可能性がある.
結果として,宇宙空間からの 7 時間の間の観測の間に,自転による変動の識別可能な証拠は見られなかった.
初めて発見された恒星間天体である 1I/’Oumuamua (オウムアムア) のサイズ推定と合わせ,ボリソフ彗星の直径の上限値の推定を用いて,恒星間天体の累積サイズ分布の傾きの大まかな推定を行った.
その結果傾きは -2.7 で,太陽系の彗星の累積サイズ分布と類似していることが分かった.ただし,統計的に発見数が少ないことと,ここでのボリソフ彗星の直径の推定は上限値であるという事実から,恒星間天体のサイズ分布の実際の傾きはこれよりもずっと急である可能性がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1910.12889
Kimmig et al. (2019)
Effect of wind-driven accretion on planetary migration
(惑星移動への風駆動降着の効果)
乱流粘性が円盤の永年進化における主要な降着の駆動源であると考えられており,これは中間質量から大質量の惑星の移動過程に影響を与えることが知られてきた.しかし最近では,風 (円盤からの質量放出,円盤風) によって駆動される降着が重要視されてきており,現在では原始惑星系円盤はこれまで考えられてきたよりも乱流が弱いことが指摘され,また風を駆動する 3 次元の非理想磁気流体力学モデリングが成熟してきている.
ここでは,風駆動の円盤降着が円盤内での惑星移動にどう影響を及ぼすかの調査を目的とした研究を行った.定量的な予測を行うよりも,主要な効果の定性的な調査を目的とする.
FARGO3D コードを用いて,惑星-円盤相互作用の 2 次元流体力学計算を行った.ここでは,円盤の鉛直座標と風の駆動場所は明示的には取り扱っていない.代わりに,円盤に対する風のトルクはシンプルな 2 パラメータ公式として取り扱っている.このパラメータは,風による質量損失率と lever arm (レバー) である.
シミュレーションの結果,風駆動の降着過程は,粘性降着過程とは異なる共軌道領域への物質補充方法を持っていることがわかった.
前者の過程では,質量は常に惑星の共軌道領域の外縁から注入され,内縁から質量を除去する.一方で後者は,共軌道領域から質量を注入するか除去するかは,円盤の動径方向の密度勾配に依存することが分かった.
その結果として,円盤内での惑星移動の振る舞いは非常に大きくなり,特定の状況では急速な type-III 的な外側移動 (III 型惑星移動) が起きうる.このような惑星の外側移動が起きうるパラメータを解析的に導出した.
結論として,もし風駆動の降着が原始惑星系円盤の永年進化に効くのであれば,惑星移動の研究はこの過程も含める必要がある.それは,この過程は惑星の移動率と移動する方向に強く影響を及ぼすためである.
arXiv:1910.12889
Kimmig et al. (2019)
Effect of wind-driven accretion on planetary migration
(惑星移動への風駆動降着の効果)
概要
惑星移動は,惑星形成モデルと観測されている系外惑星の統計を結び付ける.これまでは,惑星形成の理論は 1 個以上の惑星と,非粘性もしくは粘性を持つ進化するガス円盤との相互作用に注目してきた.乱流粘性が円盤の永年進化における主要な降着の駆動源であると考えられており,これは中間質量から大質量の惑星の移動過程に影響を与えることが知られてきた.しかし最近では,風 (円盤からの質量放出,円盤風) によって駆動される降着が重要視されてきており,現在では原始惑星系円盤はこれまで考えられてきたよりも乱流が弱いことが指摘され,また風を駆動する 3 次元の非理想磁気流体力学モデリングが成熟してきている.
ここでは,風駆動の円盤降着が円盤内での惑星移動にどう影響を及ぼすかの調査を目的とした研究を行った.定量的な予測を行うよりも,主要な効果の定性的な調査を目的とする.
FARGO3D コードを用いて,惑星-円盤相互作用の 2 次元流体力学計算を行った.ここでは,円盤の鉛直座標と風の駆動場所は明示的には取り扱っていない.代わりに,円盤に対する風のトルクはシンプルな 2 パラメータ公式として取り扱っている.このパラメータは,風による質量損失率と lever arm (レバー) である.
シミュレーションの結果,風駆動の降着過程は,粘性降着過程とは異なる共軌道領域への物質補充方法を持っていることがわかった.
前者の過程では,質量は常に惑星の共軌道領域の外縁から注入され,内縁から質量を除去する.一方で後者は,共軌道領域から質量を注入するか除去するかは,円盤の動径方向の密度勾配に依存することが分かった.
その結果として,円盤内での惑星移動の振る舞いは非常に大きくなり,特定の状況では急速な type-III 的な外側移動 (III 型惑星移動) が起きうる.このような惑星の外側移動が起きうるパラメータを解析的に導出した.
結論として,もし風駆動の降着が原始惑星系円盤の永年進化に効くのであれば,惑星移動の研究はこの過程も含める必要がある.それは,この過程は惑星の移動率と移動する方向に強く影響を及ぼすためである.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1910.12988
Libby-Roberts et al. (2019)
The Featureless Transmission Spectra of Two Super-Puff Planets
(2 つのスーパーパフ惑星の特徴に欠けた透過スペクトル)
若い太陽型星ケプラー51 を公転する 3 つの惑星は,いずれもスーパーパフである.そのためケプラー51 系は,惑星の形成と進化過程についての重要な情報を与えてくれるであろう,この謎めいた分類の惑星の構造と大気を比較研究する良い機会を与えてくれる.
ここでは,ケプラー51b, d のトランジットをハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測した.
この新しい観測データを,再解析したケプラーの観測データおよびアップデートした恒星のパラメータと合わせて解析することで,これらの 3 惑星がどれも 0.1 g/cm3 より低い密度を持っていることを確認した.
WFC3 で取得した透過スペクトルは 1.15-1.63 µm の波長帯において特徴に欠けており,0.6 スケールハイトを超える変動の存在は否定される (H/He 主体の大気を想定した場合).そのため,大気から有意な水の吸収の特徴は見つからなかったという結論となった.
この平坦なスペクトルは,大気高高度のエアロゾル層 (圧力 3 mbar 未満の領域に存在している) の存在に起因すると解釈できる.
他のサブネプチューン惑星で観測された平坦なスペクトルの結果と比較し,Crossfield & Kreidberg (2017) で導入された 2 つの仮説のうち,平衡温度が低いほうがより高高度のエアロゾルを持つという仮説を支持する証拠を得た.
もう一方の仮説である,H/He の質量割合が透過スペクトルの特徴の大きな振幅をもたらすという仮説については強く否定される結果となった.
恒星は比較的暗く,視線速度法では現在の観測装置を用いて惑星の質量を測定するのは困難である.しかし惑星の軌道は共鳴に近い関係にあり,3 つの惑星は高い S/N 比のトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) を示す.TTV の振幅は 5-45 分である (Masuda 2014).
ケプラーによって取得された光度曲線から Masuda (2014) は,3 つの惑星全てが,その 6-10 地球半径という大きな半径に対して異常に低質量 (10 地球質量未満) であることを明らかにした.密度は 0.1 g/cm3 未満で,これらの惑星は NASA Exoplanet Archive に登録されている中で最も低密度の惑星である.
この系は,異常に低密度な惑星についての研究の機会を与えてくれるだけではなく,サプネプチューン惑星の「ティーンエイジ」(10 億歳未満) における進化のスナップショットを得る機会でもある.
いくつかの熱進化モデルでは,水素・ヘリウムを多く含む低密度の系外惑星の存在を再現できるが,水素・ヘリウム豊富な外層を持つ惑星が存在し続けていることは,理論における興味深い困難点である.
ケプラー51 系の 3 つの惑星は 3:2:1 の共鳴に近いため,Lee & Chiang (2016) はこれらの惑星は内側に移動して現在の位置に来たという形成モデルを提案している.この形成過程が正しければ,3 惑星の大気は,形成過程における氷微惑星の降着や,内部核の融解により多くの水を含むことが予想される.
仮に大気中に水蒸気の特徴が観測されたとしてもこの形成仮説を直接証明することにはならないものの,これらの惑星が現在の位置まで移動する前に遠方で形成されたという仮説を補強するものにはなる.
代替の仮説としては,Millholland (2019) で提案されている,これらの惑星は異常に大きな水素・ヘリウムの外層は持っておらず,これらの惑星の大きな半径は,傾斜角潮汐 (obliquity tide) で膨張しているというものがある.これが事実であった場合.これらの惑星の低い密度は,惑星の形成過程ではなく中心星との継続的な相互作用の結果であることを意味する.
しかし現在のモデルでは,ケプラー51 の惑星は恒星から遠すぎるため,傾斜角潮汐の有効性は現在のところ未知である.
大気の金属量が高く,従って平均分子量が大きく,大気のスケールハイトが小さい場合は,観測された平坦なスペクトルにフィットできる十分小さな吸収特性を示す可能性がある.
太陽組成の大気モデルにおいて,水素とヘリウム以外の分子による吸収の特徴を取り除き,またレイリー散乱と衝突誘起吸収の影響は残して,観測結果との比較を行った.
その結果ケプラー51d については,厳密に水素・ヘリウムのみしか含まない大気を持つ可能性には否定的な結果が得られた.ケプラー51b については完全には否定はできない.しかし完全に金属が存在しない大気の形成については理論的な裏付けがないため,ケプラー51b の平坦なスペクトルを再現する信頼できるモデルではないと結論付けた.
両惑星が大気中の高高度にエアロゾル層を持ち,それによって WFC3 のバンドパスでスペクトルを平坦にしている可能性がある.雲などのエアロゾルのモデルを考慮して,この可能性を考察した.
その結果,大気の金属量が太陽の 1 倍と 300 倍の場合,観測された平坦なスペクトルを説明するためには 0.1 mbar の高度にエアロゾル層が必要である.しかし,もし大気が太陽金属量の 100 倍の金属量を持つ場合,エアロゾル層はさらに高高度の 2 µbar よりも高いところに存在する必要がある.
太陽金属量の 1 倍と 100 倍でのこのエアロゾル層の変化は,この金属量の違いでは大気の平均分子量はあまり変化しない一方で,分子の吸収特徴の強度は金属量の増加に伴って増加を続けることに起因する.Crossfield & Kreidberg (2017) では,大気の金属量が太陽金属量の 100 倍になると,大気の平均分子量は急速に増加し,スペクトル特徴の振幅を消失させることが指摘されている.
推定されたエアロゾル層が存在する圧力水準を,雲のモデルと比較した.ここでは雲を形成する分子種として KCl,ZnS,Na2S を想定している.どちらの惑星でも P-T 分布は凝結線と交差するものの,エアロゾル層の高度として推定されたものよりもずっと深いところで交わってしまう.もし凝縮物が今回観測したエアロゾルである場合,強い鉛直方向の混合による高高度への輸送が必要である.
arXiv:1910.12988
Libby-Roberts et al. (2019)
The Featureless Transmission Spectra of Two Super-Puff Planets
(2 つのスーパーパフ惑星の特徴に欠けた透過スペクトル)
概要
ケプラーの観測によって,「スーパーパフ」と呼ばれる分類の惑星の存在が明らかになった.これは質量が地球の数倍程度しか無いが,半径が海王星よりも大きく,非常に低い平均密度を持つ惑星のことを指す.若い太陽型星ケプラー51 を公転する 3 つの惑星は,いずれもスーパーパフである.そのためケプラー51 系は,惑星の形成と進化過程についての重要な情報を与えてくれるであろう,この謎めいた分類の惑星の構造と大気を比較研究する良い機会を与えてくれる.
ここでは,ケプラー51b, d のトランジットをハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測した.
この新しい観測データを,再解析したケプラーの観測データおよびアップデートした恒星のパラメータと合わせて解析することで,これらの 3 惑星がどれも 0.1 g/cm3 より低い密度を持っていることを確認した.
WFC3 で取得した透過スペクトルは 1.15-1.63 µm の波長帯において特徴に欠けており,0.6 スケールハイトを超える変動の存在は否定される (H/He 主体の大気を想定した場合).そのため,大気から有意な水の吸収の特徴は見つからなかったという結論となった.
この平坦なスペクトルは,大気高高度のエアロゾル層 (圧力 3 mbar 未満の領域に存在している) の存在に起因すると解釈できる.
他のサブネプチューン惑星で観測された平坦なスペクトルの結果と比較し,Crossfield & Kreidberg (2017) で導入された 2 つの仮説のうち,平衡温度が低いほうがより高高度のエアロゾルを持つという仮説を支持する証拠を得た.
もう一方の仮説である,H/He の質量割合が透過スペクトルの特徴の大きな振幅をもたらすという仮説については強く否定される結果となった.
ケプラー51 系およびスーパーパフについて
ケプラー51 系
ケプラー51 は,やや若い (5 億歳) G 型星で,軌道周期が 45, 85, 130 日の木星サイズの惑星を 3 つ持つ惑星系である (Steffen et al. 2013).恒星は比較的暗く,視線速度法では現在の観測装置を用いて惑星の質量を測定するのは困難である.しかし惑星の軌道は共鳴に近い関係にあり,3 つの惑星は高い S/N 比のトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) を示す.TTV の振幅は 5-45 分である (Masuda 2014).
ケプラーによって取得された光度曲線から Masuda (2014) は,3 つの惑星全てが,その 6-10 地球半径という大きな半径に対して異常に低質量 (10 地球質量未満) であることを明らかにした.密度は 0.1 g/cm3 未満で,これらの惑星は NASA Exoplanet Archive に登録されている中で最も低密度の惑星である.
この系は,異常に低密度な惑星についての研究の機会を与えてくれるだけではなく,サプネプチューン惑星の「ティーンエイジ」(10 億歳未満) における進化のスナップショットを得る機会でもある.
スーパーパフ
ケプラー51 系の惑星は非常に低密度であり,希少な分類であるスーパーパフの一員である (Lee & Chiang 2016).スーパーパフに分類される惑星としては,他にケプラー47c (Orosz et al. 2019),ケプラー79d (Jontof-Hutter et al. 2014),ケプラー87c (Ofir et al. 2014) があり,これらは膨張している低密度のホットジュピターよりも低温で軽い.いくつかの熱進化モデルでは,水素・ヘリウムを多く含む低密度の系外惑星の存在を再現できるが,水素・ヘリウム豊富な外層を持つ惑星が存在し続けていることは,理論における興味深い困難点である.
ケプラー51 系の 3 つの惑星は 3:2:1 の共鳴に近いため,Lee & Chiang (2016) はこれらの惑星は内側に移動して現在の位置に来たという形成モデルを提案している.この形成過程が正しければ,3 惑星の大気は,形成過程における氷微惑星の降着や,内部核の融解により多くの水を含むことが予想される.
仮に大気中に水蒸気の特徴が観測されたとしてもこの形成仮説を直接証明することにはならないものの,これらの惑星が現在の位置まで移動する前に遠方で形成されたという仮説を補強するものにはなる.
代替の仮説としては,Millholland (2019) で提案されている,これらの惑星は異常に大きな水素・ヘリウムの外層は持っておらず,これらの惑星の大きな半径は,傾斜角潮汐 (obliquity tide) で膨張しているというものがある.これが事実であった場合.これらの惑星の低い密度は,惑星の形成過程ではなく中心星との継続的な相互作用の結果であることを意味する.
しかし現在のモデルでは,ケプラー51 の惑星は恒星から遠すぎるため,傾斜角潮汐の有効性は現在のところ未知である.
結果
透過スペクトルを観測した結果,ケプラー51b, d のどちらも平坦なスペクトルを示した.どちらの惑星においても,金属量が太陽の 300 倍未満で,雲の無い大気が存在する可能性を 7σ の確度で否定した.大気の金属量が高く,従って平均分子量が大きく,大気のスケールハイトが小さい場合は,観測された平坦なスペクトルにフィットできる十分小さな吸収特性を示す可能性がある.
議論
惑星のバルク密度のみを考えると,両惑星は金属を含まない純粋な水素・ヘリウム大気を持つ可能性がある.そこで,これらの惑星が水素・ヘリウムのみの大気モデルを持つという仮説を検証した.太陽組成の大気モデルにおいて,水素とヘリウム以外の分子による吸収の特徴を取り除き,またレイリー散乱と衝突誘起吸収の影響は残して,観測結果との比較を行った.
その結果ケプラー51d については,厳密に水素・ヘリウムのみしか含まない大気を持つ可能性には否定的な結果が得られた.ケプラー51b については完全には否定はできない.しかし完全に金属が存在しない大気の形成については理論的な裏付けがないため,ケプラー51b の平坦なスペクトルを再現する信頼できるモデルではないと結論付けた.
両惑星が大気中の高高度にエアロゾル層を持ち,それによって WFC3 のバンドパスでスペクトルを平坦にしている可能性がある.雲などのエアロゾルのモデルを考慮して,この可能性を考察した.
その結果,大気の金属量が太陽の 1 倍と 300 倍の場合,観測された平坦なスペクトルを説明するためには 0.1 mbar の高度にエアロゾル層が必要である.しかし,もし大気が太陽金属量の 100 倍の金属量を持つ場合,エアロゾル層はさらに高高度の 2 µbar よりも高いところに存在する必要がある.
太陽金属量の 1 倍と 100 倍でのこのエアロゾル層の変化は,この金属量の違いでは大気の平均分子量はあまり変化しない一方で,分子の吸収特徴の強度は金属量の増加に伴って増加を続けることに起因する.Crossfield & Kreidberg (2017) では,大気の金属量が太陽金属量の 100 倍になると,大気の平均分子量は急速に増加し,スペクトル特徴の振幅を消失させることが指摘されている.
推定されたエアロゾル層が存在する圧力水準を,雲のモデルと比較した.ここでは雲を形成する分子種として KCl,ZnS,Na2S を想定している.どちらの惑星でも P-T 分布は凝結線と交差するものの,エアロゾル層の高度として推定されたものよりもずっと深いところで交わってしまう.もし凝縮物が今回観測したエアロゾルである場合,強い鉛直方向の混合による高高度への輸送が必要である.
天文・宇宙物理関連メモ vol.885 Kreidberg et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-103b の全球的気候と大気組成
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