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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1809.00678
West et al. (2018)
NGTS-4b: A sub-Neptune Transiting in the Desert
(NGTS-4b:砂漠中でトランジットするサブネプチューン)

概要

系外惑星 NGTS-4b の発見について報告する.

この惑星はサブネプチューンサイズの惑星で,13 等級の K 型矮星 NGTS-4 を 1.34 日周期でトランジットしている.質量は 20.6 地球質量,半径は 3.18 地球半径であり,いわゆる “Neptunian Desert” (海王星型惑星欠乏領域) のパラメータ中に位置している.

惑星の平均密度は 3.45 g cm-3 であり,100% 水の組成を持つか,岩石コアと揮発性物質エンベロープを持つ組成と整合的である.

惑星は中心星からの比較的強い EUV/X-ray 照射による大きな質量放出を起こしている可能性がある.この惑星が Neptunian desert の中で生き残っているのは,この惑星が異常に大きなコア質量を持っているか,あるいは中心星の活動が落ち着いた後に内側軌道に移動してきたため,中心星の最も強い X 線活動の影響を回避したかの可能性がある.

トランジット深さは 0.13% であり,地上観測から発見されたトランジット惑星の中では最も浅いトランジットである.また,広視野の地上からの測光サーベイで発見された中では最も小さな惑星である.

パラメータ

NGTS-4
等級:V = 13.14
有効温度:5143 K
金属量:[M/H] = -0.28
質量:0.75 太陽質量
半径:0.84 太陽半径
距離:282.6 pc
NGTS-4b
軌道周期:1.3373508 日
質量:20.6 地球質量
半径:3.18 地球半径
平均密度:3.45 g cm-3
軌道長半径:0.019 AU
平衡温度:1650 K

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1809.00700
Sheppard et al. (2018)
New Jupiter Satellites and Moon-Moon Collisions
(新しい木星の衛星と月-月衝突)

概要

木星の新しい 12 個の衛星の発見について報告する.今回の発見で,木星の既知の衛星数は 79 個となった

今回発見された衛星は,r バンドでの等級は 23 - 24 であり,暗いアルベドを仮定した場合,これらのサイズは 1 - 3 km と推定される.

発見された新衛星の大部分は,Blanco 4 m 望遠鏡の DECam を用いて,2017 年 3 月の観測で検出された.この観測は,Sheppard & Trujillo (2016) と Sheppard et al. (2016) に詳細が示されている,外部太陽系天体のサーベイの一環で行われたものである.また,追加観測は Magellan, Discovery Channel, Subaru, Gemini の各望遠鏡を用いて実施された.

新しく発見された衛星の特徴

逆行軌道の衛星群

発見された衛星のうち 9 個は,遠方の逆行軌道のグループに属している.
逆行軌道の衛星は,かつて存在した大きな母天体が,小惑星や彗星・その他の衛星との衝突によって破壊された残骸と思われる軌道グループに集まっている.

このうち S/2017J5S/2017 J8S/2017 J2 の 3 つは,コンパクトな Carme group (カルメ群) に属している.

S/2017 J7S/2016 J1S/2017 J3S/2017 J9 の 4 つは,より拡散した軌道群である Ananke group (アナンケ群) に属しており,これらと Euporie (エウポリエ) の軌道はいくらか離れている.

S/2017 J6S/2017 J1 の 2 つは,Pasiphae group (パシファエ群) に属している,これは最も拡散した群であり,S/2017 J6 は 0.557 と最も大きな軌道離心率を持ち,また遠点は木星のヒル半径の 0.66 倍の距離である.
Jupiter LVIII (S/2003 J15) は傾斜角と軌道長半径が小さく,この群からいくらか離れている.

順行軌道の衛星群

S/2017 J4S/2018 J1 の 2 つは,近接した Himalia prograde group (ヒマリア順行群) に属している.これらは 23 等級程度と今回発見された中では最も明るいものだが,木星の輝きの中にあるため,発見して軌道運動を追うのが難しいものであった.

ヒマリア群の衛星は大きな速度分散を持つ.これは,初期のヒマリアの破壊の後に起きた二回目の破壊イベントによって説明されるという説を提案する.これは,大部分のヒマリア族の衛星はヒマリアの軌道の近くに集まっておらず,しかし遠方の Elara (エララ) と Lysithea (リシテア) の近くに集まっていることに基づいている.

特異な軌道を持つ S/2016 J2

S/2016 J2 (Valetudo とニックネームを与えた) は,他の衛星とは異なる軌道を持つ.また軌道長半径は木星のヒル半径の 0.36 倍の位置にあり,順行軌道にある衛星としてはどの惑星の衛星よりも離れた軌道にある.

数値計算では,この衛星の軌道要素が,軌道傾斜角 34.2°,軌道離心率 0.216,軌道長半径 1.89 × 107 km の場合,108 年にわたって安定である.安定性シミュレーションからは,この衛星のような軌道は,ヒル半径の 0.41 倍 (2.18 × 107 km) の距離まで安定である.しかし,より遠方の離心軌道でも安定に存在できる逆行衛星とは異なり,さらに遠方では軌道が不安定となる.

S/2016 J2 の大きな軌道長半径は,より木星に近い位置を公転する大部分の順行衛星とは異なり,遠方の逆行衛星が存在する範囲と大きく被っている.Carpo (カルポ) の軌道も逆行衛星が存在する範囲と大きく被っているが,こちらは軌道傾斜角が 51.4° と大きな値を持っている.それに対し,S/2016 J2 の軌道傾斜角は 34.0° である.

衛星同士の衝突可能性

逆行衛星は,お互いには衝突を起こす確率は低い.
MERCURY コードと particle in a box 計算を元にすると,S/2016 J2 が大きな逆行衛星 (Pasiphae (パシファエ), Ananke (アナンケ), Carme (カルメ), Sinope (シノーペ)) と 45 億年の間に衝突する可能性は,最大で数 %と推測される.

直径が 1 km 程度と推定される S/2016 J2 は,衝突した場合も大きな逆行衛星を破壊することはない.しかし正面衝突を起こした場合は相対速度が数 km/s となり非常にエネルギーが大きいため,いくつかの大きな破片を生成するだろう.もし S/2016 J2 が過去に数倍大きかった場合は,大きな逆行衛星と衝突して破壊を起こす可能性が高くなる.

可能性が高いわけではないが,S/2016 J2 は衝突を介して逆行衛星の集団を形成する原因となる,かつては大きかった衛星のうちの最も大きい残骸であるかもしれない.

順行軌道にある Carpo (カルポ) の逆行衛星との衝突確率も同程度となる.また,ヒマリア群のメンバーとの逆行衝突を起こす可能性もある.逆行衛星と順行衛星の衝突する可能性は,個々の天体で見ると低いものの,一般的には,逆行衛星と順行衛星の衝突は,木星の遠方にある衛星では発生した可能性がある.

過去に発見された衛星の再確認およびより暗い衛星の検出

新衛星の発見の他に,2017 年と 2018 年に,全てのよく知られている木星の遠方の衛星を観測した.その結果,2003 年と 2011 年の観測で発見されていたが,その軌道がよく決定されていなかったものの多くを再発見した.

さらに,24 等級を超える,軌道を追跡して軌道要素を取得するには暗すぎる,多数の不明な衛星も検出した.これらの失われた衛星のうちの 2 つはヒマリア群に属しているように思われ,また逆行軌道にある.このことは,Sheppard & Jewitt (2003) による,木星は 1 km より大きい衛星を 100 個ほど持つという予測を確認するものである.

軌道群にある最も小さい部類の衛星は依然として個数が多く,木星に向かって分布が拡散していない.このことは,これらの衛星群を形成した衝突は,惑星が形成されていた時期よりも後に発生したことを示唆している.これは,惑星周辺に一定量のガスとダストがあった場合,ガスとダストは小さい衛星を優先的に内側へ移動させ拡散させてしまうためである.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1809.01048
Hartman et al. (2018)
HATS-60b - HATS-69b: Ten Transiting Planets From HATSouth
(HATS-60b - HATS-69b:HATSouth からの 10 個のトランジット惑星)

概要

HATSouth サーベイによる,10 個のトランジット系外惑星の発見について報告する.

発見された惑星は,質量はスーパーネプチューンの < 0.191 木星質量を持つ HATS-62b から,スーパージュピターの 5.47 木星質量を持つ HATS-66b までの範囲にある.サイズは 0.94 木星半径と土星程度のサイズを持つ HATS-69b から,1.69 木星半径の膨張した半径を持つ HATS-67b までの範囲である.また軌道周期は 1.6092 - 7.8180 日の範囲である.

中心星の質量は 0.89 - 1.56 太陽質量,実視等級は V = 12.276 - 14.095 である.

スーパーネプチューン HATS-62b は,木星よりも半径が大きい惑星の中では,これまで見つかっているものの中で最も軽い惑星である.

Gaia DR2 の年周視差から算出される距離と,広帯域測光観測の結果に基づくと,HATS-62, 64, 65 の 3 つの系は,撮像観測では分解されていない連星を伴っている可能性がある.

パラメータ

HATS-60 系

HATS-60
質量:1.0988 太陽質量
半径:1.460 太陽半径
光度:2.006 太陽光度
有効温度:5690 K
金属量:[Fe/H] = 0.334
年齢:75.3 億歳
距離:494.7 pc
HATS-60b
軌道周期:3.560827 日
質量:0.650 木星質量
半径:1.194 木星半径
平均密度:0.472 g cm-3
軌道長半径:0.04710 AU
平衡温度:1529 K

HATS-61 系

HATS-61
質量:1.075 太陽質量
半径:1.667 太陽半径
光度:2.340 太陽光度
有効温度:5541 K
金属量:[Fe/H] = 0.241
年齢:89.3 億歳
距離:694.2 pc
HATS-61b
軌道周期:7.817954 日
質量:3.40 木星質量
半径:1.201 木星半径
平均密度:2.43 g cm-3
軌道長半径:0.07904 AU
平衡温度:1226.9 K
HATS-61 系の特徴
HATS-61b は 3.40 木星質量のスーパージュピターである.

軌道周期は 7.8 日とやや長い.HATSouth サーベイで発見された惑星の中では,2 番目に長周期の惑星である.

中心星 HATS-61 はやや年老いており,主系列段階から離れかかっている.この恒星の現在の光度は,ゼロ年齢主系列 (zero-age main sequence, ZAMS) の段階の推定光度よりも 2.7 倍ほど明るい.
従って,比較的長周期であるにもかかわらず,惑星の平衡温度は 1226.9 K と高い.

1.201 木星半径というサイズは,観測されている平衡温度と半径の相関関係と整合的である.
Enoch et al. (2012) による平衡温度と惑星半径の経験的関係からは,1.12 木星半径になるべきと予測される.仮に惑星の平衡温度を,ZAMS の段階で期待される温度に変えた場合,同じ軌道長半径で期待される惑星半径は,平衡温度-半径関係の上端に位置する 1.02 木星半径と予想される.

HATS-61b は再膨張したスーパージュピターである可能性がある.これは,中心星がより明るくなるに連れ,惑星サイズが膨張するというモデルである (Lopez & Fortney 2016,Grunblatt et al. 2016,Hartman et al. 2016).
ただし,ある平衡温度と質量に対して予測される惑星半径における内因性の分散の大きさを考慮すると,この結論は確定的なものではない.

HATS-62 系

HATS-62
質量:0.9113 太陽質量
半径:0.923 太陽半径
光度:0.667 太陽光度
有効温度:5453 K
金属量:[Fe/H] = 0.141
年齢:80.0 億歳
距離:515.9 pc
HATS-62b
軌道周期:3.2768838 日
質量:< 0.191 木星質量
半径:1.032 木星半径
平均密度:0.139 g cm-3
軌道長半径:0.04186 AU
平衡温度:1231.3 K
HATS-62 系の特徴
HATS-62b の推定質量の 95% 信頼度での上限値は 0.191 木星質量である.また,質量の推定値は 0.123 木星質量である.

この惑星は,発見されている中で最も大きいスーパーネプチューン質量の惑星である.
HATS-62b 以外の,木星より大きな半径を持ち質量が軽い惑星には,0.18 木星質量,1.37 木星半径の WASP-127b (Lam et al. 2017),0.195 木星質量,1.37 木星半径の KELT-11b (Pepper et al. 2017) がある.この大きな半径を持つスーパーネプチューンが,軌道長半径-質量ダイアグラム上で近接巨大ガス惑星の低質量側の領域に位置しているのは偶然ではないだろう.この惑星は sub-Jovian desert (木星より軽い惑星が欠乏している領域) の上端に位置しており (Mazeh et al. 2016など),また,ガス惑星の進行中の高離心率での軌道移動における,潮汐破壊限界の位置をトレースしている可能性がある (Owen & Lai 2018).

HATS-63 系

HATS-63
質量:0.931 太陽質量
半径:1.070 太陽半径
光度:1.026 太陽光度
有効温度:5626 K
金属量:[Fe/H] = 0.081
年齢:104 億歳
距離:634.4 pc
HATS-63b
軌道周期:3.0566528 日
質量:< 0.96 木星質量
半径:1.207 木星半径
平均密度:0.67 g cm-3
軌道長半径:0.04026 AU
平衡温度:1398.3 K

HATS-64 系

HATS-64
質量:1.562 太陽質量
半径:2.113 太陽半径
光度:7.43 太陽光度
有効温度:6560 K
金属量:[Fe/H] = 0.208
年齢:18.62 億歳
距離:1087 pc
HATS-64b
軌道周期:4.908896 日
質量:0.93 木星質量
半径:1.674 木星半径
平均密度:0.244 g cm-3
軌道長半径:0.06560 AU
平衡温度:1797 K

HATS-65 系

HATS-65
質量:1.269 太陽質量
半径:1.296 太陽半径
光度:2.34 太陽光度
有効温度:6276 K
金属量:[Fe/H] = 0.233
年齢:14.2 億歳
距離:491 pc
HATS-65b
軌道周期:3.1051602 日
質量:0.793 木星質量
半径:1.479 木星半径
平均密度:0.304 g cm-3
軌道長半径:0.04511 AU
平衡温度:1623 K

HATS-66 系

HATS-66
質量:1.406 太陽質量
半径:1.851 太陽半径
光度:5.86 太陽光度
有効温度:6606 K
金属量:[Fe/H] = -0.034
年齢:22.9 億歳
距離:1542 pc
HATS-66b
軌道周期:3.141439 日
質量:5.5 木星質量
半径:1.50 木星半径
平均密度:2.04 g cm-3
軌道長半径:0.04709 AU
平衡温度:1999 K
HATS-66 系の特徴
HATS-66b は重いスーパージュピター惑星である.
このようなタイプの惑星は比較的希少である.NASA Exoplanet Archive 中では,HATS-66b より重いトランジット惑星は 20 個のみが存在する.

Schlaufman (2018) は,スーパージュピター質量の惑星に関して,中心星の金属量と惑星の存在頻度の間に相関が見られないことから,4 木星質量よりも重い天体はコア降着ではなく円盤不安定を介して形成された可能性について議論している.従って,4 - 10 木星質量の天体は惑星というよりも褐色矮星により近いと言える.

HATS-66b は,太陽金属量に近い金属量を持つ恒星を公転している.

惑星半径は 1.50 木星半径と,この質量にしては大きな半径を持っている.これは,惑星の平衡温度が 1999 K と高いことと整合的である.

HATS-67 系

HATS-67
質量:1.441 太陽質量
半径:1.441 太陽半径
光度:3.54 太陽光度
有効温度:6605 K
金属量:[Fe/H] = 0.339
年齢:4.4 億歳
距離:983 pc
HATS-67b
軌道周期:1.6091789 日
質量:1.477 木星質量
半径:1.694 木星半径
平均密度:0.373 g cm-3
軌道長半径:0.03036 AU
平衡温度:2196 K
HATS-67 系の特徴
HATS-67b は,平衡温度が 2196 K と推定され,既知のホットジュピターの中では最も高温な部類になる.またこれは驚くべきことではないが,1.694 木星半径と大きく膨張した半径を持つ.

HATS-68 系

HATS-68
質量:1.337 太陽質量
半径:1.769 太陽半径
光度:3.94 太陽光度
有効温度:6122 K
金属量:[Fe/H] = 0.163
年齢:31.4 億歳
距離:619 pc
HATS-68b
軌道周期:3.5862234 日
質量:1.286 木星質量
半径:1.284 木星半径
平均密度:0.759 g cm-3
軌道長半径: 0.05053 AU
平衡温度:1750 K

HATS-69 系

HATS-69
質量:0.892 太陽質量
半径:0.8785 太陽半径
光度:0.4813 太陽光度
有効温度:5137 K
金属量:[Fe/H] = 0.377
年齢:80 億歳
距離:420.3 pc
HATS-69b
軌道周期:2.2252577 日
質量:< 0.577 木星質量
半径:0.945 木星半径
平均密度:0.46 g cm-3
軌道長半径: 0.03211 AU
平衡温度:1295.7 K
HATS-69 系の特徴
HATS-62b と同様に,ホットサターンである HATS-69b も同じく sub-Jovian desert の境界付近に位置している.しかしこの惑星の半径は,この惑星の質量を考えると例外的なものではない.

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arXiv:1808.10790
Petit dit de la Roche et al. (2018)
Molecule mapping of HR8799b using OSIRIS on Keck: Strong detection of water and carbon monoxide, but no methane
(Keck の OSIRIS を用いた HR 8799b の分子マッピング:水と一酸化炭素の強い検出も,メタンの検出なし)

概要

Barman et al. (2015) では,直接撮像で発見されている系外惑星 HR 8799b の大気から,水,一酸化炭素,メタンの吸収を検出したと報告している.Barman et al. (2015) の観測は,Keck II 望遠鏡の OSIRIS を用いた積分場分光観測 (integral field spectroscopy, IFS) を使用している.

ここでは,観測データを解析するための molecule mapping (分子マッピング) と呼ばれる新しい手法を開発した.これは Integral Field Unit (IFU) のデータキューブ (3 次元配列データ) 中の,特定の分子の高周波の特徴を探査する手法である.

この論文の目的は,分子マッピングの技術を用いて,過去に検出されている HR 8799b 大気のスペクトルの特徴を,同じ観測データ中から探査することである.この解析を行うことにより,分子マッピング手法を過去の解析手法と比較することができる.

パイプラインでリダクションされた,H と K バンドの中分散のアーカイブデータを,Keck アーカイブ装置の中から復元した.地球大気と恒星大気によるスペクトル線の影響を除去し,残ったデータを一酸化炭素,水,メタンのモデルスペクトルと相互相関して解析を行った.

その結果,大気スペクトル中に一酸化炭素と水は高いシグナルノイズ比で明確に検出されたしかし過去に報告されていたメタンの特徴は復元できなかった


HR 8799b の OSIRIS データの解析において,分子マッピングは非常に有効であることが示された.

しかし,なぜ過去の解析ではメタンが検出され,今回の分子マッピング技術では検出されなかったのかは明確ではない.考えられる原因としては,地球大気の影響を除去した際の残差の存在や,スペクトルフィルタリング技術の差異,あるいはメタンのスペクトルモデルとして異なるものを使用していたという可能性がある.

なお過去の解析では,メタンは K バンドでのみ検出されているが,モデルでは H バンドでのメタンのシグナルも K バンドと同様の強度になることが予想されているという点に注意が必要である.
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によるより感度の高い観測によって,この惑星におけるメタンの存在をより高い信頼度を持って確認,もしくは否定できるだろう.

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arXiv:1808.09575
Beatty et al. (2018)
Spitzer Phase Curves of KELT-1b and the Signatures of Nightside Clouds in Thermal Phase Observations
(KELT-1b のスピッツァー位相曲線と熱位相観測における夜側の雲の兆候)

概要

トランジットする褐色矮星 KELT-1b の,2 回の完全な軌道位相曲線を観測した.観測にはスピッツァー宇宙望遠鏡を使用し,観測波長は 3.6 µm と 4.5 µm である.

今回得られた結果を Beatty et al. (2014) による過去の二次食データと組み合わせ,この天体の位相変動をどちらの観測バンドにおいても単一の正弦曲線の形で明確に検出した.変動の振幅は,3.6 µm では 964 ppm,4.5 µm では 979 ppm であった.
また,過去の研究で測定されていた二次食の深さと同じ結果が得られた.

さらに,昼側の半球において東方向へのホットスポットのずれの大きさを測定した,3.6 µm で 28.4°,4.5 µm で 18.6° だけ,ホットスポットが恒星直下点から東へずれていた.


昼夜間の温度差とホットスポットのずれは両方とも,ホットジュピターで見られているものと同様の現象である.褐色矮星である KELT-1b は,典型的なホットジュピターよりも非常に長い大気輻射のタイムスケールを持つべきであるという事実にも関わらず,ホットジュピターと同様の特徴を示すということが分かった.

従ってここでは,これらの天体からの熱放射を変化させる点において,夜側半球に存在する雲が重要な役割を果たしていることが示唆される.この示唆は以下の推測に基づいている.
1) Zhang et al. (2018) によって示唆されたホットスポットのずれの傾向とは対照的に,位相のずれの大きさには明確な平衡温度との傾向が見られなかったこと
2) 負でない強度マップを得るために必要な鋭い昼夜間の遷移.これは Keating & Cowan (2017) で挙げられた逆問題も解決するものである
3) これらの天体のすべての夜側半球は,概ね 1050 K の同じ温度であるように思われるが,一方で昼側半球の温度は平衡温度に対して線形に増加する
4) スピッツァー宇宙望遠鏡の色-等級ダイアグラムにおけるこれらの天体の軌道,色は夜側の雲の存在によってのみ説明可能である

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