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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:2001.06430
Gibson et al. (2020)
Detection of Fe I in the atmosphere of the ultra-hot Jupiter WASP-121b, and a new likelihood-based approach for Doppler-resolved spectroscopy
(ウルトラホットジュピター WASP-121b の大気中の中性鉄原子の検出と,ドップラー分解分光観測のための尤度基準の新しいアプローチ)

概要

高分散ドップラー分解分光観測は,トランジット惑星と非トランジット惑星の双方の大気を探るための新しい手法である.ここではウルトラホットジュピター WASP-121b のトランジットの VLT/UVES での観測について報告する.この惑星は可視光波長での観測で,大気中に温度逆転層を持ち,複数の大気成分が検出されている惑星である.

UVES で取得された青い側の波長 3700-5000 Å での初期結果を提供する.この惑星大気中の中性の鉄原子のシグナルを,8σ を超える確度で検出した.これはこの惑星の成層圏での温度逆転に部分的に寄与しているか,もしくは温度逆転の全てを説明できる可能性がある.

しかし,一般的な相互相関手法を用いて,温度や存在度のような物理的なパラメータを抽出することは困難である.最近の先進的な取り組みでは,モデルを高解像度のデータセットに直接フィットさせるために使用可能な,尤度の「マッピング」が開発されている.モデルがデータに適合する可能性を直接計算する新しいフレームワークを導入し,MCMC の技法を使用して,パラメータ化されたモデル大気の事後分布を調べるために用いることができる.またこの手法は大気の物理的な広がりを復元するだけではなく,時間及び波長に依存する不定性を考慮する.

解析の結果,大気の温度は 3710 K と測定され,低解像度の観測と比較すると高層大気は高温であるという結果が示唆された.また,Fe I (中性鉄原子) のシグナルは,外気圏の Fe II (鉄イオン) のシグナルとは物理的に別れていることを示す.
しかし,温度測定は大気中のエアロゾルの特性と大きく縮退している.より洗練された大気モデルを用いたさらなる成分の検出や,これらの手法を低分散スペクトルと組み合わせることで,これらの縮退を破るのに使えるだろうと考えられる.

WASP-121b について

WASP-121b は,ウルトラホットジュピターと呼ばれる種類の惑星である.Very Large Telescope の UV-Visual Echelle Spectrograph (UVES) を用いてトランジットで観測した.中心星は等級が V~10.5,スペクトル型が F6V で,惑星はわずか 1.27 日で公転している.

惑星の平衡温度は 2400 K で半径が膨張しており,大気の特徴付け観測の良い対象である.実際この惑星は既にハッブル宇宙望遠鏡の低分散観測によって研究されており,大気中の水蒸気の検出と暫定的な TiO の検出が報告されている (Evans et al. 2016,Tsiaras et al. 2018),また水の放射帯から,大気中の温度逆転の直接検出も報告されている (Ewans et al. 2017),また VO と未知の青い波長での吸収 (SH と示唆) が 4000 Å 程度未満で報告されている (Evans et al. 2018).

さらなる放射の測定では,VO の検出については強く支持されていないが (Mikal-Evans et al. 2019),H- の放射を示す.
紫外線の観測では,広がった,そして散逸する大気の存在が明らかにされており,Fe II と Mg II が検出されている.近紫外線観測での暫定的な超過吸収も報告されており (Salz et al. 2019),広がった外気圏での金属の吸収が示唆される.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



A low-mass planet candidate orbiting Proxima Centauri at a distance of 1.5 AU
Damasso et al. (2020)
A low-mass planet candidate orbiting Proxima Centauri at a distance of 1.5 AU
(プロキシマ・ケンタウリの 1.5 AU の距離を公転する低質量惑星候補)

概要

最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリは.温暖な地球型惑星 (プロキシマ・ケンタウリb,プロキシマb) を一つ持っている.ここでは,二番目の惑星の可能性がある視線速度の兆候を検出したことを報告する

最小質量は 5.8 ± 1.9 地球質量で,軌道周期は 5.21 年である.測光データと分光活動度を用いた診断からは,得られた視線速度の変動は恒星の活動周期では説明できないが,この視線速度シグナルが惑星起源であることを確認するためには今後のフォローアップ観測が必要である.

Gaia の位置天文観測と視線速度観測を組み合わせることによりこの惑星の存在を確認でき,また真の質量も高精度で決定できるであろうことを示す.惑星候補プロキシマc は中心星からの角距離が最大で ~1 arcsec と大きいため,次世代の直接撮像装置によるフォローアップ観測と特徴付けの主要なターゲットとなり得る.この惑星候補の存在は,スーパーアース形成と進化のモデルにおける難題となる.

背景

プロキシマ・ケンタウリは,これまで 15 年以上にわたって様々な手法で惑星探査が行われてきた.これまでの観測により,0.8 AU から 5 AU 以遠の範囲における木星質量天体の存在は否定されている (2 AU 以遠では 4 木星質量以上の天体の存在が否定).また Holman & Wiegert (1999) は,惑星が安定に存在しうる最大の軌道長半径は 1700 AU と予測した.これはプロキシマはアルファ・ケンタウリAB の連星の周りを公転しているためである.

最近になって,Anglada-Escudé et al. (2016) で ~0.05 AU の距離を公転する温暖な低質量惑星プロキシマb が発見された.視線速度の観測からは,この系にプロキシマb より長周期な,さらなるスーパーアースが存在する可能性は否定できない.

Red Dots initiative の観測プログラムでは,近傍の恒星の視線速度測定による惑星の検出を行っている.この RD キャンペーンでは,バーナード星を公転するスーパーアース候補も検出されている (Ribas et al. 2018).プロキシマについても,プロキシマb が発見された段階での視線速度観測データよりさらに 549 日分長いデータが取得された.視線速度データの解析から,さらなる惑星由来と思われる変動の兆候が検出された.

パラメータ

プロキシマb
軌道周期:11.185 日
最小質量:1.0 地球質量
軌道長半径:0.048 AU
平衡温度:216 K
プロキシマc (候補)
軌道周期:1900 日
最小質量:5.8 地球質量
軌道長半径:1.48 AU
平衡温度:39 K

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:2001.04532
dos Santos et al. (2020)
The high-energy environment and atmospheric escape of the mini-Neptune K2-18 b
(ミニネプチューン K2-18b の高エネルギー環境と大気散逸)

概要

K2-18b はトランジットするミニネプチューンで,38 pc の距離にある近傍の低温な M3 矮星を公転しており,温暖な輻射を受ける領域の中に位置している.この惑星のハッブル宇宙望遠鏡の Space Telescope Imaging Spectrograph (STIS) を用いた Lyα 線でのトランジット分光観測から,大気の水素散逸の探査を行った.

恒星 K2-18 の Lyα (ライマンアルファ線) 放射のフラックスの時系列を,Lyα 線の青方偏移成分と赤方偏移成分の両方で解析を行った.K2-18 からの青方偏移した Lyα 線の放射の平均値は,惑星のトランジット前の放射と比較するとトランジット中は 67% 減少し,これは大量の水素原子の散逸が発生し恒星の輻射圧によって吹き流されていることを暫定的に示唆する結果である.ただしこの解釈は 1 回の部分的なトランジットに依拠したものであるため,決定的なものではない.

K2-18 の Lyα 放射の再構築に基づき,この恒星の極端紫外線放射を 10-102 erg s-1 cm-2 と推定し,これを元に大気散逸率の総量は 108 g s-1 のオーダーであると推定した.示唆された散逸率は,この惑星はその一生の間に 1% 未満の僅かな割合の質量しか失っておらず,その揮発性物質に富んだ大気を現在も保っていることを示している.

恒星の変動の影響を取り除き,トランジット中の Lyα の吸収を確認し,K2-18b の高エネルギー環境と大気散逸をよりよく評価するためには,さらなる観測が必要である.

背景

K2-18b について

この惑星は,初めトランジット惑星候補として報告された (Montet et al. 2015).その後スピッツァー宇宙望遠鏡の測光観測 (Benneke et al. 2017) と HAPRS の視線速度観測 (Cloutier et al. 2017) で存在が確認された.2.711 地球半径,8.64 地球質量で,軌道周期は 32.9 日である.中心星から 0.14 au の位置にあり,中心星は低温な M 型星のため,地球が太陽から受ける輻射に近い放射を受けている.

この惑星の高エネルギー環境についてはこれまで制約されておらず,また惑星の密度からは,厚い水素・ヘリウムからなるエンベロープを持つか,あるいは 100% の水蒸気組成の大気を持つか,どちらも整合的である.

この惑星系は太陽系近傍にあるため,ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡,赤外線分光器での高分散観測での大気の特徴付け観測に最も適したミニネプチューンの一つである.

海王星サイズの惑星の外気圏

中心星からの高エネルギー光子 (X 線と遠紫外線) は惑星の高層大気を拡大させるだけではなく,水分子の光解離によって水素原子も生成する.この大気圏の拡大によって,外気圏として知られる,ガス分子が無衝突になる惑星大気の外層が形成される.K2-18b は水素分子と水分子に豊富であると考えられるため,水素豊富な外気圏を持つ可能性が高い.

過去のハッブル宇宙望遠鏡での観測では,ウォームネプチューンである GJ 436b の周りに,大きなスケールの水素豊富な外気圏が存在することが明らかになっている (Ehrenreich et al. 2015,Lavie et al. 2017,dos Santos et al. 2019).また GJ 3470b でも同様の構造が確認されている (Bourrier et al. 2018).

しかし海王星よりも小さい惑星では,これまでに広がった大気は検出されていない.スーパーアース 55 Cnc e (Ehrenreich et al. 2012),HD 97658b (Bourrier et al. 2017),GJ 1132b (Waalkes et al. 2019),π Men c (García Muñoz et al. 2019) では観測が行われたが非検出であったことが報告されている,また,小さい岩石惑星では TRAPPIST-1 系 (Bourrier et al. 2017) とケプラー444 系 (Bourrier et al. 2017) で外気圏の暫定的な検出が報告されている.

外気圏の暫定的な検出

Lyα 放射のスペクトルのコア部分は星間物質に吸収されるため,スペクトル線の両端のウィング部分での吸収のみが観測できる.スペクトルを波長を,ドップラー偏位に換算して -160 〜 -50 km s-1 と,50 〜 160 km s-1 で分割して,青方偏移・赤方偏移側でそれぞれ調査を行った.

複数回の観測のうち visit B では,スペクトル線の青方偏移側の強度が惑星のトランジットの間に減少し,食の終わり付近では放射がほぼゼロになった.一方で赤方偏移側はトランジット中の減少は 14% ± 23% で,これは変動を起こさない定常なフラックスと整合的である.このことは,青方偏移側の変動は天体物理的な原因であることを示唆している.

青方偏移側の減光率はトランジット外の時の強度に対して 67% ± 18% となった.特に,最後の観測時の深さは 93% ± 18% であった.このトランジットの検出は統計的には有意であるものの,将来の観測で再び確認できるまではこの結果を暫定的なものであると保守的に解釈することとする.恒星の Lyα の内因性の変動 (惑星のトランジットとは無関係の変動) は,例えば HD 97658b では ~2σ の信頼度で数十%変動しうることが分かっている.

結論

結論としては,Lyα 線の青方偏移側のトランジットは,100% の吸収と整合的な結果である,一方で赤方偏移側はほぼ一定で,青方偏移よりずっと安定である.青方偏移側の吸収は,惑星周りに水素豊富な外気圏が存在し,中心星からの輻射圧によって観測者の方向へ吹き流されていることで引き起こされていると解釈できる.これは GJ 436b と GJ 3470b と似ている.

ここでは部分的なトランジットしか観測していないため,水素豊富な外気圏の検出は現段階では暫定的なものと結論付ける.恒星活動の影響を排除し,特徴を確定させるにはさらなる観測が必要である.さらに,中心星の Lyα での追加観測も,惑星の高エネルギー環境とその大気散逸の歴史をよりよく制約するのに役立つだろう.

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arXiv:2001.02840
Socia et al. (2020)
Kepler-1661 b: A Neptune-sized Kepler Transiting Circumbinary Planet around a Grazing Eclipsing Binary
(ケプラー1661b:かすめるような食を起こす連星まわりの海王星サイズの周連星トランジットケプラー惑星)

概要

ケプラーの測光観測から,トランジットする海王星サイズの周連星惑星ケプラー1661b の発見を報告する.この惑星はおよそ 175 日周期で,軌道が歳差する周期はわずか 35 年である.この歳差によって軌道平面の向きが変化し,地球から見て惑星がトランジットする配置にある期間は全期間のうちわずか ~7% である.

ケプラーによって発見されたその他の周連星惑星と同様に,この惑星も安定半径の近くを公転している.惑星軌道は高温側のハビタブルゾーンの端に近い.

惑星はかすめるように食を起こす単線分光連星の周りを公転している.この連星はそれぞれ 0.84, 0.26 太陽質量のペアからなっており,連星の軌道はやや離心率を持ち (e ~ 0.11),周期は 28.2 日である.
この系は非常に若く,推定年齢は 10-30 億歳で,黒点による大きな変動を示す.

連星がかすめるような食をする軌道配置であるということは,この系は連星の傾斜角の変動に非常に敏感であることを意味し,これは食の深さの変化として現れる.恒星黒点は食の測光シグナルに混入するが,一般的な方法では偽の食のタイミングの変化を引き起こさない.かわりに,黒点は光度曲線の規格化を変化させ,そのため食の深さを変える.これは偽の食深さ変動を引き起こし,これは連星の軌道歳差運動に誤って帰結され得る.

パラメータ

ケプラー1661A
質量:0.841 太陽質量
半径:0.762 太陽半径
有効温度:5100 K
ケプラー1661B
質量:0.262 太陽質量
半径:0.276 太陽半径
有効温度:3585 K

連星周期:28.162539 日
軌道長半径:0.187 AU
軌道離心率:0.112
ケプラー1661b
質量:17 地球質量
半径:3.87 地球半径
密度:1.6 g cm-3
軌道周期:175.06 日
軌道長半径:0.633 AU
軌道離心率:0.057

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arXiv:2001.03126
Cubillos et al. (2020)
Near-ultraviolet Transmission Spectroscopy of HD 209458b: Evidence of Ionized Iron Beyond the Planetary Roche Lobe
(HD 209458b の近紫外線透過光分光観測:惑星のロッシュローブ以遠での鉄イオンの証拠)

概要

膨張したトランジットホットジュピター HD 209458b は,系外惑星の特徴付けを行うための研究の初期から現在に至るまで,最も研究された天体の一つである.中間赤外線から遠紫外線までの多波長での透過光観測では,大気中の原子・分子の兆候や,惑星の低層大気のエアロゾル粒子,また高層大気の散逸する水素と金属の存在が明らかにされている.

この惑星の近紫外線の透過光観測の再解析から,鉄イオンの吸収の存在を波長 2370 Å 周辺にて検出した.また,この吸収は惑星のロッシュローブを超えた範囲にまで広がっている.しかし,2600 Å 周辺に予想される同程度の強さの鉄イオンの吸収は検出されなかった.さらに,中性マグネシウム,マグネシウムイオン,中性鉄原子による吸収の兆候は得られなかった.これは,過去の Vidal-Madjar et al. (2013) での,同じデータセットからマグネシウムは検出されたがマグネシウムイオンは検出されなかった理論モデルと矛盾しない結果である.

今回の結果は,WASP-12b や KELT-9b のような極端なウルトラホットジュピターほどの輻射を受けていなくても,ハイドロダイナミックエスケープは惑星のロッシュローブを超えて鉄程度の重い原子を十分運べるほどに強いことを示唆している.

この惑星の高層大気で鉄が検出され,マグネシウムが非検出であったことは,低層大気では鉄を含む凝縮物よりも主にマグネシウムを含む凝縮物 (すなわち隔離物質) があるというモデルで説明できる.この事は,現在の微物理モデルで示唆されている.

ホットジュピターの高層大気

紫外線観測での高層大気検出

HD 209458b はトランジットが検出された初めての惑星であり,大気が検出された惑星としても初めてである (Charnonneau et all. 2000, 2002).大気は Na D 線の吸収の測定から検出された.その直後に,惑星周りの広がった水素エンベロープの存在が検出された (Vidal-Madjar et al. 2003).これはハッブル宇宙望遠鏡を用いた遠紫外線でのトランジットから,Lyα 線のウィング部分でのトランジット深さが ~10% であることから検出された.なお Lyα 線のコア部分は星間物質によって完全に吸収されてしまうため,その部分でのトランジットを検出することはできない.

Lyα 線での強い吸収は,惑星のロッシュローブを越えた範囲に散逸している水素大気が存在することを示唆している.この発見がきっかけとなって,高層大気の散逸に関する観測と理論の両方が発展した.実際に,さらなる紫外線観測で他の惑星でも大気散逸が観測されてており,HD 189733b,WASP-12b で近紫外線で大気散逸が検出され,また WASP-121b でも近紫外線で大気散逸の兆候が検出されている (Salz et al. 2019).またウォームネプチューンでも GJ 435b と GJ 3470b で遠紫外線で大気散逸が検出されている.

HD 209458b のその後の遠紫外線・近紫外線の観測では,O と C+ の散逸が観測されている (Vidal-Madjar et al. 2004; Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015),一方で Si2+ の検出に関しては議論がある (Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015).

HD 209458b での金属原子の検出

NUV の波長域には,大量に存在する金属の共鳴線も含まれる (マグネシウム,鉄,マンガンなど).これらのいくつかは,散逸する惑星大気中に検出されている.

Vidal-Madjar et al. (2013) は HD 209458b において 2853 Å の共鳴線での Mg (マグネシウム) の吸収を報告している.これは,輻射圧で加速されている惑星からの Mg 原子の散逸と解釈される.また Mg+ の吸収の探査も行ったが,これは成功しなかった.マグネシウムのイオン化エネルギーは 7.65 eV と低く,これは ~1621 Å より短い波長の放射はマグネシウム原子を電離できることを意味する.HD 209458b は G 型星であり,この恒星の光球からの放射は 1450-1500 Å 付近で上昇する.そのため,Mg が検出され Mg+ が検出されなかったことは大きな驚きである.

Mg+ が検出されなかったことについて,Vidal-Madjar et al. (2013) では,電子の再結合が Mg+ を減少させ Mg を増加させることによって説明できるとし,これが実現されるための電子密度を 108-9 cm-3 と推定した.この電子密度は,高層大気モデルで予測される極大の電子密度より 10 倍大きい.
さらに Bourrier et al. (2014) は観測に最も適合する電子密度はさらに高い 1010 cm-3 と推定した.これは理論的予測よりはるかに大きいことに加え,その場所での Mg+ の再結合率は,全ての電子が Mg に使われることを仮定しているように思われる.これは非現実的な仮定であるため,Mg の検出と Mg+ の非検出を説明するための再結合には,電子密度が 1010 cm-3 より大きくなければいけないことが推測される.

これらの先行研究を元に,ハッブル宇宙望遠鏡での近紫外線観測を再解析した.主要な目的は,Mg と Mg+ の検出と非検出の再調査と,スペクトル中の金属の吸収の探査である.

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