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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1909.05851
Guzik et al. (2019)
Interstellar comet C/2019 Q4 (Borisov)
(恒星間彗星 C/2019 Q4 (ボリソフ彗星))
ここでは,明確に彗星の特徴を有している,新しい恒星間天体の同定と初期の特徴付けについて報告する.この天体は,公開されている位置天文データの中から,データ採掘コードによって存在が同定された.
この天体の軌道データは,放物線軌道を仮定した場合に予想されるものからの系統的に大きな乖離を示しており,離心率は 3.16 ± 0.13 と大きな値を示す.ウィリアム・ハーシェル望遠鏡とジェミニ北望遠鏡で 2019 年 9 月 10-13 日に撮影された画像では,広がったコマと,薄く広い尾が存在している.これは一般的な彗星活動の特徴である.
g’ と r’ バンドの等級から,g’-r’ 色指数は 0.63 ± 0.02 と計算され,これは太陽系の彗星で測定されている値と同程度である.また「測光的」な核の直径は ~500 m と推定される.したがって,この彗星の核は非常に小さく,回転による破壊を経験する可能性は ~10% である.
初期のこの天体の特徴付けに基づくと,C/2019 Q4 (Borisov) は,双曲線軌道にあることを除けば太陽系内に元々存在する彗星とは見分けがつかないように思われる.この天体の発見は,恒星間彗星は一般的な存在である可能性を示唆し,このような初めての天体を非常に詳細に調査する機会を与えてくれる.
9 月8 日 04:15 (UT) に,ソフトウェア “Interstellar Crusher” が双曲線軌道のアラートを出した.その後の公開データの解析で,ボリソフ彗星は 15σ の確度で双曲線軌道を持つことが確認され,離心率は 3.16 ± 0.13,近日点距離 1.96 ± 0.04 au と測定された.
ボリソフ彗星は,カシオペヤ座の方向から太陽系に進入したと推定される.黄道面から離れた方向からやってきており,惑星による摂動によってこの双曲線軌道を説明することはできない.
arXiv:1909.05851
Guzik et al. (2019)
Interstellar comet C/2019 Q4 (Borisov)
(恒星間彗星 C/2019 Q4 (ボリソフ彗星))
概要
太陽系内を通過する恒星間彗星の存在は,何十年にもわたって予測されてきた.したがって Pan-STARRS が発見した,彗星ではなく小惑星状の恒星間天体オウムアムアの発見は,大きな驚きと謎をもたらした.さらに,オウムアムアの物理的特性は太陽系内天体とは大きく異なり,恒星間の小天体に対する我々の見方を大きく変えた.ここでは,明確に彗星の特徴を有している,新しい恒星間天体の同定と初期の特徴付けについて報告する.この天体は,公開されている位置天文データの中から,データ採掘コードによって存在が同定された.
この天体の軌道データは,放物線軌道を仮定した場合に予想されるものからの系統的に大きな乖離を示しており,離心率は 3.16 ± 0.13 と大きな値を示す.ウィリアム・ハーシェル望遠鏡とジェミニ北望遠鏡で 2019 年 9 月 10-13 日に撮影された画像では,広がったコマと,薄く広い尾が存在している.これは一般的な彗星活動の特徴である.
g’ と r’ バンドの等級から,g’-r’ 色指数は 0.63 ± 0.02 と計算され,これは太陽系の彗星で測定されている値と同程度である.また「測光的」な核の直径は ~500 m と推定される.したがって,この彗星の核は非常に小さく,回転による破壊を経験する可能性は ~10% である.
初期のこの天体の特徴付けに基づくと,C/2019 Q4 (Borisov) は,双曲線軌道にあることを除けば太陽系内に元々存在する彗星とは見分けがつかないように思われる.この天体の発見は,恒星間彗星は一般的な存在である可能性を示唆し,このような初めての天体を非常に詳細に調査する機会を与えてくれる.
恒星間彗星・ボリソフ彗星について
ボリソフ彗星は,2019 年 8 月 30 日 01:03 (UT) に,Gennady Borisov によって発見され,仮符号 gb00234 が付与された.その後,彗星としての C/2019 Q4 (Borisov) という仮符号が与えられた.9 月8 日 04:15 (UT) に,ソフトウェア “Interstellar Crusher” が双曲線軌道のアラートを出した.その後の公開データの解析で,ボリソフ彗星は 15σ の確度で双曲線軌道を持つことが確認され,離心率は 3.16 ± 0.13,近日点距離 1.96 ± 0.04 au と測定された.
ボリソフ彗星は,カシオペヤ座の方向から太陽系に進入したと推定される.黄道面から離れた方向からやってきており,惑星による摂動によってこの双曲線軌道を説明することはできない.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1909.04884
Keles et al. (2019)
The potassium absorption on HD189733b and HD209458b
(HD 189733b と HD 209458b でのカリウムの吸収)
2 × 8.4 m Large Binocular Telescope と Potsdam Echelle Polarimetric and Spectroscopic Instrument (PEPSI) による,2 惑星の高分散トランジット観測を実行した.分光観測のバンド幅は 0.8 Å である,
その結果,HD 189733b で 7σ を超えるカリウムの吸収が検出された.吸収の深さは 0.18% であった.
同じ解析を HD 209458b に適用した結果,こちらではカリウムの吸収は検出されず,吸収の上限値として 3σ で 0.09% という上限を与えた.
HD 189733b の大気ではカリウムの吸収があるものの,HD 209458b では見られないことを示唆する結果である.この結果は,これら 2 つの惑星大気が基本的に異なる性質を持つという過去の主張を確認するものである.
1500 K 程度のホットジュピターの大気では,可視光の波長での最も強い原子の吸収源は,ナトリウムとカリウムである (Fortney et al. 2010).独立した観測で,HD 189733b と HD 209458b の両方の大気中に,低分散分光観測と高分散分光観測の両方でナトリウムの存在が確認されている (HD 209458b, Charbonneau et al. 2002,Snellen et al. 2008,HD 189733b, Redfield et al. 2008,Wyttenbach et al. (2015)).
しかし,カリウムは高分散観測では確実な検出は行われていない.ただし,最近 WASP-31b でのカリウムの検出の試みはある (Gibson et al. 2019).
現時点では,両惑星におけるカリウムは低分散と高分散両方での有意な検出報告は存在しない.
arXiv:1909.04884
Keles et al. (2019)
The potassium absorption on HD189733b and HD209458b
(HD 189733b と HD 209458b でのカリウムの吸収)
概要
HD 189733b と HD 209458b での波長 7699 Å のカリウムの超過吸収の検出について報告する.2 × 8.4 m Large Binocular Telescope と Potsdam Echelle Polarimetric and Spectroscopic Instrument (PEPSI) による,2 惑星の高分散トランジット観測を実行した.分光観測のバンド幅は 0.8 Å である,
その結果,HD 189733b で 7σ を超えるカリウムの吸収が検出された.吸収の深さは 0.18% であった.
同じ解析を HD 209458b に適用した結果,こちらではカリウムの吸収は検出されず,吸収の上限値として 3σ で 0.09% という上限を与えた.
HD 189733b の大気ではカリウムの吸収があるものの,HD 209458b では見られないことを示唆する結果である.この結果は,これら 2 つの惑星大気が基本的に異なる性質を持つという過去の主張を確認するものである.
ホットジュピターからのカリウム検出
ホットジュピターの大気からは様々な分子や原子が検出されている.例えば,ナトリウム,カリウム,チタンと鉄,水素,マグネシウムである.1500 K 程度のホットジュピターの大気では,可視光の波長での最も強い原子の吸収源は,ナトリウムとカリウムである (Fortney et al. 2010).独立した観測で,HD 189733b と HD 209458b の両方の大気中に,低分散分光観測と高分散分光観測の両方でナトリウムの存在が確認されている (HD 209458b, Charbonneau et al. 2002,Snellen et al. 2008,HD 189733b, Redfield et al. 2008,Wyttenbach et al. (2015)).
しかし,カリウムは高分散観測では確実な検出は行われていない.ただし,最近 WASP-31b でのカリウムの検出の試みはある (Gibson et al. 2019).
現時点では,両惑星におけるカリウムは低分散と高分散両方での有意な検出報告は存在しない.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1208 Tsiaras et al. (2019) および Benneke et al. (2019) ハビタブルゾーン内にある系外惑星 K2-18b の大気中の水蒸気の検出
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1909.05218
Tsiaras et al. (2019)
Water vapour in the atmosphere of the habitable-zone eight Earth-mass planet K2-18 b
(ハビタブルゾーンの 8 地球質量惑星 K2-18b の大気中の水蒸気)
温暖な地球型惑星では,水の存在は居住可能な環境の指標として非常に重要である.このような惑星は小さく比較的低温であることから,これらの惑星とその大気は観測が困難であり,大気のスペクトルのシグナルはこれまでに検出されていない.
晩期型星を公転する 10 地球質量よりも軽いスーパーアースは,このような惑星の特性を分光学的に研究する良い対象である.ここでは,M 型矮星のハビタブルゾーンを公転する 8 地球質量の惑星 K2-18b の大気から,水の特徴を分光学的に検出したことを報告する.
さらに,観測から導出した平均分子量からは,この惑星の大気はいくらかの水素を含んでいることが示唆される.観測にはハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を使用した.
M 型星の周囲の環境がハビタブル惑星に適しているかどうかについては議論の余地があるが,この惑星はハビタブルゾーン内の惑星の組成と気候に関する考察を得るための非常に良い対象である.
前者 2 つの惑星は,トランジット深さの波長依存性が見られない.このことは,これらの惑星大気が分厚い雲に覆われているか,水素よりも重い分子種でできているかを示唆している.一方で 55 Cnc 3 のスペクトルは,軽い大気を持つことを示唆しているが,依然として大気中には水素・ヘリウムが存在することを示唆する.
さらに,超低温矮星 TRAPPIST-1 周りの 6 つの温暖な地球サイズの惑星 TRAPPIST-1b, c, d, e, f, g は大気中の分子の特徴を示さず,雲なしの H/He 大気を持つ可能性は否定されている.
軌道長半径は 0.1429 AU で,恒星のハビタブルゾーン (0.12-0.25 AU) の中に位置している.惑星の表面温度は 200-320 K と推定される.この温度は,惑星のアルベドと,惑星表面もしくは惑星大気の放射能率に依存する.
惑星は 7.96 地球質量,2.279 地球半径であり,バルク密度は 3.3 g cm-3 である.この密度は,この惑星が広がった大気を持つ岩石惑星か,水の質量割合が 50% 未満の内部組成を持つ惑星かのいずれかであることを示唆している.
この惑星の 9 回のトランジットは過去にハッブル宇宙望遠鏡で観測されており,今回解析に用いたのはアーカイブとして公開されていたデータである.
解析の結果,大気組成に関する限りは,今回考慮した全てのケースにおいて高い統計的信頼性で大気中の水蒸気の存在を確認した.しかし,その存在度もしくは大気の平均分子量を制限することは難しい.
H2O + H2/He 大気のケースでは,水の存在度は 50% から 20% の間と推定される.他の 2 ケースでは 0.01% と 12.5% の間である.また大気の平均分子量は H2O + H2/He 大気のケースでは 5.8-11.5 amu,他のケースでは 2.3-7.8 amu と推定される.
この結果は,大気の無視できない割合は依然として H/He であることを示唆している.
さらなる別の気体,例えば CH4 や NH3 を含む可能性は除外できないが,現在の観測では同定できない.これは,ハッブル宇宙望遠鏡 WFC3 がカバーする波長範囲と限定的なシグナルノイズ比では,他の分子の検出はできないからである.
arXiv:1909.04642
Benneke et al. (2019)
Water Vapor on the Habitable-Zone Exoplanet K2-18b
(ハビタブルゾーンの系外惑星 K2-18b の水蒸気)
ここでは,8.6 地球質量のハビタブルゾーン惑星 K2-18b の大気中の水蒸気の検出と,液体の水からなる雲を示す可能性のあるシグナルについて報告する.
スペクトル型 M3 の矮星を 33 日周期で公転する軌道にあるこの惑星は,実質的に地球と同程度の輻射を受けている (1441 ± 80 W/m2,地球は 1370 W/m2),そのため液体の水の雲を持つ可能性がある良い候補天体である.
ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた 8 回のトランジット観測により,水蒸気の検出に必要な感度を達成した.
K2-18b が分厚いガスのエンベロープを持っていることは,この惑星は実際には地球類似惑星ではないことを意味している.しかしこの観測は,液体の水を保持するための環境が整った低質量のハビタブルゾーン惑星は,最新の望遠鏡で観測可能であることを実証するものである.
この惑星の中間大気では,液体の水の雨が存在する可能性がある.ここでは,この惑星の大気中の液滴の可能性についても,輻射対流熱輸送と化学平衡を反復的に解く大気モデルを使用して考察した.
その結果,10-1000 mbar の,水蒸気が過飽和状態になる範囲では,液体の水からなる凝縮物が生成可能であることが分かった.ベストフィットの大気復元モデルでは,雲頂はこの圧力範囲の中に入っており,この惑星の大気中には液体の水滴が存在する可能性があるというシナリオを支持する.
同じ系外惑星についての,同じ観測データを用いた論文です.ハッブル宇宙望遠鏡でのこの惑星の観測提案を行ったのは Benneke らのグループであり,観測が行われて一定期間経った後にデータが公開され,そのアーカイブデータを用いて Tsiaras らのグループが先に論文として発表した模様です.
arXiv:1909.05218
Tsiaras et al. (2019)
Water vapour in the atmosphere of the habitable-zone eight Earth-mass planet K2-18 b
(ハビタブルゾーンの 8 地球質量惑星 K2-18b の大気中の水蒸気)
概要
過去十年間の観測において,宇宙空間からと地上からの観測では,高温な系外ガス惑星の大気からは水素に次いで水が最も多く発見されている分子である.水分子は酸素原子を保持する主要な分子であることから,水の存在は惑星の起源と形成機構のトレーサーとなる.温暖な地球型惑星では,水の存在は居住可能な環境の指標として非常に重要である.このような惑星は小さく比較的低温であることから,これらの惑星とその大気は観測が困難であり,大気のスペクトルのシグナルはこれまでに検出されていない.
晩期型星を公転する 10 地球質量よりも軽いスーパーアースは,このような惑星の特性を分光学的に研究する良い対象である.ここでは,M 型矮星のハビタブルゾーンを公転する 8 地球質量の惑星 K2-18b の大気から,水の特徴を分光学的に検出したことを報告する.
さらに,観測から導出した平均分子量からは,この惑星の大気はいくらかの水素を含んでいることが示唆される.観測にはハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を使用した.
M 型星の周囲の環境がハビタブル惑星に適しているかどうかについては議論の余地があるが,この惑星はハビタブルゾーン内の惑星の組成と気候に関する考察を得るための非常に良い対象である.
小型の惑星大気の過去の観測例
大きさが 3.0 地球半径よりも小さい,高温な惑星大気のスペクトルに関しては過去に観測例がある.GJ 1214b,HD 97658,55 Cnc e (かに座55番星e) である.前者 2 つの惑星は,トランジット深さの波長依存性が見られない.このことは,これらの惑星大気が分厚い雲に覆われているか,水素よりも重い分子種でできているかを示唆している.一方で 55 Cnc 3 のスペクトルは,軽い大気を持つことを示唆しているが,依然として大気中には水素・ヘリウムが存在することを示唆する.
さらに,超低温矮星 TRAPPIST-1 周りの 6 つの温暖な地球サイズの惑星 TRAPPIST-1b, c, d, e, f, g は大気中の分子の特徴を示さず,雲なしの H/He 大気を持つ可能性は否定されている.
K2-18b について
K2-18b は 2015 年にケプラーによる観測で発見された惑星である.中心星 K2-18 はスペクトル型が M2.5 で,有効温度は 3457 K,0.359 太陽質量,0.411 太陽半径,太陽系からの距離は 34 pc である.軌道長半径は 0.1429 AU で,恒星のハビタブルゾーン (0.12-0.25 AU) の中に位置している.惑星の表面温度は 200-320 K と推定される.この温度は,惑星のアルベドと,惑星表面もしくは惑星大気の放射能率に依存する.
惑星は 7.96 地球質量,2.279 地球半径であり,バルク密度は 3.3 g cm-3 である.この密度は,この惑星が広がった大気を持つ岩石惑星か,水の質量割合が 50% 未満の内部組成を持つ惑星かのいずれかであることを示唆している.
この惑星の 9 回のトランジットは過去にハッブル宇宙望遠鏡で観測されており,今回解析に用いたのはアーカイブとして公開されていたデータである.
観測結果
大気組成の推定においては,雲なしの大気で,H2O と H2/He のみを含む場合,雲なしの大気で H2O,H2/He と N2 を含むもの (N2 は平均分子量には寄与するものの,WFC3 のバンドパスでは検出できない「不可視」の分子として働く),および,曇った大気で H2O と H2/He のみを含むものの 3 種類を考慮した.解析の結果,大気組成に関する限りは,今回考慮した全てのケースにおいて高い統計的信頼性で大気中の水蒸気の存在を確認した.しかし,その存在度もしくは大気の平均分子量を制限することは難しい.
H2O + H2/He 大気のケースでは,水の存在度は 50% から 20% の間と推定される.他の 2 ケースでは 0.01% と 12.5% の間である.また大気の平均分子量は H2O + H2/He 大気のケースでは 5.8-11.5 amu,他のケースでは 2.3-7.8 amu と推定される.
この結果は,大気の無視できない割合は依然として H/He であることを示唆している.
さらなる別の気体,例えば CH4 や NH3 を含む可能性は除外できないが,現在の観測では同定できない.これは,ハッブル宇宙望遠鏡 WFC3 がカバーする波長範囲と限定的なシグナルノイズ比では,他の分子の検出はできないからである.
arXiv:1909.04642
Benneke et al. (2019)
Water Vapor on the Habitable-Zone Exoplanet K2-18b
(ハビタブルゾーンの系外惑星 K2-18b の水蒸気)
概要
ケプラーミッションの結果によると,任意の恒星のハビタブルゾーン内に地球やスーパーアースが存在する確率は最大で 5-20% であることが示唆されている.このような高い存在度にも関わらず,これらのハビタブルゾーン内惑星の環境や大気特性を探査するのは非常に困難であり,系外惑星研究における課題となっている.ここでは,8.6 地球質量のハビタブルゾーン惑星 K2-18b の大気中の水蒸気の検出と,液体の水からなる雲を示す可能性のあるシグナルについて報告する.
スペクトル型 M3 の矮星を 33 日周期で公転する軌道にあるこの惑星は,実質的に地球と同程度の輻射を受けている (1441 ± 80 W/m2,地球は 1370 W/m2),そのため液体の水の雲を持つ可能性がある良い候補天体である.
ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた 8 回のトランジット観測により,水蒸気の検出に必要な感度を達成した.
K2-18b が分厚いガスのエンベロープを持っていることは,この惑星は実際には地球類似惑星ではないことを意味している.しかしこの観測は,液体の水を保持するための環境が整った低質量のハビタブルゾーン惑星は,最新の望遠鏡で観測可能であることを実証するものである.
液体の水の雲が存在する可能性
今回の観測では,波長 1.4 µm での統計的に有意な水の吸収の特徴を検出した.この惑星の中間大気では,液体の水の雨が存在する可能性がある.ここでは,この惑星の大気中の液滴の可能性についても,輻射対流熱輸送と化学平衡を反復的に解く大気モデルを使用して考察した.
その結果,10-1000 mbar の,水蒸気が過飽和状態になる範囲では,液体の水からなる凝縮物が生成可能であることが分かった.ベストフィットの大気復元モデルでは,雲頂はこの圧力範囲の中に入っており,この惑星の大気中には液体の水滴が存在する可能性があるというシナリオを支持する.
同じ系外惑星についての,同じ観測データを用いた論文です.ハッブル宇宙望遠鏡でのこの惑星の観測提案を行ったのは Benneke らのグループであり,観測が行われて一定期間経った後にデータが公開され,そのアーカイブデータを用いて Tsiaras らのグループが先に論文として発表した模様です.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1909.03000
Daylan et al. (2019)
TESS observations of the WASP-121 b phase curve
(WASP-121b 位相曲線の TESS の観測)
この惑星は 1.275 日という短い軌道周期であり,また膨張した半径を持ち,さらに中心星が明るいため,詳細な特徴付けを行うための観測に非常に適した対象である.ここでは allesfitter を用いて赤い可視光の全位相曲線の特徴付けを行った.これは惑星の位相変動と二次食を含む.
TESS のパスバンドで昼側と夜側の輝度温度を測定し,それぞれ 2940 K と 2190 K と推定された.また惑星上の最も明るい場所の恒星直下点からの位相のずれは検出されなかった.これは,この惑星における熱の再循環が非効率的であることと整合的である.
WASP-121b のバルク組成やアルベド,熱の再循環などの昼側大気の特性を推定するための大気復元解析を実行した.その結果,大気中の温度逆転層の存在を確認した.温度逆転層が形成される原因として,H-,TiO,VO による吸収の可能性を示唆する.これらの核種は,大気の低圧領域で可視光を吸収して大気を加熱すると考えられる.
今回の TESS による全位相曲線の初めての観測は,将来のハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測につながるものとなるだろう.
今回の赤い波長域の可視光での二次食観測は,先行研究での測定結果と全体的に整合的である.
しかし Mikal-Evans et al. (2019) での復元解析のみに基づくと,つまり今回の TESS による測定結果を除いた解析に基づくと,予測される二次食深さは ~300 ppm である.これは,TESS の二次食深さの測定は,より赤いバンドでの二次食の測定に基づく予想を上回っており,この惑星の昼側の放射スペクトルは黒体放射スペクトルとは非整合であることを示唆している.
惑星の夜側からの放射については,輝度温度が 2190 K と測定された.また,西向きへの位相のずれは 1.0 (+6.5, -6.4) 度であり,これは 0 度と整合的である.
昼面と夜面の温度差は 25.7% であった.
2 次元の温度マップでは位相のずれが無く,温度は経度の関数として大きな勾配を持つ.これは,強い赤道風によって熱位相が ~30度ずれていることが分かっているホットジュピター HD 189733b とは対照的な結果である.
昼側の輻射効率はほぼ 1 と推定される.この惑星の昼側大気は非反射と整合的で,非効率的な熱再循環を持つ.
z’ バンドでの幾何学的アルベドの過去の推定値は 0.16 ± 0.11 である (Mallonn et al. 2019).TESS バンドで測定された幾何学的アルベドは 0.07 (+0.037, -0.040) であり,TESS のパスバンドでは無視できない反射率を持つことの緩やかな証拠である.
二次食の深さは,過去の長波長での二次食の深さ測定に基づく予測よりも深い値であった.この超過には,2 つの要素が関係している可能性がある.
1 つ目は,この惑星は TESS のパスバンドの波長ではいくらかの光を反射しているというものである.TESS パスバンドは過去の観測よりも短い波長をカバーしており,その波長域では惑星と恒星の熱放射のコントラストが小さくなる.そのためこの超過は,系外惑星表面での反射光によるものである可能性がある.
一般的に,比較的低温な惑星 (例えば 300 K 以下) での水やアンモニアなどの凝縮物や,高温惑星 (1500 K 以上) での酸化アルミニウム (Al2O3,コランダム) やチタン酸カルシウム (CaTiO3,ペロブスカイト) の凝縮物は惑星の反射率を上げ,結果としてアルベドを上げる.
しかし WASP-121b のようなウルトラホットジュピターは,雲のミー散乱による高い反射率を持たないことが予想される (Bell et al. 2017,Shporer et al. 2019).これは,このような高温の惑星では凝縮物が生成されないからである.
また,雲なし大気でのレイリー散乱は短波長でのみ有効であり,TESS のパスバンドでアルベドを上げるには不十分である.
ただし,この惑星のような高温の恒星直下であっても,夜側の半球から昼側に流入してきたばかりでまだ縁に近い大気の場合,夜側で生成された凝縮物が蒸発するための十分な時間がない場合は,これらによる反射が起こりうる.
2 つ目は,さらなる不透明度源の存在である.これは,温度逆転層が存在するという過去の報告とも整合的である.さらなる吸収を引き起こしうるのは,H- イオンによる連続波吸収,鉄などの金属のガス (Lothringer et al. 2018),あるいは TiO や VO などである.
熱の再循環の取りうる範囲は,水素分子が熱的に水素原子に解離し,夜側で再結合により水素分子になって熱を解放することによる,昼側から夜側への熱の輸送で説明可能である.この過程は,帯状風のみに基づくものよりも,熱の再循環をより効率的にすることが出来る (Bell & Cowan 2018,Komacek & Tan 2018).
arXiv:1909.03000
Daylan et al. (2019)
TESS observations of the WASP-121 b phase curve
(WASP-121b 位相曲線の TESS の観測)
概要
Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) によるウルトラホットジュピター WASP-121b の,赤い可視光での測光観測について報告する.また,輻射輸送シミュレーションによる大気のモデル化についても報告する.この惑星は 1.275 日という短い軌道周期であり,また膨張した半径を持ち,さらに中心星が明るいため,詳細な特徴付けを行うための観測に非常に適した対象である.ここでは allesfitter を用いて赤い可視光の全位相曲線の特徴付けを行った.これは惑星の位相変動と二次食を含む.
TESS のパスバンドで昼側と夜側の輝度温度を測定し,それぞれ 2940 K と 2190 K と推定された.また惑星上の最も明るい場所の恒星直下点からの位相のずれは検出されなかった.これは,この惑星における熱の再循環が非効率的であることと整合的である.
WASP-121b のバルク組成やアルベド,熱の再循環などの昼側大気の特性を推定するための大気復元解析を実行した.その結果,大気中の温度逆転層の存在を確認した.温度逆転層が形成される原因として,H-,TiO,VO による吸収の可能性を示唆する.これらの核種は,大気の低圧領域で可視光を吸収して大気を加熱すると考えられる.
今回の TESS による全位相曲線の初めての観測は,将来のハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測につながるものとなるだろう.
観測結果
位相曲線
位相曲線では,二次食の深さは 534 ppm,惑星に由来する光度の変調は 445 ppm であった.この二次食の深さは,惑星の昼側の輝度温度が TESS のパスバンドで 2940 K であることに対応している.また ellipsoidal variation (惑星の潮汐力により恒星が変形することによる変光) による振幅は ~40 ppm と測定された.今回の赤い波長域の可視光での二次食観測は,先行研究での測定結果と全体的に整合的である.
しかし Mikal-Evans et al. (2019) での復元解析のみに基づくと,つまり今回の TESS による測定結果を除いた解析に基づくと,予測される二次食深さは ~300 ppm である.これは,TESS の二次食深さの測定は,より赤いバンドでの二次食の測定に基づく予想を上回っており,この惑星の昼側の放射スペクトルは黒体放射スペクトルとは非整合であることを示唆している.
惑星の夜側からの放射については,輝度温度が 2190 K と測定された.また,西向きへの位相のずれは 1.0 (+6.5, -6.4) 度であり,これは 0 度と整合的である.
昼面と夜面の温度差は 25.7% であった.
2 次元の温度マップでは位相のずれが無く,温度は経度の関数として大きな勾配を持つ.これは,強い赤道風によって熱位相が ~30度ずれていることが分かっているホットジュピター HD 189733b とは対照的な結果である.
大気特性
昼側の大気の金属量は,太陽より多く 1.18 と推定される.大気中の炭素の存在度は制限できなかったものの,酸素は太陽組成と近い存在度と推定される.昼側の輻射効率はほぼ 1 と推定される.この惑星の昼側大気は非反射と整合的で,非効率的な熱再循環を持つ.
z’ バンドでの幾何学的アルベドの過去の推定値は 0.16 ± 0.11 である (Mallonn et al. 2019).TESS バンドで測定された幾何学的アルベドは 0.07 (+0.037, -0.040) であり,TESS のパスバンドでは無視できない反射率を持つことの緩やかな証拠である.
議論
今回得られた TESS の位相曲線では,WASP-121b の昼側大気に温度逆転層が存在することのさらなる証拠が検出された.二次食の深さは,過去の長波長での二次食の深さ測定に基づく予測よりも深い値であった.この超過には,2 つの要素が関係している可能性がある.
1 つ目は,この惑星は TESS のパスバンドの波長ではいくらかの光を反射しているというものである.TESS パスバンドは過去の観測よりも短い波長をカバーしており,その波長域では惑星と恒星の熱放射のコントラストが小さくなる.そのためこの超過は,系外惑星表面での反射光によるものである可能性がある.
一般的に,比較的低温な惑星 (例えば 300 K 以下) での水やアンモニアなどの凝縮物や,高温惑星 (1500 K 以上) での酸化アルミニウム (Al2O3,コランダム) やチタン酸カルシウム (CaTiO3,ペロブスカイト) の凝縮物は惑星の反射率を上げ,結果としてアルベドを上げる.
しかし WASP-121b のようなウルトラホットジュピターは,雲のミー散乱による高い反射率を持たないことが予想される (Bell et al. 2017,Shporer et al. 2019).これは,このような高温の惑星では凝縮物が生成されないからである.
また,雲なし大気でのレイリー散乱は短波長でのみ有効であり,TESS のパスバンドでアルベドを上げるには不十分である.
ただし,この惑星のような高温の恒星直下であっても,夜側の半球から昼側に流入してきたばかりでまだ縁に近い大気の場合,夜側で生成された凝縮物が蒸発するための十分な時間がない場合は,これらによる反射が起こりうる.
2 つ目は,さらなる不透明度源の存在である.これは,温度逆転層が存在するという過去の報告とも整合的である.さらなる吸収を引き起こしうるのは,H- イオンによる連続波吸収,鉄などの金属のガス (Lothringer et al. 2018),あるいは TiO や VO などである.
熱の再循環の取りうる範囲は,水素分子が熱的に水素原子に解離し,夜側で再結合により水素分子になって熱を解放することによる,昼側から夜側への熱の輸送で説明可能である.この過程は,帯状風のみに基づくものよりも,熱の再循環をより効率的にすることが出来る (Bell & Cowan 2018,Komacek & Tan 2018).
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1909.03010
Bourrier et al. (2019)
Optical phase curve of the ultra-hot Jupiter WASP-121b
(ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線)
惑星における最も高温な領域であるホットスポットは恒星直下点にあり,TESS で観測できる高度では,昼側 (2870 K) から夜側 (2200 K 未満) への非効率な熱輸送が存在することが示された.
TESS で測定された二次食の深さは,この惑星に対してこれまでのところ最も短い波長で測定されたものであり,これにより惑星の放射の黒体輻射からの強い乖離を確認した.
完全な放射スペクトルに対する大気の復元は,大気中に温度逆転層が存在することを支持する結果が得られた.これは大気中の VO (酸化バナジウム) の存在や,あるいは存在する可能性のある TiO と FeH によって説明可能である.
また,短波長での強い惑星の放射は,H- イオンの連続波に由来する.
ハッブル宇宙望遠鏡での観測では,惑星の昼側から水の放射の兆候が検出されており,また大気中に温度逆転層が存在することが明らかにされている (Evans et al. 2017).大気高高度での酸化バナジウムと酸化チタンが,この成層圏が生成されている要因として提案されている.
また,別の単一バンドでの二次食の観測では,惑星の昼側の放射は等温の黒体放射からずれていることが示唆されている (Delrez et al. 2016, Kovacs & Kovacs 2019).
さらに,可視光と近赤外線波長での透過スペクトル観測では,大気の縁での水の吸収が検出されており,酸化バナジウムと鉄水素化物が存在する可能性も示唆されている.しかし酸化チタンは検出されなかった (Evans et al. 2016, 2018).
arXiv:1909.03010
Bourrier et al. (2019)
Optical phase curve of the ultra-hot Jupiter WASP-121b
(ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線)
概要
TESS による WASP-121b の可視光での測光観測結果の解析について報告する.この観測では,トランジットするウルトラホットジュピターの位相曲線を明らかにした.惑星における最も高温な領域であるホットスポットは恒星直下点にあり,TESS で観測できる高度では,昼側 (2870 K) から夜側 (2200 K 未満) への非効率な熱輸送が存在することが示された.
TESS で測定された二次食の深さは,この惑星に対してこれまでのところ最も短い波長で測定されたものであり,これにより惑星の放射の黒体輻射からの強い乖離を確認した.
完全な放射スペクトルに対する大気の復元は,大気中に温度逆転層が存在することを支持する結果が得られた.これは大気中の VO (酸化バナジウム) の存在や,あるいは存在する可能性のある TiO と FeH によって説明可能である.
また,短波長での強い惑星の放射は,H- イオンの連続波に由来する.
WASP-121b について
この惑星は,いわゆるウルトラホットジュピターと呼ばれる惑星である (Delrez et al. 2016).スペクトル型 F6 の恒星をトランジットする,非常に膨張した半径を持つガス惑星である.ハッブル宇宙望遠鏡での観測では,惑星の昼側から水の放射の兆候が検出されており,また大気中に温度逆転層が存在することが明らかにされている (Evans et al. 2017).大気高高度での酸化バナジウムと酸化チタンが,この成層圏が生成されている要因として提案されている.
また,別の単一バンドでの二次食の観測では,惑星の昼側の放射は等温の黒体放射からずれていることが示唆されている (Delrez et al. 2016, Kovacs & Kovacs 2019).
さらに,可視光と近赤外線波長での透過スペクトル観測では,大気の縁での水の吸収が検出されており,酸化バナジウムと鉄水素化物が存在する可能性も示唆されている.しかし酸化チタンは検出されなかった (Evans et al. 2016, 2018).
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