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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.10018
Abod et al. (2018)
The Mass and Size Distribution of Planetesimals Formed by the Streaming Instability. II. The Effect of the Radial Gas Pressure Gradient
(ストリーミング不安定で形成された微惑星の質量とサイズ分布 II.動径方向のガス圧力勾配の効果)
この不安定性は,ダスト粒子のクランプを生成し,不安定性の線形領域での臨界長さスケールを決定するという重要な役割があるにも関わらず,形成される微惑星の特性に対する圧力勾配の影響はこれまでによく調べられていない.ここでは,ダスト粒子の自己重力を含めた高分解能のストリーミング不安定の数値シミュレーションを用いて,微惑星の初期質量関数がどのように動径方向の圧力勾配に依存するかを研究した.
得られた結果を \(dN/dM_{\rm p}\propto M_{\rm p}^{-p}\) のべき乗則でフィットすると,圧力勾配の値をファクターで 2 以上変化させたシミュレーションで,\(p\approx 1.6\) の単一の指数でよく表されることが分かった.
質量が大きい側で指数関数的に切り取られたべき乗則によって,得られた累積質量関数をよく再現することが出来た.この関数にフィッティングすることで,単一の低質量側のスロープとして \(p’\simeq 1.3\) を得た.典型的な切り取り質量は,\(M_{G}=4\pi^{5}G^{2}\Sigma_{\rm p}^{3}/\Omega^{4}\) のオーダーになる.
なお,圧力勾配がゼロに初期化されたシミュレーション (これはストリーミング不安定が発生しない場合のシミュレーション) でも top-heavy な質量分布関数を得るが,ストリーミング不安定が発生した場合との分布の形状は大きく異なる.
理論的に予測される質量関数と,カイパーベルトにおける小天体の集合の観測結果との整合性について議論し,惑星形成の初期段階のモデルへの影響について述べる.
arXiv:1810.10018
Abod et al. (2018)
The Mass and Size Distribution of Planetesimals Formed by the Streaming Instability. II. The Effect of the Radial Gas Pressure Gradient
(ストリーミング不安定で形成された微惑星の質量とサイズ分布 II.動径方向のガス圧力勾配の効果)
概要
ストリーミング不安定 (streaming instability) は,原始惑星系円盤内で固体粒子を集め,重力崩壊と微惑星形成を引き起こす可能性があるメカニズムである.この不安定性を駆動するエネルギー源は,円盤内の動径方向の圧力勾配である.この不安定性は,ダスト粒子のクランプを生成し,不安定性の線形領域での臨界長さスケールを決定するという重要な役割があるにも関わらず,形成される微惑星の特性に対する圧力勾配の影響はこれまでによく調べられていない.ここでは,ダスト粒子の自己重力を含めた高分解能のストリーミング不安定の数値シミュレーションを用いて,微惑星の初期質量関数がどのように動径方向の圧力勾配に依存するかを研究した.
得られた結果を \(dN/dM_{\rm p}\propto M_{\rm p}^{-p}\) のべき乗則でフィットすると,圧力勾配の値をファクターで 2 以上変化させたシミュレーションで,\(p\approx 1.6\) の単一の指数でよく表されることが分かった.
質量が大きい側で指数関数的に切り取られたべき乗則によって,得られた累積質量関数をよく再現することが出来た.この関数にフィッティングすることで,単一の低質量側のスロープとして \(p’\simeq 1.3\) を得た.典型的な切り取り質量は,\(M_{G}=4\pi^{5}G^{2}\Sigma_{\rm p}^{3}/\Omega^{4}\) のオーダーになる.
なお,圧力勾配がゼロに初期化されたシミュレーション (これはストリーミング不安定が発生しない場合のシミュレーション) でも top-heavy な質量分布関数を得るが,ストリーミング不安定が発生した場合との分布の形状は大きく異なる.
理論的に予測される質量関数と,カイパーベルトにおける小天体の集合の観測結果との整合性について議論し,惑星形成の初期段階のモデルへの影響について述べる.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.10084
Khain et al. (2018)
Dynamical Analysis of Three Distant Trans-Neptunian Objects with Similar Orbits
(類似した軌道を持つ 3 つの遠方太陽系外縁天体の力学的解析)
3 つとも軌道長半径は 172 AU 程度,離心率は 0.77 程度である.角度要素 (\(i,\,\omega\,\Omega\)) は 3 つの天体間でそれぞれ 6, 15, 49 度異なる (軌道傾斜角,近日点引数,昇交点黄経).新しく発見された 2 つの天体は,軌道長半径が 150 - 250 AU の範囲にある,現在知られている TNOs の数少ないメンバーの一員である.また,太陽系の外縁部を知るための興味深い力学的な観察対象となる.
大量の数値積分の組み合わせから,これらの天体の軌道は軌道長半径-軌道離心率平面上でより拡散した値に広がるまで,1 億年程度に渡って近くに存在することが期待されることが分かった.
これらの天体の遠日点距離は 300 AU 以上であり,これらの ETNOs は古典的なカイパーベルトを大きく超えた軌道を持つ.また海王星よりも一桁遠くなる.その結果として,これらの天体の軌道要素は,新しい太陽系のメンバーとして存在が提唱されている Planet Nine に影響される可能性がある.また近日点距離は 35- 40 AU であり,これらの軌道は海王星との共鳴相互作用にも影響される.
Planet Nine などの新しい太陽系惑星の可能性を十分に評価するためには,現在発見が増えているこのような TNOs の新しいクラスを考慮する必要がある.
軌道離心率:0.798
軌道傾斜角:26.081 度
近日点引数:282.87 度
昇交点黄経:176.543 度
近日点距離:35.0 AU
遠日点距離:312 AU
絶対等級:7.7
軌道離心率:0.76731
軌道傾斜角:21.38750 度
近日点引数:281.093 度
昇交点黄経:173.2150 度
近日点距離:39.95 AU
遠日点距離:303.45 AU
絶対等級:5.9
軌道離心率:0.79439
軌道傾斜角:16.97552 度
近日点引数:303.337 度
昇交点黄経:102.8996 度
近日点距離:35.249 AU
遠日点距離:307.63 AU
絶対等級:7.95
このサーベイは,ワイドサーベイと超新星サーベイの 2 つのモードを有している.
広視野サーベイは,おおよそ 6 ヶ月に 2 - 4 回の観測で,各観測波長で 5000 平方度の範囲内を観測している.超新星サーベイではおおむね 6 日ごとに 10 個の視野を観測している.超新星サーベイでの視野はそれぞれ 3 平方度と小さいが,観測頻度が多いため太陽系内の移動天体の探査に適している.
これまでに,DES による TNOs の発見は,超新星サーベイ (Gerdes et al. 2016) とワイドサーベイ (Gerdes et al. 2017,Becker et al. 2018,Lin et al. 2018) の両方から報告されている.
arXiv:1810.10084
Khain et al. (2018)
Dynamical Analysis of Three Distant Trans-Neptunian Objects with Similar Orbits
(類似した軌道を持つ 3 つの遠方太陽系外縁天体の力学的解析)
概要
2 つの新しい extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) である 2016 QV89 と 2016 QU89 の発見と軌道の特徴付けについて報告する.この 2 つは,過去に発見されていた 2013 UH15 と類似した軌道を持つ.3 つとも軌道長半径は 172 AU 程度,離心率は 0.77 程度である.角度要素 (\(i,\,\omega\,\Omega\)) は 3 つの天体間でそれぞれ 6, 15, 49 度異なる (軌道傾斜角,近日点引数,昇交点黄経).新しく発見された 2 つの天体は,軌道長半径が 150 - 250 AU の範囲にある,現在知られている TNOs の数少ないメンバーの一員である.また,太陽系の外縁部を知るための興味深い力学的な観察対象となる.
大量の数値積分の組み合わせから,これらの天体の軌道は軌道長半径-軌道離心率平面上でより拡散した値に広がるまで,1 億年程度に渡って近くに存在することが期待されることが分かった.
これらの天体の遠日点距離は 300 AU 以上であり,これらの ETNOs は古典的なカイパーベルトを大きく超えた軌道を持つ.また海王星よりも一桁遠くなる.その結果として,これらの天体の軌道要素は,新しい太陽系のメンバーとして存在が提唱されている Planet Nine に影響される可能性がある.また近日点距離は 35- 40 AU であり,これらの軌道は海王星との共鳴相互作用にも影響される.
Planet Nine などの新しい太陽系惑星の可能性を十分に評価するためには,現在発見が増えているこのような TNOs の新しいクラスを考慮する必要がある.
パラメータ
2013 UH15
軌道長半径:173.6 AU軌道離心率:0.798
軌道傾斜角:26.081 度
近日点引数:282.87 度
昇交点黄経:176.543 度
近日点距離:35.0 AU
遠日点距離:312 AU
絶対等級:7.7
2016 QV89
軌道長半径:171.70 AU軌道離心率:0.76731
軌道傾斜角:21.38750 度
近日点引数:281.093 度
昇交点黄経:173.2150 度
近日点距離:39.95 AU
遠日点距離:303.45 AU
絶対等級:5.9
2016 QU89
軌道長半径:171.40 AU軌道離心率:0.79439
軌道傾斜角:16.97552 度
近日点引数:303.337 度
昇交点黄経:102.8996 度
近日点距離:35.249 AU
遠日点距離:307.63 AU
絶対等級:7.95
サイズの推定
アルベド 10% を仮定すると,2016 QV89,QU89,UH15 はそれぞれ直径 280 km,110 km,120 km と推定される.Dark Energy Survey による太陽系外縁天体探査
これらの天体は,The Dark Energy Survey (DES) (Dark Energy Survey Collaboration et al. 2016) の一環で観測された.これはチリの Cerro Tololo Inter-American Observatory の 4 m Blanco telescope を用いた可視光でのサーベイで,南天の 5000 平方度に近い範囲をサーベイするプロジェクトである.観測には Dark Energy Camera (DECam) を使用している.このサーベイは,ワイドサーベイと超新星サーベイの 2 つのモードを有している.
広視野サーベイは,おおよそ 6 ヶ月に 2 - 4 回の観測で,各観測波長で 5000 平方度の範囲内を観測している.超新星サーベイではおおむね 6 日ごとに 10 個の視野を観測している.超新星サーベイでの視野はそれぞれ 3 平方度と小さいが,観測頻度が多いため太陽系内の移動天体の探査に適している.
これまでに,DES による TNOs の発見は,超新星サーベイ (Gerdes et al. 2016) とワイドサーベイ (Gerdes et al. 2017,Becker et al. 2018,Lin et al. 2018) の両方から報告されている.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.07572
Luque et al. (2018)
The CARMENES search for exoplanets around M dwarfs: The warm super-Earths in twin orbits around the mid-type M dwarfs Ross 1020 (GJ 3779) and LP 819-052 (GJ 1265)
(M 矮星周りの系外惑星の CARMENES 探査:中期 M 型矮星ロス1020 (GJ 3779) と LP 819-052 (GJ 1265) まわりの温暖なスーパーアース)
解析に用いたデータセットから,それぞれの恒星が 1 つずつの惑星を持つことが判明した,またそれぞれの惑星の特性は非常に似ている.
GJ 3779b と GJ 1265b の最小質量はそれぞれ 8.0, 7.4 地球質量で,低軌道離心率軌道にあり,軌道周期は 3.023 と 3.651 日である.
視線速度データ中に発見された 3 日前後の周期的シグナルは,その他の恒星のスペクトル活動指標には対応するものはなかった.加えて,2 つの中心星の参照可能な測光データを集め,95 日前後の追加のドップラー変動の存在を確認した.これは恒星の自転によるものと考えられる.
これらの惑星を,これまでに発見されている M 型星まわりの系外惑星の質量-周期ダイアグラムにプロットした.その結果,短周期の低質量惑星 (2 - 5 地球質量) が少ない,二峰性の分布をしていることが示唆された.
また,現在視線速度法とトランジット法で M 型星まわりに発見されているスーパーアース (5 地球質量以上) は,一般には単一の惑星を持つ系で占められていることが示唆された.
距離:13.748 pc
有効温度:3324 K
金属量:[Fe/H] = 0.00
光度:0.00867 太陽光度
半径:0.281 太陽半径
質量:0.27 太陽質量
自転周期:95 日
軌道離心率:0.07
最小質量:8.0 地球質量
軌道長半径:0.026 au
距離:10.255 pc
有効温度:3236 K
金属量:[Fe/H] = -0.04
光度:0.00364 太陽光度
半径:0.192 太陽半径
質量:0.178 太陽質量
自転周期:70 日以上
軌道離心率:0.04
最小質量:7.4 地球質量
軌道長半径:0.026 au
arXiv:1810.07572
Luque et al. (2018)
The CARMENES search for exoplanets around M dwarfs: The warm super-Earths in twin orbits around the mid-type M dwarfs Ross 1020 (GJ 3779) and LP 819-052 (GJ 1265)
(M 矮星周りの系外惑星の CARMENES 探査:中期 M 型矮星ロス1020 (GJ 3779) と LP 819-052 (GJ 1265) まわりの温暖なスーパーアース)
概要
低質量星の Ross 1020 (ロス1020,GJ 3779,スペクトル型:M4.0V) と LP 819-052 (GJ 1265,スペクトル型:M4.5V) のまわりの 2 つの惑星の発見を報告する.可視光領域での CARMENES 視線速度観測によって発見された.また GJ 1265 では,HAPRS で取得されていたドップラー測定の公開データも使用した.解析に用いたデータセットから,それぞれの恒星が 1 つずつの惑星を持つことが判明した,またそれぞれの惑星の特性は非常に似ている.
GJ 3779b と GJ 1265b の最小質量はそれぞれ 8.0, 7.4 地球質量で,低軌道離心率軌道にあり,軌道周期は 3.023 と 3.651 日である.
視線速度データ中に発見された 3 日前後の周期的シグナルは,その他の恒星のスペクトル活動指標には対応するものはなかった.加えて,2 つの中心星の参照可能な測光データを集め,95 日前後の追加のドップラー変動の存在を確認した.これは恒星の自転によるものと考えられる.
これらの惑星を,これまでに発見されている M 型星まわりの系外惑星の質量-周期ダイアグラムにプロットした.その結果,短周期の低質量惑星 (2 - 5 地球質量) が少ない,二峰性の分布をしていることが示唆された.
また,現在視線速度法とトランジット法で M 型星まわりに発見されているスーパーアース (5 地球質量以上) は,一般には単一の惑星を持つ系で占められていることが示唆された.
パラメータ
GJ 3779 系
GJ 3779
別名:Ross 1020距離:13.748 pc
有効温度:3324 K
金属量:[Fe/H] = 0.00
光度:0.00867 太陽光度
半径:0.281 太陽半径
質量:0.27 太陽質量
自転周期:95 日
GJ 3779b
軌道周期:3.0232 日軌道離心率:0.07
最小質量:8.0 地球質量
軌道長半径:0.026 au
GJ 1265 系
GJ 1265
別名:LP 819-052距離:10.255 pc
有効温度:3236 K
金属量:[Fe/H] = -0.04
光度:0.00364 太陽光度
半径:0.192 太陽半径
質量:0.178 太陽質量
自転周期:70 日以上
GJ 1265b
軌道周期:3.6511 日軌道離心率:0.04
最小質量:7.4 地球質量
軌道長半径:0.026 au
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.06920
Kubyshkina et al. (2018)
Overcoming the limitations of the energy-limited approximation for planet atmospheric escape
(惑星の大気散逸におけるエネルギー律速近似の限界を克服する)
惑星進化に関する研究では,大気散逸率の計算においてエネルギー律速の式が一般に使われる.これは単純であるために魅力的だが,重要な物理的効果を無視しており,多くの場合不正確になりうる.
この問題を打破するため,7000 グリッドの一次元高層大気流体力学モデルを開発した.これは水素主体大気の広いパラメータ範囲の惑星を計算し,質量放出率を計算することを目的としている.
グリッドの境界は,1 - 39 地球質量,1 - 10 地球半径,平衡温度 300 - 2000 K,中心星の質量 0.4 - 1.3 太陽質量,惑星の軌道長半径 0.002 - 1.3 au,恒星の X 線と極端紫外線光度が 1026 - 5 × 1030 erg s-1 である.
この計算から得られた値へのフィッティングを元にして,大気質量損失率の解析的な表式を導出した.この表式は,質量放出率を惑星質量,半径,軌道間隔,入射する高エネルギーフラックスの関数として表現したものである.
今回得られた表式は,広い惑星のパラメータにおいて質量放出率の推定値をエネルギー律速による近似よりも大きく改善した.ここでの解析的表式は,計算時間を増加させること無く,より正確な惑星進化計算を可能にする.
\[
\dot{M}_{\rm en} = \frac{\pi \eta R_{\rm pl} R_{\rm eff}^{2} F_{\rm XUV}}{G M_{\rm pl} K}
\]
ここで \(G\) は万有引力定数,\(R_{\rm pl}\) は惑星半径,\(R_{\rm eff}\) は 恒星の XUV 放射を吸収する有効半径,\(\eta\) は加熱効率,\(M_{\rm pl}\) は惑星質量.\(K\) はロッシュローブ効果を表すファクターである.
この式は,大気の散逸が流体力学的で,恒星の XUV フラックスによって駆動されている,従来のホットジュピターではよく機能する.しかし,強く輻射を受けた低密度の惑星では,大気散逸は惑星の内部の熱エネルギーと惑星自身の低重力の組み合わせによっても駆動されるため,エネルギー律速の式での近似では結果として得られる質量放出を著しく過小評価する.この状態は “boil-off” と呼ばれている.
また,静力学的な大気を持つ惑星で,質量放出がジーンズ散逸で支配されている場合は,大気散逸率を過大評価してしまう.
さらにこの式は,有効半径と加熱効率について事前の情報が必要になるが,これらを計算するには複雑なモデルが必要である.加熱効率は系のパラメータによって大きくは変動せず,最初の近似では 10% - 20% の間の値を取る一方,有効半径は大きく変化しうる
またこの式は,分子水素の解離と電離を考慮していない.さらに,流出する大気が超音速であるという事実も考慮されていない.流出する大気が超音速である場合,惑星大気に注入されたエネルギーの一部はガスの運動エネルギーという形で惑星から散逸する.
計算の下部境界と上部境界はそれぞれ,惑星の光球とロッシュローブである.
計算を速くするため,XUV のスペクトルは 2 波長に減らし,極端紫外線全体 (60 nm) と X 線全体 (5 nm) で分割している.また全てのモデルで加熱効率 15% を仮定して計算している.
arXiv:1810.06920
Kubyshkina et al. (2018)
Overcoming the limitations of the energy-limited approximation for planet atmospheric escape
(惑星の大気散逸におけるエネルギー律速近似の限界を克服する)
概要
惑星の大気組成,変動,進化の研究においては,重要な大気パラメータを推定するための適切な理論的及び数値的なツールが必要である.その中でも.惑星からの質量放出率はしばしば最も重要な要素となる.惑星進化に関する研究では,大気散逸率の計算においてエネルギー律速の式が一般に使われる.これは単純であるために魅力的だが,重要な物理的効果を無視しており,多くの場合不正確になりうる.
この問題を打破するため,7000 グリッドの一次元高層大気流体力学モデルを開発した.これは水素主体大気の広いパラメータ範囲の惑星を計算し,質量放出率を計算することを目的としている.
グリッドの境界は,1 - 39 地球質量,1 - 10 地球半径,平衡温度 300 - 2000 K,中心星の質量 0.4 - 1.3 太陽質量,惑星の軌道長半径 0.002 - 1.3 au,恒星の X 線と極端紫外線光度が 1026 - 5 × 1030 erg s-1 である.
この計算から得られた値へのフィッティングを元にして,大気質量損失率の解析的な表式を導出した.この表式は,質量放出率を惑星質量,半径,軌道間隔,入射する高エネルギーフラックスの関数として表現したものである.
今回得られた表式は,広い惑星のパラメータにおいて質量放出率の推定値をエネルギー律速による近似よりも大きく改善した.ここでの解析的表式は,計算時間を増加させること無く,より正確な惑星進化計算を可能にする.
研究背景
広く使われている質量放出率の近似としては,以下のようなエネルギー律速方程式 (Watson et al. 1981,Erkaev et al. 2007) がある.\[
\dot{M}_{\rm en} = \frac{\pi \eta R_{\rm pl} R_{\rm eff}^{2} F_{\rm XUV}}{G M_{\rm pl} K}
\]
ここで \(G\) は万有引力定数,\(R_{\rm pl}\) は惑星半径,\(R_{\rm eff}\) は 恒星の XUV 放射を吸収する有効半径,\(\eta\) は加熱効率,\(M_{\rm pl}\) は惑星質量.\(K\) はロッシュローブ効果を表すファクターである.
この式は,大気の散逸が流体力学的で,恒星の XUV フラックスによって駆動されている,従来のホットジュピターではよく機能する.しかし,強く輻射を受けた低密度の惑星では,大気散逸は惑星の内部の熱エネルギーと惑星自身の低重力の組み合わせによっても駆動されるため,エネルギー律速の式での近似では結果として得られる質量放出を著しく過小評価する.この状態は “boil-off” と呼ばれている.
また,静力学的な大気を持つ惑星で,質量放出がジーンズ散逸で支配されている場合は,大気散逸率を過大評価してしまう.
さらにこの式は,有効半径と加熱効率について事前の情報が必要になるが,これらを計算するには複雑なモデルが必要である.加熱効率は系のパラメータによって大きくは変動せず,最初の近似では 10% - 20% の間の値を取る一方,有効半径は大きく変化しうる
またこの式は,分子水素の解離と電離を考慮していない.さらに,流出する大気が超音速であるという事実も考慮されていない.流出する大気が超音速である場合,惑星大気に注入されたエネルギーの一部はガスの運動エネルギーという形で惑星から散逸する.
計算モデル
計算モデルは Kubyshkina et al. (2018) のものを使用する.これは一次元流体力学モデルであり,XUV 加熱と,水素解離,再結合と電離,ライマンアルファと H3+ の冷却を考慮している.計算の下部境界と上部境界はそれぞれ,惑星の光球とロッシュローブである.
計算を速くするため,XUV のスペクトルは 2 波長に減らし,極端紫外線全体 (60 nm) と X 線全体 (5 nm) で分割している.また全てのモデルで加熱効率 15% を仮定して計算している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.05776
Wilson Cauley et al. (2018)
Atmospheric dynamics and the variable transit of KELT-9 b
(KELT-9b の大気ダイナミクスと変動性トランジット)
また,同時に行った Hα 線と Hβ 線の観測結果を元に,球対称の大気構造を仮定して,励起された水素エンベロープの動径方向の広がりと密度に制約を与えた.
観測されたバルマー線の透過分布形状を再現するためには,惑星の自転によるスペクトル線の広がりは 12.0 km s-1 という大きさが必要であることが分かった.しかしトランジット中の分布は,非回転性の質量流の成分による影響を受けている可能性がある.
金属の吸収線と水素による吸収両方の時系列データは,特徴的な構造を示す.この構造から,トランジットの最中に観測された大気は静的ではなく動的であることが示唆される.
またトランジットの終わり付近で,相対的な放射の特徴が検出された,これは P-Cygni-like shape (はくちょう座 P 型プロファイル) と類似しており,これは物質が惑星から 50 - 100 km s-1 で遠ざかっていることを示すものである.
トランジット中の変動と,それに続くはくちょう座 P 型プロファイルの検出は,惑星大気を膨張させる原因となった恒星のフレアによるものだという仮説を立てた.これは,惑星の重力に束縛されていない物質が,恒星の輻射圧により高速に加速されたというものである.今後のさらなる分光トランジット観測が,このような事象の発生頻度を調べるのに役立つだろう.
可視光波長での観測では,原子の強いスペクトル線が一般にターゲットとされる.Na I D (ナトリウム),K I 7698 Å (カリウム) が代表例である,また,Hα 線は1 µbar 程度の圧力の熱圏の探査手段として使われている (Heng et al. 2015,Huang et al. 2017).
最近,He I 10830 Å (ヘリウム) が WASP-107b の広がった大気中から検出され,高温の惑星における質量損失の診断手法としてスペクトル線の有用性が示された (Spake et al. 2018; Oklop ̆ci ́c &Hirata 2018).
Kitzmann et al. (2018) では,この惑星では高温のため大部分の難揮発性分子が原子に分解されるため,可視光の波長域で Fe I と II 線 (鉄原子) が検出可能であることが指摘された.この予測は Hoeijmakers et al. (2018) による可視光の Fe I, II, Ti II 線の強い相互相関シグナルの検出によって証明された.
また,Yan & Henning (2018) では Hα での吸収を用いて,励起された水素の光学的に厚い層が惑星の周りに存在することを示し,この惑星からの質量放出率は 1012 g s-1 であると推定した.
相互相関技術はスペクトル中に多数のラインが存在する場合は強力な手法だが,Hα で見られるような強い (1% 程度の) 吸収とは対照的に,単一のトランジット中の個別のスペクトル線の弱い透過スペクトルの吸収を検出したい場合は,効率的な高分散分光器と口径 10 m クラスの望遠鏡の組み合わせが必要である.
観測には,Large Binocular Telescope (LBT,8.4 m 口径が 2 つセットになった大型双眼鏡) に搭載されている PEPSI 分光器を使用した.
惑星大気のマグネシウムの吸収は,系外惑星の質量放出率の推定に使用することができる (Bourrier et al. 2015).またマグネシウムは高温惑星大気中の重要な冷却源 (coolant) となる (Huang et al. 2017).
また,Yan & Henning (2018) で報告されていた Hα の測定結果を確認し,さらに Hβ の観測を用いて広がった水素大気のパラメータに追加の制約を与えた.Mg I とバルマー線吸収の大気モデルからは,惑星の自転速度はゼロではないのが好ましいという結果が得られた.
最後に,検出された全ての惑星大気の吸収線において,トランジット最中の変動の存在を観測した.また,大きく青方偏移した速度を,トランジットの終わり近くの透過スペクトル中に検出した.これらは,恒星のフレアイベントが原因であろうという仮説を提唱する.
KELT-9 大気中の水素の吸収は,Yan & Henning (2018) で得られていた結果と整合的であった.
Hα 線でのトランジット深さは 1.103% であった.これは過去の結果と非常に似ており,励起された水素層は観測時期によて変化していないことを示唆している.
Hβ 線でのトランジット深さは 0.783% であった.この深い吸収からは,惑星周囲の水素の層が光学的に厚いことが確認される.
大気中の金属による吸収線は,過去には Fe I,Fe II,Ti II が検出されている (Hoeijmakers et al. 2018).今回はこれらに加え,Mg I 5167.3, 5172.7, 5183.6 Å 三重項の吸収が検出された.
ただしこれらの吸収には,波長域が近いの Fe I, Fe II, Ti II 吸収線からの混合がある.三重項のうち,5172.7 Å での吸収は Fe と Ti の吸収波長から比較的離れており,このライン単独での吸収は 7.8σ の水準で有意であった.このライン以外の三重項でも同様の吸収が見られることから,Mg I の吸収による確度は高い.
しかしバルマー線での速度は,この惑星がスーパーローテーションであることを示唆している.
大気中の熱圏におけるジェットや,昼面から夜面への風は,大気の透過スペクトルの全体的な青方偏移を起こしうる.これらの特徴は,高温な惑星大気では自然に発生し,HD 209458b と HD 189733b では暫定的に検出されている (Snellen et al. 2010,Louden & Wheatley 2015).Hβ 線での暫定的な例外を除いて,今回のスペクトル中には明確な全体の青方偏移は見られない.しかし,トランジット中の変動に伴う速度が大気の風の速度を隠している可能性がある.
また,2 つのラインでの推定速度が違うことは,2 つの波長で大気中の異なる圧力領域を探査していることを示している可能性がある.Miller-Ricci Kempton & Rauscher (2012) では,磁気制動のない大気中では最大で 15 km s-1 の風が発生することが可能であり,この風が発生する圧力はバルマー線で探査できる領域と整合的である.
ジェットの風速が 5 km s-1 として,これに惑星の自転を組み合わせると,バルマー線で測定された大きな速度を説明するのに十分な値となる.これは将来的な観測で確認できると考えられる.
Yan & Henning (2018) では解析的な大気モデルを用いて,Hα の分布から質量放出率を 1012 g s-1 と推定した.
今回の Mg I の観測からは,Mg I のみの質量放出率は 9.7 × 106 g s-1 と推定される,マグネシウムの存在量が太陽金属量と等しいとすると,合計で 3 × 1011 g s-1 となる.
バルマー線でも同様の議論を行うと 3 × 1012 g s-1 となり,これは Mg I での推定より 1 桁多い.
質量放出に関しては,原子の準位の割合,惑星からのアウトフローの速度,惑星の元素存在度,電離度に関する推定の大きな不定性がある.しかし今回の推定値はいずれも,エネルギー注入計算から得られた Yan & Henning (2018) の予測する範囲内にある.
Hα と Fe II のトランジット中の速度は,トランジット中心の 0.03 日前に大きく赤方偏移を示す.これはトランジットの吸収が増加するときと類似している.この特徴は両方の波長で発生していることから,水素と鉄の両方の原子のポピュレーションは,大気の同じ領域を探査していることを示唆している.
その後,トランジット中心の 0.05 日後には放射の特徴が出現した.Fe II の速度は強く赤方偏移し,Hα は緩やかな青方偏移を継続するが,測定の大部分は速度 0 と整合的である.
金属とバルマー線の時系列は,トランジットの第三接触付近で有意な放射的特徴を示した.このスペクトル変化の特徴は, はくちょう座 P 型プロファイルの特徴と類似している.はくちょう座 P 型プロファイルは,明るい変光星周りに強い恒星風がある場合に見られる観測的特徴である.または,降着する前主系列星でも発生する.
観測された青方偏移の特徴は,物質が惑星から遠ざかるように,観測者の視線方向に 50 - 100 km s-1 まで加速されていることを示唆している.はくちょう座 P 型プロファイルは惑星のトランジット後即座に消滅したため,物質は惑星の非常に近傍にあると制約を与えることが出来る.
大気の熱的膨張だけでは観測された大きな青方偏移速度を再現できない.高速に加速するメカニズムとして,恒星の輻射圧が有力である.
arXiv:1810.05776
Wilson Cauley et al. (2018)
Atmospheric dynamics and the variable transit of KELT-9 b
(KELT-9b の大気ダイナミクスと変動性トランジット)
概要
ウルトラホットジュピター KELT-9b の広がった大気中から,可視光の波長域で Mg I triplet の吸収スペクトルを 7.8σ で分解して検出した.また,同時に行った Hα 線と Hβ 線の観測結果を元に,球対称の大気構造を仮定して,励起された水素エンベロープの動径方向の広がりと密度に制約を与えた.
観測されたバルマー線の透過分布形状を再現するためには,惑星の自転によるスペクトル線の広がりは 12.0 km s-1 という大きさが必要であることが分かった.しかしトランジット中の分布は,非回転性の質量流の成分による影響を受けている可能性がある.
金属の吸収線と水素による吸収両方の時系列データは,特徴的な構造を示す.この構造から,トランジットの最中に観測された大気は静的ではなく動的であることが示唆される.
またトランジットの終わり付近で,相対的な放射の特徴が検出された,これは P-Cygni-like shape (はくちょう座 P 型プロファイル) と類似しており,これは物質が惑星から 50 - 100 km s-1 で遠ざかっていることを示すものである.
トランジット中の変動と,それに続くはくちょう座 P 型プロファイルの検出は,惑星大気を膨張させる原因となった恒星のフレアによるものだという仮説を立てた.これは,惑星の重力に束縛されていない物質が,恒星の輻射圧により高速に加速されたというものである.今後のさらなる分光トランジット観測が,このような事象の発生頻度を調べるのに役立つだろう.
ホットジュピターの大気分光観測
ホットジュピターの大気観測は,透過光の分光観測を用いて行われてきた.これにより,惑星大気中の原子や分子種の存在,惑星の自転と風のダイナミクスの測定,ヘイズや雲層の検出などが可能となる.可視光波長での観測では,原子の強いスペクトル線が一般にターゲットとされる.Na I D (ナトリウム),K I 7698 Å (カリウム) が代表例である,また,Hα 線は1 µbar 程度の圧力の熱圏の探査手段として使われている (Heng et al. 2015,Huang et al. 2017).
最近,He I 10830 Å (ヘリウム) が WASP-107b の広がった大気中から検出され,高温の惑星における質量損失の診断手法としてスペクトル線の有用性が示された (Spake et al. 2018; Oklop ̆ci ́c &Hirata 2018).
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KELT-9b について
KELT-9b の概要
KELT-9b は,これまでに発見された中で最も高温な巨大ガス惑星である (Gaudi et al. 2017).スペクトル型 A0V/B9V の中心星 (有効温度は 10170 K) を 0.034 AU の軌道長半径で公転しており,昼側の平衡温度は 4600 K に達する.Kitzmann et al. (2018) では,この惑星では高温のため大部分の難揮発性分子が原子に分解されるため,可視光の波長域で Fe I と II 線 (鉄原子) が検出可能であることが指摘された.この予測は Hoeijmakers et al. (2018) による可視光の Fe I, II, Ti II 線の強い相互相関シグナルの検出によって証明された.
また,Yan & Henning (2018) では Hα での吸収を用いて,励起された水素の光学的に厚い層が惑星の周りに存在することを示し,この惑星からの質量放出率は 1012 g s-1 であると推定した.
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相互相関を用いた過去の観測
Hoeijmakers et al. (2018) による大気中の金属の検出は,3.58 m Telescopio Nazionale Galileo (TNG) の HARPS-N を用いて得られたトランジット中のスペクトルから,大量の理論的な鉄のライン吸収の相互相関を行うことで得られた.また Yan & Henning (2018) の Hα 観測も,Calar Alto Observatory の 3.5 m 望遠鏡を用いて同様の手法で行われている.相互相関技術はスペクトル中に多数のラインが存在する場合は強力な手法だが,Hα で見られるような強い (1% 程度の) 吸収とは対照的に,単一のトランジット中の個別のスペクトル線の弱い透過スペクトルの吸収を検出したい場合は,効率的な高分散分光器と口径 10 m クラスの望遠鏡の組み合わせが必要である.
主な結果
ここでは可視光波長域の Mg I 三重項の系外惑星大気からの初めての検出について報告する.観測には,Large Binocular Telescope (LBT,8.4 m 口径が 2 つセットになった大型双眼鏡) に搭載されている PEPSI 分光器を使用した.
惑星大気のマグネシウムの吸収は,系外惑星の質量放出率の推定に使用することができる (Bourrier et al. 2015).またマグネシウムは高温惑星大気中の重要な冷却源 (coolant) となる (Huang et al. 2017).
また,Yan & Henning (2018) で報告されていた Hα の測定結果を確認し,さらに Hβ の観測を用いて広がった水素大気のパラメータに追加の制約を与えた.Mg I とバルマー線吸収の大気モデルからは,惑星の自転速度はゼロではないのが好ましいという結果が得られた.
最後に,検出された全ての惑星大気の吸収線において,トランジット最中の変動の存在を観測した.また,大きく青方偏移した速度を,トランジットの終わり近くの透過スペクトル中に検出した.これらは,恒星のフレアイベントが原因であろうという仮説を提唱する.
KELT-9 大気中の水素の吸収は,Yan & Henning (2018) で得られていた結果と整合的であった.
Hα 線でのトランジット深さは 1.103% であった.これは過去の結果と非常に似ており,励起された水素層は観測時期によて変化していないことを示唆している.
Hβ 線でのトランジット深さは 0.783% であった.この深い吸収からは,惑星周囲の水素の層が光学的に厚いことが確認される.
大気中の金属による吸収線は,過去には Fe I,Fe II,Ti II が検出されている (Hoeijmakers et al. 2018).今回はこれらに加え,Mg I 5167.3, 5172.7, 5183.6 Å 三重項の吸収が検出された.
ただしこれらの吸収には,波長域が近いの Fe I, Fe II, Ti II 吸収線からの混合がある.三重項のうち,5172.7 Å での吸収は Fe と Ti の吸収波長から比較的離れており,このライン単独での吸収は 7.8σ の水準で有意であった.このライン以外の三重項でも同様の吸収が見られることから,Mg I の吸収による確度は高い.
議論
惑星の自転および大気の速度推定
Mg I 線とバルマー線の吸収から推定される惑星の自転速度は,それぞれ 6.0 km s-1 と 12 km s-1 である.Mg I 線での速度は,惑星の自転が中心星に対して潮汐固定されている場合と整合的である.しかしバルマー線での速度は,この惑星がスーパーローテーションであることを示唆している.
大気中の熱圏におけるジェットや,昼面から夜面への風は,大気の透過スペクトルの全体的な青方偏移を起こしうる.これらの特徴は,高温な惑星大気では自然に発生し,HD 209458b と HD 189733b では暫定的に検出されている (Snellen et al. 2010,Louden & Wheatley 2015).Hβ 線での暫定的な例外を除いて,今回のスペクトル中には明確な全体の青方偏移は見られない.しかし,トランジット中の変動に伴う速度が大気の風の速度を隠している可能性がある.
また,2 つのラインでの推定速度が違うことは,2 つの波長で大気中の異なる圧力領域を探査していることを示している可能性がある.Miller-Ricci Kempton & Rauscher (2012) では,磁気制動のない大気中では最大で 15 km s-1 の風が発生することが可能であり,この風が発生する圧力はバルマー線で探査できる領域と整合的である.
ジェットの風速が 5 km s-1 として,これに惑星の自転を組み合わせると,バルマー線で測定された大きな速度を説明するのに十分な値となる.これは将来的な観測で確認できると考えられる.
惑星からの質量放出
KELT-9b からの質量放出は,Gaudi et al. (2017) では 1010 - 1013 g s-1 と推定されている.推定値の範囲が大きいのは,恒星からの非熱的な放射と恒星の活動レベルに関する不定性に起因している.Yan & Henning (2018) では解析的な大気モデルを用いて,Hα の分布から質量放出率を 1012 g s-1 と推定した.
今回の Mg I の観測からは,Mg I のみの質量放出率は 9.7 × 106 g s-1 と推定される,マグネシウムの存在量が太陽金属量と等しいとすると,合計で 3 × 1011 g s-1 となる.
バルマー線でも同様の議論を行うと 3 × 1012 g s-1 となり,これは Mg I での推定より 1 桁多い.
質量放出に関しては,原子の準位の割合,惑星からのアウトフローの速度,惑星の元素存在度,電離度に関する推定の大きな不定性がある.しかし今回の推定値はいずれも,エネルギー注入計算から得られた Yan & Henning (2018) の予測する範囲内にある.
吸収の時系列からの大気流出の測定
金属の吸収線とバルマー線の両方は,興味深いサブ構造を示す.これはバルマー線で特に明確である.Hα と Fe II のトランジット中の速度は,トランジット中心の 0.03 日前に大きく赤方偏移を示す.これはトランジットの吸収が増加するときと類似している.この特徴は両方の波長で発生していることから,水素と鉄の両方の原子のポピュレーションは,大気の同じ領域を探査していることを示唆している.
その後,トランジット中心の 0.05 日後には放射の特徴が出現した.Fe II の速度は強く赤方偏移し,Hα は緩やかな青方偏移を継続するが,測定の大部分は速度 0 と整合的である.
金属とバルマー線の時系列は,トランジットの第三接触付近で有意な放射的特徴を示した.このスペクトル変化の特徴は, はくちょう座 P 型プロファイルの特徴と類似している.はくちょう座 P 型プロファイルは,明るい変光星周りに強い恒星風がある場合に見られる観測的特徴である.または,降着する前主系列星でも発生する.
観測された青方偏移の特徴は,物質が惑星から遠ざかるように,観測者の視線方向に 50 - 100 km s-1 まで加速されていることを示唆している.はくちょう座 P 型プロファイルは惑星のトランジット後即座に消滅したため,物質は惑星の非常に近傍にあると制約を与えることが出来る.
大気の熱的膨張だけでは観測された大きな青方偏移速度を再現できない.高速に加速するメカニズムとして,恒星の輻射圧が有力である.
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