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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.11568
Keppler et al. (2018)
Discovery of a planetary-mass companion within the gap of the transition disk around PDS 70
(PDS 70 周りの遷移円盤のギャップの中の惑星質量伴星の発見)

概要

若い星周円盤は惑星が誕生する場所であり,それに関する研究は惑星形成が起きている時の物理的と化学的な状況を理解する上で重要である.

現在のところ,星周円盤の中にある惑星候補天体の検出例は非常に少ない.またそれらの大部分は,円盤の構造に起因する特徴ではないかという疑義も呈されている.
この点において,若い恒星 PDS 70 まわりの遷移円盤は特に興味深い観測対象である.これは,過去の観測では円盤に大きなギャップが存在することが同定されており,これは進行中の惑星形成を示す特徴である可能性があるからである.

ここでは,円盤内に埋まっているかもしれない若い惑星の探査と,円盤と惑星の相互作用やその他の進化過程の結果として形成される円盤構造の探査を目的とした解析を行った.

VLT/SPHERE,VLT/NaCo と Gemini/NICI 装置を用いて観測された,PDS 70 周りの遷移円盤の近赤外画像の,新しい観測データおよび過去のアーカイブデータをあわせて解析した.観測は,偏光微分撮像 (polarimetric differential imgaing, PDI) と角微分撮像 (angular differential imaging, ADI) モードの 2 種類を用いている.

その結果,天球上に投影した間隔が 195 mas (~ 22 au) の位置にある,円盤中のギャップの中に点源を検出した.この点源は,5 つの異なる観測時期において検出が確認された,また,3 つのフィルターバンドと異なる装置を用いて存在が確認された.

天体の位置測定の結果から,検出された点源は高い信頼度で中心星に重力的に束縛されていると推定される


点源について,測定された等級と進化トラック上での色を比較した.その結果,検出された点源は惑星質量の伴星であることが示唆された
検出された天体の光度は,スペクトル型が L 型の矮星のものと整合的であるが,赤外線では赤っぽい色を示す.これは,天体周囲に温かい周辺物質が存在している可能性を示唆するものである.

さらに散乱光画像中には,~ 54 au サイズの大きなギャップの検出を確認した.また内側の円盤要素からのシグナルも検出された.この空間的な広がりは半径 ~ 17 au よりも小さい可能性が非常に高く,位置角は外側円盤のものと整合的である.

外側円盤の画像は,方位角方向の輝度分布が複雑である可能性を示す,分布は波長によって異なり,非常に小さい粒子からのレイリー散乱で説明できる可能性がある.

背景

原始惑星系円盤中の惑星候補天体の検出

遷移円盤 (transitional disk) は,スペクトルエネルギー分布 (spectral energy distribution, SED) において,円盤を持つ若い恒星に比べて近赤外線での超過が著しく減少した天体として初めて同定された.また,最近の高分解能撮像観測では,円盤中の大きなギャップの存在,方位角方向の非対称性,渦状腕,複数のリング構造などの多様な特徴が検出されている.

多くの場合,円盤の空洞領域やサブ構造は,これらの若くガスが豊富な円盤の中に存在している.これらの特徴は,しばしば円盤内で進行中の惑星形成のトレーサーであると解釈され,また惑星と円盤の相互作用に起源を持つと思われてきた.

円盤内で形成中の惑星を観測するのは非常に難しい.これは円盤からの放射がしばしば惑星の放射を隠してしまうためである.そのため,円盤内の惑星を検出するためには,高コントラストの高角度分解能観測が必要である.

現在のところ,このような検出は少数の天体のみで報告されている.HD 100546 (Quanz et al. 2013,Brittain et al. 2014,Quanz et al. 2015,Currie et al. 2015),LkCa 15 (Kraus & Ireland 2012,Sallum et al. 2015),HD 169142 (Quanz et al. 2013,Biller et al. 2014,Reggiani et al. 2014),MWC 758 (Reggiani et al. 2018) である.

しかしこれらの検出の大部分は,現在疑義が呈されている (Tameau et al. 2017,Ligi et al. 2018).
角微分技術を用いた高コントラスト撮像観測によって円盤中の惑星候補として同定された点源は,非対称構造を持つ円盤での明るい点と混同される場合がある.

PDS 70 まわりの円盤

今回の目的は,前主系列星 PDS 70 (V1032 Cen) を高コントラストで撮像観測することである.

この天体はスペクトル型が K7 の天体で,Scorpius-Centaurus association の一部である Upper Centaurus-Lupussubgroup (UCL) の一員である.距離は 113.43 pc (Gaia Collaboration et al. 2016,2018) である.

強いリチウム吸収を示すことと,原始惑星系円盤が存在していることから,この天体は若いと推定されている (1000 万歳程度以下).これは理論的にも確認されている.
また,最近のガイアのデータリリース (Gaia DR2) を受けて,この恒星の視差が初めて判明した.これにより初めて距離の詳細な推定ができ,距離推定を元に天体の年齢は 540 万 ± 100 万歳と推定された.


SED で赤外超過が測定されているため,この天体が円盤を持つことが示されていた (Gregorio-Hetem & Hetem 2002,Metchev et al. 2004).

この円盤の空間分解された画像は Riaud et al. (2006) で報告されている.また同時に伴星候補天体の検出も報告されている.ただしこの伴星候補は,後に無関係の背景天体と判明した (Hashimoto et al. 2012).

PDS 70 までの距離は 113.43 pc,スペクトル型は K7,有効温度は 3972 K である.また,1.26 太陽半径,0.35 太陽光度,0.76 太陽質量である.

観測・解析結果

惑星質量伴星の検出

観測と解析の結果,中心星から 195 mas,位置角 155° の場所に点源を検出した.この点源は,複数の観測装置を用いて同じ場所に検出された.

また Hashimoto et al. (2012) でのアーカイブデータも解析した.その論文では,伴星候補の非検出を報告している (上で言及した背景天体とは別のもの).ただしその解析は ~ 200 mas よりも外側の領域を考慮したものである.このデータセットを再解析した結果,今回の検出から予想される位置に点源を検出した.

天体の位置測定

天体の位置測定の解析も行った.
その結果,点源は中心星に追随していると考えられる.伴星であった場合,距離は ~ 22 au に相当する.中心星の質量が 0.76 太陽質量であると仮定すると,公転周期は ~ 119 年となる.

この公転周期の場合,惑星の軌道面が地球から見て face-on である場合,1 年に 3° ずれる計算になる.そのため,観測期間全体では 12.5° ずれることになる.これは観測結果とよく合う.

さらに,観測された位置角の変化方向は時計回りであり,これは円盤の回転の向きと対応している (Hashimoto et al. 2015).そのため face-on 軌道を持ち,円盤と一緒に回転している天体であると考えられる.

ただし位置天文測定での比較的大きな不定性と,データの取得期間の短さを考慮すると,詳細な軌道は不明である.大きく傾いていたり,離心率の大きな軌道である可能性もあり,将来的な観測で明らかになると考えられる.

過去の検出報告との比較

点源の検出は,複数の観測時期で,いくつかの異なる装置,フィルターバンド,画像処理アルゴリズムで検出された.そのため,機器や大気によるアーティファクト (speckle) の可能性は否定できる.

また点源の位置変化から,中心星に重力的に束縛されている天体であると予測される.

いくつかの原始惑星系円盤内の伴星候補天体の正体については,現在議論の最中である.これは,これまでの候補天体は全ての参照可能な波長で整合的に検出が報告されていないことが原因である.

円盤中の惑星を誤認する可能性には複数の要因が存在する.

例えば,ADI 過程は空間周波数フィルターとして働くため,鋭く非対称な円盤構造を増幅してしまう可能性がある.これを広がった円盤構造に適用すると,ねじ曲がった構造や,物理的な構造とは関連しないアーティファクトを作り出してしまうことがある.従ってADI でデータを処理したとき,リングや渦状腕やクランプなどの円盤構造は,点源と誤って解釈される可能性がある.

HD169142 まわりに検出が報告されている点源の一つは (Biller et al. 2014,Reggianiet al. 2014),円盤の内側領域での非一様なリング構造に由来していることが示されている (Ligi et al. 2018).

HD100546 まわりには 2 つの伴星候補天体が発見されているが, (Quanz et al. 2015,2013,Currie et al. 2015,Brittain et al. 2014),最近の GPI と SPHERE を用いた観測ではすべての波長で点源状には見えず,その正体については議論がある (Rameau et al. 2017,Folette et al. 2017,Currie et al. 2017).

LkCa 15 では,3 つの伴星候補が検出されている (Kraus & Ireland 2012,Sallum et al. 2015).しかし Thalmann et al. (2016) は,検出されている惑星候補の位置は,円盤の明るく近い側の内側要素の位置と一致することを指摘している,そのため,検出が報告されている原始惑星と思われるシグナルの少なくともいくらかは,この内側円盤の影響だと指摘している.

なお,LkCa 15b の位置からは Hα 放射が検出されているため,3 つの伴星候補のうちこの候補だけが,LkCa 15 系内での原始惑星として説得力のある検出報告である.

天体の性質の推定

スペクトルの特徴

点源は複数の波長で検出されており,その色を比較することが出来る.その結果,PDS 70b は非常に赤い色を示すことが分かった.

この色が天体の光球での放射によるものだとすると,この赤い色は L 型の天体か,あるいは赤化した背景天体かのどちらかのみと一致する.しかしこの天体の固有運動の観測からは,後者である可能性は非常に低い.

進化モデルを用いた質量推定

この天体の質量を推定するために,天体の進化モデルを使用した.

惑星の種族合成モデルにおいて,形成されるガス惑星は 4 つの異なる集団に分類できる,hottest, hot, warm, coldest の 4 種類である.これは円盤が消失した時の,質量の関数としての天体の光度に基づくクラス分けである (Mordasini et al. 2017).

これらの中で hottest と coldest のグループが,それぞれ最高と最低の光度を示す.また hottest と coldest の惑星はそれぞれ,古典的な hot-start と cold-start の形成モデルに対応している.これらは惑星形成段階の 2 つの両極端なケースであり,hottest (hot-start) は惑星形成過程の間に,ガス降着衝撃による光度が全て惑星内部に持ち込まれた場合,反対に coldest (cold-start) は全て輻射で失われた場合に対応するものである.
これらは後に,より現実的な hot-start と cold-start のモデルに置き換えている.

ここでは,hottest, hot と warm の場合を考慮.このシナリオでは,観測された等級を再現するには惑星質量は 10 木星質量程度より大きい必要があると推定される.進化モデルを考慮すると,hot-start の場合は 5 - 9 木星質量,warm では 12 - 14 木星質量と推定される

まとめ

・今回使用した全てのデータセットで,円盤は明確に検出された,また,過去に報告のあった ~ 54 au サイズのギャップの存在を確認した.

・内側円盤からの散乱光を初めて検出した.輻射輸送モデルと比較した結果,内側円盤の位置角は外側円盤と概ね同じであることが判明した.内側円盤は pole-on ではなく,最大半径は < 17 au である.

・円盤の反対側は手前側よりも PDI 画像では明るいが,ADI では手前側が明るい.これは円盤がフレアアップ構造であることと,小さいサブミクロンサイズ粒子からのレイリー散乱の組み合わせで説明可能である.

・中心星から 195 mas,位置角 155° に点源を検出した.この点源は 5 つの異なる時期で検出された.点源の位置天文からは,赤化した背景天体と混同している可能性は考えづらく,天体は中心星に重力的に束縛されていると考えられる.4 年間に渡る位置天文の観測結果からは,円盤内での惑星候補天体の軌道運動の初めての兆候を見ている可能性がある.位置天文のフォローアップ観測で軌道運動を確定し,軌道要素を制約できるだろうと考えられる.

・伴星の測光結果から,天体は赤い色をしていると判明した.進化モデルと比較すると,ダストが多いか,雲の多い大気を持った若い惑星質量天体だというシナリオが最もあり得る可能性である.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
Orosei et al. (2018)
Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
(火星の氷層下の液体の水のレーダーによる証拠)

概要

火星の極冠の底に液体の水が存在するという可能性は長い間言われてきたが,これまでに観測はされていなかった.

ここでは,マーズ・エクスプレスに搭載されている低周波レーダーである MARSIS (Mars Advanced Radar forSubsurface and Ionosphere Sounding) を用いて,Planum Astrale (アウストラレ平原,南方の平原という意味) 領域をサーベイした.

レーダー分布は,2012 年 5 月 - 2015 年 12 月の間に取得した.データ中には,South Polar Layered Deposits (SPLD,南極堆積層) の氷の下に液体の水が存在するという証拠が見られた
火星の東経 193 度,南緯 81 度を中心とする,幅が 20 km のはっきりした領域には,異常に明るい地下での反射を示す領域があり,その領域はずっと暗い反射をする領域に囲まれている.

レーダーシグナルの定量的な解析からは,明るい反射を示す領域は高い比誘電率 (> 15) を持つこことが分かった.この特徴は,含水物質によるものと一致した.従ってこの特徴は,火星の地下に安定した液体の水の層が存在することによる特徴と解釈される

氷層下の液体の水のレーダー探査

火星における地下水のレーダー探査

火星の極冠の底に液体の水が存在するという仮説は 30 年以上前に提唱されていたが,これまでに結論は出ていなかった.

Radio echo sounding (RES,レーダーエコー測定) は,この論争を解決するのに適した技術である.低周波のレーダーは地球の極域氷層の底にある液体の水を広範囲かつ首尾よく検出するために用いられてきた.氷と水の境界面,あるいは氷と水が飽和した堆積物との境界面では,明るいレーダー反射が起きるため,地下に存在する水の層を検出することが出来る.

MARSIS では,12 年以上に渡って火星地下のの液体の水の証拠を探査してきた.その結果,南極の極冠にある SPLD の最も厚い部分の近くの領域で,強いエコーが検出された.これらの特徴は,レーダーの減衰が無視できる,純粋な水氷の非常に低温な層を通過するレーダーシグナルの伝播による特徴だと解釈される.
異常に明るいレーダー反射は,SPLD のその他の領域でも検出された.

地球でのレーダー探査との比較

地球上では,極域の氷層の上で測定されたレーダーのデータは,定性的 (岩盤の形態学) と定量的 (反射されたレーダーピークパワー) な分析の組み合わせに基づいて解釈される.しかし,MARSIS の設計,特に footprint (レーダー到達範囲) が非常に大きいという制約があるため,高い空間分解能は得られない.そのため,岩盤形態の形状から氷河の下の水域の存在を識別する能力は大きく制限される.

従って,極域の堆積物の底における液体の水を明確に検出するためには,レーダーエコーの強度を決定する,基盤の物質の比誘電率 (以下,単に誘電率とする) の定量的な評価を行う必要がある.

アウストラレ平原でのレーダー探査

2012 年 5 月 - 2015 年 12 月の間に,MARSIS でアウストラレ平原の 200 km 幅の領域が探査された.この領域は,過去に探査された領域と概ね対応している.

この領域は,Mars Orbiter Laser Altimeter (MOLA) によって測定された地理学的なデータにも,また火星周回軌道上からの画像にも,これと言った特徴は示さない.

地形的には平坦であり,10 - 20% のダストが混入した水氷で構成されている.季節によっては非常に薄い二酸化炭素の層で覆われるが,その厚さが 1 メートルを超えることはない.


この領域の観測では,観測された大部分の領域では堆積物下部の基盤での反射は,弱く拡散的であった.しかしある場所では,非常に鋭く,大きな強度 (明るい反射) を起こしていることが判明した

観測結果の解析と解釈

レーダー反射層の深さの推定

表面と基盤でのエコーの 2 方向のパルス移動時間から,地表下の反射体が存在する深さを推定し,基盤の地理学をマッピングできる.

SPLD 内でのレーダーシグナルの平均速度を 170 m/µs と仮定する.これは,水氷での値と近い.この場合,基盤の反射体は地下 1.5 km に存在すると推定できる

レーダー反射層の誘電率の推定

誘電率からは,基盤の物質の組成に制約を与えることが出来る.この誘電率は,原理的には SPLD の基盤における反射シグナルの強さから復元することが出来る.

しかし残念ながら,MARSIS アンテナの放射パワーは不明である.これは,機器の寸法が大きいため地上で電波の放射強度を較正することが出来なかったことが原因である,従って,地下で反射されたエコーの強度は相対量でしか考慮することが出来ない.火星表面でのエコーで地下でのエコー強度を規格化するという手法が一般的である.

基盤での誘電率を計算するためには,SPLD の誘電特性を知る必要がある.これは組成や温度に依存する.

水氷とダストの正確な混合比率は不明であり,また火星表面と SPLD の底部の間の温度勾配もあまりよく制限されていない.そのため,これらのパラメータが取りうる値の範囲を調査し,それに対応する誘電率を計算した.

ここでは,以下のような一般的な仮定を置いた.
(i) SPLD は水氷とダストの混合物からなっており,ダストの割合は 2 - 20%.
(ii) SPLD 内での温度分布は線形で,表面温度は 160 K に固定する.また,SPLD の底部での温度は 170 - 270 K とする.

その結果,明るいレーダー反射を示す領域では,3, 4, 5 MHz の周波数での誘電率の値は,それぞれ 30 ± 3,33 ± 1,22 ± 1 となった.一方,その周囲の暗い領域ではそれぞれ 9.9 ± 0.5,7.6 ± 0.1,6.7 ± 0.1 となった.

明るい反射を示す領域以外での基盤の誘電率は 4 - 15 の間であり,これは乾燥した地球の火山岩に典型的な値である.また,この値は過去の火星での測定値とも整合的である.

対照的に,明るいレーダー反射を示す領域では高い誘電率が得られた.これらは,これまでの火星では観測されなかった値である.

地球上の場合,乾燥した物質で 15 より大きい誘電率の値を示すことはほとんど無い.また,南極やグリーンランドで取得されたデータでは,15 を超える誘電率は,極域の堆積物の下にある液体の水の存在を示唆している.

地球と火星の類推から,SPLD の下の明るいレーダー反射領域から復元された高い誘電率の値は,(部分的に) 水で飽和した物質および,または液体の水の層に起因するものであるということが推定できる

議論

液体の水以外の可能性について

その他の可能性についても調査を行った.

例えば,SPLD の上部もしくは下部に二酸化炭素の氷の層が存在しているという可能性,あるいは SPLD 全体を通じて非常に低温の水氷の層があるという可能性である.これらは,表面での反射と比較して基盤でのエコー強度を増幅させうる.

しかし,これらの可能性は否定される.
これらが発生しうるのは非常に特別な状況であり,実現できなさそうな物理状況を満たしている必要があるからである.あるいは,基盤での十分に強い反射を引き起こすことが出来ないからである.

また,SPLD の底部での圧力と温度は,液体の二酸化炭素が存在しうる状況と同程度になり得る.しかし液体の二酸化炭素が存在した場合の相対的な誘電率は 1.6 程度であり,液体の水が存在する場合の 80 程度よりもずっと低い.そのため,観測されている明るいレーダー反射を再現できない.

地下水の存在を支持するその他の結果

火星探査機フェニックスの Wet Chemistry Lab を用いて発見された,火星の北部平原の土壌中の一定量のマグネシウム,カルシウムとナトリウムの過塩素酸の存在は,極域の堆積物の底に液体の水が存在することを支持している.

極域堆積物の底での温度は 205 K 程度と推定されている.また過塩素酸は水の凝固点を大きく低下させる.過塩素酸マグネシウムの場合は 204 K,過塩素酸カルシウムの場合は 198 K にまで凝固点を下げる.そのため,過塩素酸塩水の層が極域堆積物の底に存在する可能性がある

火星における液体の水の存在について

過去のレーダー探査では火星の氷層の下から液体の水の層が検出されなかったことに基づき,火星の極冠は基盤にある氷が溶融するには薄すぎるという仮説が支持されていた.またいくらかの研究者は,火星地下の液体の水はそれまでに考えられていたよりも深くに位置している可能性があると述べていた.

MARSIS のデータは,SPLD の下の比較的浅い場所 (1.5 km 程度) でも液体の水は安定であることを示すものである.従って火星の水圏のモデルに制約を与える結果である.


SPLD の生データがカバーする領域は限られており,アウストラレ平原の領域の数%のみが観測されているのみである.

また,溶けた水の領域を MARSIS で検出するためには,その領域が直径で数キロメートル,厚さが数十センチメートルと大きなサイズである必要がある.そのため,小さい液体の水領域や,それらが繋がっている構造を同定できる可能性も限られている.
そのため,火星の地下の水の存在は単一の場所に限定されていると結論付ける理由はなく,その他の領域にも存在している可能性がある.






ニュースにもなった,火星の地下に湖が存在している可能性があるというレーダー観測に関する論文です.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



Non-gravitational acceleration in the trajectory of 1I/2017 U1 (‘Oumuamua)
Micheli et al. (2018)
Non-gravitational acceleration in the trajectory of 1I/2017 U1 (‘Oumuamua)
(オウムアムアの軌跡における非重力的加速)

概要

‘Oumuamua (1I/2017 U1) (オウムアムア) は,恒星間空間に起源を持ち,太陽系内に入ってきたことが知られている初めての天体であり,太陽に重力的に束縛されておらず太陽に対して双曲線軌道を描く.

この天体が太陽系に滞在している最中に,多数の物理的な観測が行われた.その結果,この天体が異様に細長い形状を持ち,タンブリング回転をしていることが明らかになった.

オウムアムア表面の物理特性は彗星核のものに類似しているが,観測からは彗星活動の存在は検出されていない.

天体の運動はほとんどは重力によって決まるが,彗星の軌跡は彗星からの脱ガスによる非重力的な力によっても影響される.しかし非重力的加速は,重力による加速よりも少なくとも 3 - 4 桁小さいので,純粋に重力のみの影響を受けた時の軌道からのずれを検出するためには,長期間に渡る高品質の位置天文学観測を要する.
結果として,非重力効果は限られた小天体のみにおいて測定されている (Królikowska 2004).


ここでは,オウムアムアの運動における非重力的加速が 30 σ の信頼度で検出されたことを報告する

地上と宇宙空間からの集中的な観測によって得られた撮像データを解析した.解析からは,観測機器によるバイアスを排除した,
その結果,オウムアムアの全ての位置天文学データは,太陽中心の動径方向の加速度として \(r^{-2}\) か \(r^{-1}\) に比例する力を非重力的成分としてモデルに含んだ場合によく記述できることが分かった.

オウムアムアに非重力的な力を与えている原因としては複数考えられるが,太陽輻射圧,引力的な力,摩擦的な力,大きく磁化した天体の太陽風との相互作用,天体がいくつかの空間的に分割された天体から構成されていたり,見かけの中心と質量中心の間に明らかなずれを持つことによる幾何学的な効果の影響に関しては否定される.
物理的に可能性のある説明としては,彗星的な脱ガスによるものである可能性がある.つまり,オウムアムアは実際には彗星に似た熱的特性を持っていると考えられる.

脱ガスによる非重力的な加速度項

オウムアムアのアストロメトリ観測の結果,この天体の軌跡を説明するためには,(4.92 ± 0.16) × 10-6 m s-2 の余分な加速度項が必要であることが判明した.これは,30σ の信頼度で非重力的な加速の存在を検出したことに対応する.

この加速度が天体からの脱ガス由来だとすると,水の生成率は 1.4 AU 付近で 1.5 kg s-1,一酸化炭素は 2.1 kg s-1 が必要である.この値は検出限界よりも十分低いため,OH の脱ガスが分光観測から検出されていないこととは矛盾しない.

しかし上記で示唆された水の生成率を元にすると,CN が検出されていないこと,および太陽系における CN と OH の存在比を考慮すると,オウムアムアでは CN が大きく欠乏した組成になっている必要があると考えられる.

また,モデルではオウムアムアでのダスト生成率は 0.4 kg s-1 であるとも予測される.これはオウムアムアの撮像観測で検出出来ているはずの生成率である.
しかし,もし生成されるダスト粒子が数百マイクロメートルからミリメートルよりも大きいもので占められている場合は,可視光の波長では検出されないだろう.例えば太陽系内天体では,2P/Encke (エンケ彗星) が近日点付近で小さいダストが欠乏していることが知られている.

その他の非重力的な影響に関する考察

オウムアムアに非重力的な影響を及ぼしうる候補としては,(1) 太陽輻射圧,(2) ヤルコフスキー効果,(3) 速度ベクトルに沿った摩擦状の効果,(4) 速度の衝撃的変化,(5) 連星あるいは分裂した天体,(6) 光学的な中心のずれ,(7) 磁化した天体 が挙げられる.

しかし後述するように,これらの効果は物理的に非現実的であるか,あるいはオウムアムアの観測を説明するには不十分である.

(1) 太陽輻射圧

動径方向に働く加速度で \(r^{-2}\) に比例し,また太陽の方向とは反対方向に働く力として最もシンプルなものは,太陽輻射による圧力 (放射圧,輻射圧) である.この効果は,いくつかの小さい小惑星では検出されている.

しかしオウムアムアの場合,観測された非重力的な加速度を太陽輻射圧で実現するためには,オウムアムアの密度が不当に低くなければならない.具体的には,同程度のサイズを持つ太陽系小惑星の典型的な密度よりも 3 - 4 桁低い密度でないと,観測を説明することが出来ない.

(2) ヤルコフスキー効果

宇宙空間で自転する天体は,熱的光子の非等方放射による小さい力を受ける.これがいわゆる Yarkovsly effect (ヤルコフスキー効果) である.

これも太陽輻射圧の場合と同様に,観測を説明するには,オウムアムアが極めて低密度である必要がある.

またこの効果は主に軌道に沿った方向の動きに影響を与えるが,これは観測データとは合わない.

(3) 速度ベクトルに沿った摩擦状の効果

摩擦や引力に似た現象のようないくつかの力学的効果は,天体の運動方向に沿っている傾向があり,太陽中心の動径ベクトルの方向には沿わない傾向がある.

しかしこれらの効果は観測を説明するのには不十分なばかりではなく,引力的な現象は負である必要があると考えられるにもかかわらず,正の値を持つ.従ってオウムアムアの軌跡を説明することが出来ない.

(4) 速度の衝撃的変化

これは,単一の衝撃的な速度の加速現象が発生したと考えるモデルである.例えば何らかの衝突による加速が発生した場合などである.

しかし衝突を含んだオウムアムアの軌跡のモデルは,動径方向の加速のみのモデルよりも観測データとは合わない.

更に重要なことに,観測期間の離れたデータ中においても,オウムアムアに働く非重力的な力の兆候は検出されている.そのため,短時間での衝突によるような加速ではなく,連続的な加速によると考えた方がもっともらしい.

(5) 連星あるいは分裂した天体

連星や分裂した形状の天体の場合は,それらの重心が純粋な重力的な軌道に従うことになる.

この状況で,連星の片方や分裂した天体の主要な部分のみを観測していた場合,重心からずれた場所を観測している影響によって,天体に非重力的な加速度が働いているかのように見える可能性がある.

しかし,そのような二次的天体や破片は,オウムアムアより数等級暗いものまでこれまでの観測データ中には見られていない.また観測からは,オウムアムアの 100 分の 1 サイズの天体が付随している可能性は否定できないが,そのような非常に小さい天体では,観測されているほどの軌跡への影響を引き起こすことが出来ない.

(6) 光学的な中心のずれ

オウムアムアは,位置天文で測定される位置中心と,天体の質量中心の間に大きなズレを生じさせるような表面特性を持っている可能性もある.つまり,光学的に観測したときの天体のみかけの中心と,天体の重心が大きくずれているという状況である.

しかし,オウムアムアに対して考えうる最も長い天体の広がりの 800 m (アルベドが 0.04 と低い値) を仮定した場合でも,2 つの参照点の最大間隔は,地球に最近接した場合でも 0.005” に過ぎない.これは,重力のみを考慮した時の軌跡と,観測された位置のずれを説明するには数桁小さい値である.

(7) 磁化した天体

もしオウムアムアが強い磁場を持っていた場合,太陽風との相互作用がオウムアムアの運動に影響を及ぼす.

オウムアムアが双極磁場を持つと仮定し,さらにプラズマ流体モデル,典型的な太陽風速度と陽子数密度を仮定した.その場合,磁化していることによって受ける加速度は 2 × 10-11 m s-2 であり,これは観測を説明できる値よりも 105 小さい.
この状況は,小惑星 (9969) Braille で測定されている強い磁化と密度を採用した場合でも同じである.

脱ガスによる加速

上記までで挙げられていないもののうち,オウムアムアに非重力的な加速度を生じさせている可能性があるのが,天体からの脱ガスによるものである.これは,オウムアムアがミニチュア版の彗星として振る舞っていることが前提となっている.

オウムアムアのスペクトル,および目立った彗星活動は見られないという観測事実からは,この天体は断熱的な薄いマントルを持った彗星天体であるという仮説が提唱されている (スペクトル的には彗星核に近い特性を持っている).オウムアムアが脱ガスによる加速度を受けているという説は,この仮説と整合的である.
また,脱ガスによる非重力的な加速度は,その他の太陽系の彗星でも観測されている.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.10958
Hobson et al. (2018)
The SOPHIE search for northern extrasolar planets XIII. Two planets around M-dwarfs Gl617A and Gl96
(北天の系外惑星の SOPHIE による探査 XIII.M 型矮星グリーゼ617A とグリーゼ96 まわりの 2 惑星)

概要

M 型星 Gl 617A (グリーゼ617A)Gl 96 (グリーゼ96) の周りに,2 つの系外惑星を発見した.また,暫定的な候補天体も検出した.Observatoire de Haute Provence (オート・プロヴァンス天文台) の SOPHIE 分光器を使った視線速度の観測からの発見である.

グリーゼ96 の周りでは,軌道周期 73.9 日,最小質量 19.66 地球質量の新しい系外惑星 Gl 96b (グリーゼ96b) が発見された.軌道離心率は 0.44 であり,M 型星回りの惑星としては最も軌道離心率が大きいものの一つである.

グリーゼ617A の周りでは,最近発見が報告された軌道周期 86.7 日・最小質量 31.29 地球質量の惑星 Gl 617Ab (グリーゼ617Ab) を独立して発見した.

グリーゼ96b とグリーゼ617Ab の両方共に,恒星周りのハビタブルゾーン内を公転している可能性がある,しかしグリーゼ96b は軌道離心率が大きく,近点付近では中心星に近付き過ぎると考えられる.

パラメータ

グリーゼ617A 系

グリーゼ617A
スペクトル型:M1
等級:V = 8.896
質量:0.60 太陽質量
自転周期:28.8 日
有効温度:4186 K
光度:0.1069 太陽光度
金属量:[Fe/H] = 0.19
グリーゼ617Ab
軌道周期:86.78 日
軌道離心率:0.07
軌道長半径:0.323 AU
最小質量:28.55 地球質量
グリーゼ617Ac (未確定)
軌道周期:496.0 日
軌道離心率:0.15
軌道長半径:1.036 AU
最小質量:27.26 地球質量
グリーゼ617A 系について
この恒星周りでは,CARMENES チームによって軌道周期 86.54 日の惑星の存在が報告されている (Reiners et al. 2017).そこで推定された最小質量は24.7 地球質量であり,2 σ で整合的である.

グリーゼ96 系

グリーゼ96
スペクトル型:M2
等級:V = 9.345
質量:0.60 太陽質量
自転周期:29.6 日
有効温度:3785 K
光度:0.0888 太陽光度
金属量:[Fe/H] = 0.14
グリーゼ96b
軌道周期:73.94 日
軌道離心率:0.44
軌道長半径:0.291 AU
最小質量:19.66 地球質量

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.09911
Schaefer et al. (2018)
The KIC 8462852 Light Curve From 2015.75 to 2018.18 Shows a Variable Secular Decline
(2015.75 から 2018.18 までの KIC 8462852 の光度曲線が示す変動性のある永年減光)

概要

KIC 8462852 (通称:Boyajian’s Star) は,数日のタイムスケールでの 20% の急速な減光と,年から世紀のタイムスケールでの最大 19% の長周期の永年的な減衰の両方を示す.この天体の,2015.75 から 2018.18 までの CCD 測光観測について報告する.

光度曲線は,B バンドで 0.023 等の継続的な永年的減少と,それに重なった 120 - 180 日の期間の 3 回の減光を示した.これは,1 日から 1 世紀までの長さの連続した減光期間が存在していることを示しているため,永年的な減光はケプラーで測定された短周期の減光と同じ物理機構によるものであると考えられる.

B, V, R, I バンドでの光度曲線は全て同じ形状を示し,V, R, I バンドでの減光の振幅は,B バンドより系統的に 0.77, 0.50, 0.31 倍であった.

観測結果から,この減光の原因について,中心星を他の恒星や惑星,固体天体,あるいは光学的に厚い雲による掩蔽を含んだ仮説は否定される.
しかし観測された減光深さの各バンド間での比率は,ダスト雲による一般的な減光に期待される傾向と同じであった.

この色依存性のある減衰からは,中心星の光を遮っているダスト粒子サイズは, ~ 0.1 ミクロン程度のサイズであることが示唆される,そのためダスト粒子は,恒星の輻射圧によって急速に吹き流されると考えられる.従って,ダスト雲は数ヶ月の間に形成されて供給されなければならない.
観測された減光の特徴は,星周ダストに起源を持つ減光と整合的であった.

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